日本:建設業法の改正について
日本の建設業法の改正についてのニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
日本:建設業法の改正について
2024年8月22日
One Asia Lawyers Group
One Asia法律事務所大阪オフィス
弁護士 江副 哲
1. はじめに
建設業における労働力確保等の課題を受け、令和6年の通常国会において、「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、改正後の建設業法(以下「改正建設業法」といいます。)の一部規定は、令和6年9月1日に施行されます。改正建設業法は、労働者の処遇改善、資材高騰などに伴う契約変更に係るルール、情報通信技術(ICT)の活用等に関し、義務ないし禁止規定等が追加、変更されており、多くの建設事業に影響が生じる改正となることから、関連事業者様におかれましてはご注意いただきたく、本ニューズレターにて、同法の概要・留意点等について解説いたします。(なお、以下で法令名称の記載がない条文は改正建設業法を指します。)
2.改正建設業法の概要
⑴ 背景
建設業においては、従来、他産業と比較して労働者の賃金が低く、就労時間も長い傾向にあることから、その担い手不足が深刻な問題となっています。そのため、今般、建設業の担い手を確保し、建設業が「地域の守り手」等の役割を果たしていけるよう、労働者の処遇改善、労務費へのしわ寄せ防止、さらには働き方改革や現場の生産性向上を図る措置が盛り込まれた改正建設業法が制定されるに至りました。
⑵ 労働者の処遇改善
ア 労働者の処遇確保を努力義務化
改正建設業法では、建設業者に対し、労働者への適正な賃金支払いや適切な処遇確保のための措置を効果的に実施するよう、努力義務が課されます(25条の27第2項)。なお、かかる建設業者による措置の実施状況等については、国が調査をし、調査結果が公表されるほか、同結果は国土交通省に置かれた中央建設業審議会へ報告されます(40条の4)。
イ 適正な労務費等の確保と行き渡り
改正建設業法においては、現行法で規定されている事項に加え、「労務費に関する基準」(標準労務費)が中央建設業審議会で作成され、その実施が勧告されることとなりました(34条2項)。なお、この労務費の基準は、審議会でのワーキンググループにおいて検討される予定です。
また、見積書作成の点では、労務費や材料費などの額について、その建設工事を施工するために通常必要と認められる額を著しく下回る見積りが禁止されます。さらに、注文者側についても、交付を受けた材料費等の見積書の内容を考慮するよう努力義務が課され、通常必要と認められる労務費や材料費などの額を著しく下回るような変更を建設業者に求めてはならないとされました。この点、発注者がこれに違反して請負契約を締結した場合、国土交通大臣又は都道府県知事による勧告、公表等の措置を受けることがあります(以上、20条)。
ウ 原価割れ契約の禁止
現行法上でも、注文者が取引上の地位を利用し、不当に低い請負代金とする請負契約を締結することは禁止されていますが、改正建設業法では、受注者である建設業者においても、原価に満たない請負代金の額とする請負契約締結が禁止されます(19条の3第2項)。
エ 小括
中央建設業審議会で検討される標準労務費の具体的内容については今後確認する必要がありますが、上記のとおり、見積りないし請負契約締結における適正な費用確保がより強く求められる結果、労働者への労務費の行き渡り、ひいては労働者の処遇改善を目指すものとなっています。
⑶ 資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止
ア 契約前のルール
現行法において、注文者は、工期又は請負代金の額に影響を及ぼすおそれのある事象(リスク)の情報を建設業者に対して提供しなければならないとされています。
これに加え、改正建設業法では、受注者である建設業者に対しても、資材の供給減少や価格高騰などの請負額に影響を及ぼすリスク情報を、契約締結前に注文者へ通知することが義務化されました(20条の2第2項)。また、資材高騰などの価格変更に基づく請負代金等の額の変更のみならず、その額の算定方法についても、契約書の記載事項として明確化されました(19条1項8号)。
イ 契約後のルール
契約締結後、建設業者が注文者へ通知していた資材高騰などの事象が発生した場合、受注者は、注文者に対し、契約書の定めに従った協議を申し出ることができ、この申出を受けた注文者は、誠実に当該協議に応ずる努力義務を負います(20条の2第3項及び4項)。なお、公共工事発注者の場合は、誠実に協議に応ずる「義務」を負うとされています。(改正後の入札契約適正化法13条2項)。
ウ 小括
契約締結前のリスク情報提供を受注者である建設業者に求めることで、資材の供給減少や価格高騰などが発生した場合に、建設業者が請負代金額等の変更について、より円滑に協議できるようになることが期待されます。
⑷ 働き方改革と生産性向上
ア 工期ダンピング対策を強化
建設業における労働者の長時間労働を抑制するため、注文者だけでなく受注者に対しても、著しく短い工期とする契約締結(いわゆる工期ダンピング)が禁止されます(19条の5第2項)。
イ ICTの活用による生産性向上
また、ICTの活用を要件に、現場技術者の専任義務が緩和される(26条3項、26条の5)ほか、多くの下請業者を使う特定建設業者や公共工事受注者に対しては、情報システムの整備など、ICT活用に関して必要な措置を講ずる努力義務が課され、効率的な現場監理が求められることとなります。なお、このような建設業者のICT活用に関する措置については、国が指針を作成、公表します(25条の28)。
さらに、公共工事発注者への施工体制台帳の提出義務についても合理化され、ICTの活用により発注者が施工体制を確認できるよう措置を講じている場合は、台帳の提出を省略できるようになります(改正後の入札契約適正化法15条2項)。
ウ 小括
2024年4月から、建設業においても時間外労働の上限規制が適用されることに伴い、長時間労働の是正をはじめとする働き方改革は重要課題であり、建設業者においては、既存の業務体制の見直しなど、上記改正の趣旨に沿った対応が求められます。
3.その他関連法令の改正
公共工事に関しては、令和6年6月19日、「公共工事の品質確保の促進に関する法律等の一部を改正する法律」が公布・施行されました。公共工事の契約は、競争契約方式が原則であり、従来、随意契約によることができるのは、少額の工事や災害時などの緊急を要する工事等に限定されていたところ、上記の公共工事品確法改正により、公募においてほかに受注者がいないことが確認されれば随意契約によることができる旨の規定が新設されました(改正後の公共工事品確法21条)。
これにより、地域においてインフラの維持工事など受注が見込まれる会社が少ない工事についても、入札の実施に比べて簡便な手続で行える随意契約が可能となり、建設業が「地域の守り手」の役割を果たすべく、建設業者の地域における対応力強化を図るものとなっています。
4.今後の事業活動における留意点
建設業法の上記改正のうち、建設工事の請負契約締結状況、リスク情報の通知又は協議状況等に係る国の調査・公表・報告の規定、並びにそれを踏まえた審議会での労務費の基準作成・勧告に係る規定は、本年9月1日に施行されます。建設業の関連事業者様におかれましては、国により今後検討、作成される指針や基準の内容を注視しつつ、法改正後の建設業者に対する禁止事項や義務規定に合わせた対応が求められます。実務において、その内容によっては判断に悩むケースが出てくることも想定されますので、適宜ご相談いただければと存じます。