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贈収賄および腐敗防止条項 ― サプライヤーが知っておくべきこと

2024年10月16日(水)

贈収賄および腐敗防止条項に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

贈収賄および腐敗防止条項 ― サプライヤーが知っておくべきこと

 

贈収賄および腐敗防止条項 サプライヤーが知っておくべきこと

2024年10月
One Asia Lawyers Group
オブ・カウンセル
カナダ(ケベック州)法弁護士
マシュー・スターンズ

1.はじめに

企業がサプライチェーンに倫理的義務を課す傾向が強まる中、売買契約やサービス契約に贈収賄防止条項や腐敗防止条項を盛り込むことがますます一般的になってきています。このような条項がどのように機能するかだけでなく、その背後にある合理性を理解することは、サプライヤーが契約書にこのような条項が含まれることをどのように管理すべきかをよりよく理解するのに役立ちます。

2.贈収賄および腐敗防止条項とは?

売買契約における贈収賄・腐敗防止条項とは、商品やサービスを購入する側が、サプライヤーに対して贈収賄や腐敗行為を行っていないことを表明することを求める条項です。これらの条項における贈収賄と腐敗行為は、機能的に同じ意味を持っていますつ。すなわち、意思決定に影響を与えたり、利益を得たりするために、公務員に金銭やその他の利益を不当に支払うことです。これらの条項には、贈収賄や腐敗行為の正確な定義が含まれることもありますが、常に含まれるわけではなく、多くの場合、これらの言葉の一般的な意味に依存しています。

贈収賄の一般的な禁止に加え、これらの条項には特定の贈収賄防止法(通常、米国海外腐敗行為防止法(FCPA)と英国贈収賄禁止法(Bribery Act 2010)のいずれかまたは両方)への言及が含まれることが多くあります。これらの法律はいずれも域外適用、つまり自国の法域外に適用されます。FCPAは米国内で行われる行為だけでなく、米国企業や米国に上場している企業など、米国と正式なつながりを持つ事業体が行う行為にも適用されます。英国贈収賄禁止法は、英国に法人がある、または英国で「事業または事業の一部を営む」個人または企業が世界のどこで行う行為にも適用されます。両法は公務員への不正な支払いを阻止することを目的としており、何が犯罪となるかを幅広く定義しています。FCPAは、不正な支払いを犯罪とするだけでなく、企業に対して適正な帳簿と記録の保存を義務付けています。両法は、企業やその上級管理職が実際に不適切な支払いを知らなかったとしても、その支払いを許可していたとしても責任を負わせることとしています。最後に、これらの法律はいずれも、違反に対して多額の罰金や懲役刑を含む厳しい罰則を課すことができ、これらの法律に基づき訴追された例は数多くあります。

3.贈収賄・腐敗防止条項を売買契約に盛り込む理由

贈収賄やその他の腐敗行為がビジネス環境に悪影響を及ぼすことは一般的に認められており、この点だけでもほとんどの契約にこの種の条項が盛り込まれる論拠となりますが、サプライヤー契約にこのような条項が盛り込まれることが増えたのには特定の要因があります。

最も明白なのは、FCPAと英国贈収賄禁止法の適用範囲が広く、重大な結果をもたらすことから、これらの法律がもたらすリスクを真剣に考える企業が増えていることです。これらの法律に基づく潜在的な防御策の一つは、企業が監視と防止を含む強固なコンプライアンス・システムを確立していることを示すことができることです。コンプライアンス・システムの一環として、サプライヤーとの契約に腐敗防止条項を盛り込むことがあり、これが、このような条項が一般的になりつつある主な理由です。実際、米国政府がFCPAに基づく問題を回避する方法について提供したガイダンスでは、サプライヤーが腐敗防止条項の受け入れを拒否した場合、それは「危険信号(red flag)」であるとしています。

腐敗防止法によって企業が直面するリスクに加え、企業、特に北米と欧州の大企業は、規制当局、株主、活動家から、自社の行動が最低限の倫理基準を満たしているかどうかの監視を強められています。このような監視、特に活動家の圧力は、企業が贈収賄防止条項や腐敗防止条項をサプライヤー契約に盛り込んでいるかどうかで格付けされることを意味します。

