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シンガポール法律コラム:第11回 シンガポールにおけるFlexible Work Arrangement (FWA)の導入について(前編)

2024年07月15日(月)

「シンガポール法律コラム:第11回 シンガポールにおけるFlexible Work Arrangement (FWA)の導入について(前編)」と題したニュースレターを発行いたしました。シンガポール法律コラムは、今後も引き続き連載の予定となります。
こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

シンガポール法律コラム:第11回 シンガポールにおけるFlexible Work Arrangement (FWA)の導入について(前編)

 

シンガポール法律コラム
第11回 シンガポールにおけるFlexible Work Arrangement (FWA)の導入について(前編)

2024年7月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎

 みなさん、こんにちは。One Asia Lawyers Group (Focus Law Asia LLC)です。今号でではシンガポールにおける柔軟な勤務形態(Flexible Work Arrangement (FWA))の導入についてご紹介します。FWAとは従業員が柔軟に勤務時間や勤務場所を選べるようにし、仕事とプライベートのバランスを取りやすくする取り組みとなっています。シンガポールにおけるFWAの推奨や2024年の労働法改正に伴った職場公正法(Workplace Fairness Legislation)の導入を通じて、国内の労働環境や制度に関する見直しがなされました。

1 柔軟な勤務形態(Flexible Work Arrangement (FWA))について

 FWAとは、雇用者と従業員が一般的な勤務形態とは異なる形態に変更することを柔軟に交渉、合意、そして実施するための取り決めです。この取り決めは、政府、雇用者、従業員の代表、人材開発省(Ministry of Manpower (MOM))、全国労働組合会議(NTUC ))、全国雇用者連盟(SNEF))で構成されている政労使連合(Tripartite Alliance for Fair and Progressive Employment Practices (TAFEP))が、公平かつ持続可能な雇用慣行を目的として積極的に推進しています。FWAを導入することによって、従業員が仕事関連と個人関連双方のコミットメントをよりバランスよく果たせるようになります。

 近年においてFWAに対する注目度が上がった背景には新型コロナウィルス(COVID-19)のパンデミックが挙げられます。コロナ禍の自粛期間中、テレワーク等の従来とは異なる労働形態が普及し、それに伴ってFWAの必要性も高まりました。ポストコロナの現在、企業にとって持続可能であり、従業員の柔軟性へのニーズに応えられるFWAが重要視されています。

2 柔軟な勤務形態に関する三者構成ガイドライン(Tripartite Guidelines on Flexible Work Arrangements (TG-FWAR) )について

 従業員はどのようにFWAを申請し、利用すべきか、そして雇用者はどのようにFWA申請を取り扱うべきかの具体的な内容は「柔軟な勤務形態に関する三者構成ガイドライン」(Tripartite Guidelines on Flexible Work Arrangements (TG-FWAR) )に定められています。2024年4月16日に発表され、2024年12月1日に適用されるTG-FWARはシンガポールの全ての雇用者に対して、従業員からのFWAの正式な申請を公正に検討するための最低要件を義務付けています

3 FWAの三つのカテゴリー

TG-FWARにおいて、FWAは以下の三つのカテゴリーに分類されています。

4 FWAに対するレコメンデーション

 シンガポール政府は、FWAに関する10のレコメンデーションを受け容れました。この10のレコメンデーションはFWAに関する適切な規範と期待を確立することを目的とし、従業員がFWAを要請するプロセス、雇用者がこれらの要請を管理するプロセスの概要を記載しています。

(1)職場規範の確立:FWAの申請と検討に関する明確な職場規範を確立すること
(2)利用時の明確化:FWAの申請・検討のプロセスの際にガイダンスを提供すること
(3)FWAの検討:雇用者はFWAの申請があった場合、申請を真摯に検討しなければならないこと
(4)正式な申請の要件:必要な情報が揃った正式なFWA申請の手続きを明確化すること
(5)対象者の明確な定義:試用期間を終了した全従業員を対象とすること
(6)求職者に対する説明:求職者からのFWA申請を考慮するよう雇用者に義務付けること
(7)全ての雇用者を対象:中小企業を含む全ての会社を対象とすること
(8)教育の実施:従業員に教育を行わなければならないこと
(9)コミュニケーションの強化:FWAを通じて、会社と従業員の連携を密にすること
(10)雇用者への支援:会社への支援を強化し、企業員団体と連携して研修を拡大すること

5 レコメンデーションを受けて会社側に必要な具体的アクション

 上記の10のレコメンデーションを受けて、会社が行うべきことをまとめると、以下の通りとなります。

(1)ポリシー・フォームの策定、就業規則・雇用契約の修正

FWAの申請手順、申請フォーム、検討基準、利用ガイド等を文書化し、例えばFWAポリシーとして全従業員に共有し、それに合わせて、就業規則・雇用契約書などを修正する必要があります。これらの作成には適切な専門家に相談することが推奨されます。

(2)説明会の実施

定期的に説明会を実施し、上記のポリシー・フォーム、就業規則・雇用契約書の修正の内容、FWAの趣旨、利用方法などを説明する説明会を実施し、従業員からの質問などを解消することが推奨されます。

 次回は、柔軟な勤務形態(Flexible Work Arrangement, FWA)の導入について後編をお送りいたします。

 

※本稿は、シンガポールの週刊SingaLife(シンガライフ)において掲載中の「シンガポール法律コラム」のために著者が執筆した記事を、ニューズレターの形式にまとめたものとなります。