この観点から見ると、これらの条項は、必ずしも主に、賄賂などの非倫理的な行為からサプライヤーを捕まえたり止めたりすることを目的としているわけではないことがわかります。実際、ほとんどの取引関係は当事者間の信頼関係の上に成り立っており、契約の相手方が贈収賄に関与しないという一般的な期待があります。むしろこのような条項は、企業のコンプライアンス要件を満たすために契約に盛り込まれています。つまり、この条項の含めることは、必要であれば交渉することができますが、サプライヤーが妥協できるものではないということです。

腐敗防止条項におけるサプライヤーの課題

上記の背景は、企業が契約書に腐敗防止条項を盛り込む理由を理解する上で有用です。特に、腐敗防止条項の排除を推し進めることは、米国政府のガイダンスによって「危険信号(red flag)」として認識されているという事実は、サプライヤーがそのような条項に抵抗する際には細心の注意を払う必要があることを意味します。たとえサプライヤーが米国や英国とのつながりがなく、それらの法律が適用されないとしても、そのような条項への反発は企業にとって危険信号とみなされるリスクがあり、いずれにせよ、企業がそのような条項の削除に同意する可能性は極めて低いでしょう。

とはいえ、サプライヤーは相手方から提示された条項をそのまま受け入れる必要はありません。このような条項の起案方法は多種多様であり、サプライヤーは、合意する条項について納得できることを確認すべきです。腐敗防止条項において考慮すべき問題点は以下の通りです。

  • 誰に対して適用されるのか、また表明・保証に関する限定条件はあるのか:企業内のいかなる人物による不正な支払いも対象とする条項と、上級管理職の知る限りにおいて行われた不正な支払いにのみ適用される条項とでは、かなりの違いがある。
  • ファシリテーション・ペイメントの除外:多くの法域、特に発展途上国では、企業が政府役人に職務を遂行させるためにファシリテーション・ペイメント(行政サービスに係る手続きの円滑化等を目的とした少額の支払いのこと)を行うことを認めている。政府役人への支払いをすべて対象とするような広範すぎる腐敗防止条項は、このような支払いにも抵触する可能性があるため、条項の文言ではこのような種類の支払いを除外すべきである。この文脈において、FCPAがこのような支払いに適用されないことは興味深いことといえる。
  • 期間:多くの場合、企業は腐敗防止条項を遡及的に適用するよう提案する。これは合理的ではない。取引関係が始まる前に起こり得た行為について、企業はリスクを負っていないのだから、サプライヤーに遡及義務を課す根拠はない。
  • 監査権:腐敗防止条項の中には、当事者の一方が他方を監査する権利を含むものがある。特にリスクの高い特定のケースでは、このような条項を主張することもできるが、一般的にはこのような要求は過剰であるとみなされる。


広義に見れば、腐敗防止条項は、相手方が違法な腐敗行為に手を染めず、会社に責任を負わせないようにするための有効な手段ではありますが、無関係な契約違反を宣言したり、共同契約者の帳簿や記録への自由なアクセスを提供したりする手段を提供すべきではありません。

コンプライアンス体制

顧客から課される贈収賄防止条項または腐敗防止条項の中で合理的で受け入れられるものと拒否すべきものを検討することに加え、サプライヤーは腐敗や贈収賄からビジネスを守るためにどのような社内対策を講じるべきかを検討すべきです。

腐敗及び贈収賄に対する法的責任から自身を守るために、FCPAまたは英国贈収賄禁止法の適用による上記のリスクに加え、サプライヤーは自国の法域またはサプライヤーが活動する法域における腐敗防止法を考慮する必要があります。例えば、日本では、贈収賄防止に関連する2つの重要な法律、不正競争防止法(平成5年法律第47号)(UCPA)及び刑法(明治40年法律第45号)があります。これらの法律はいずれも域外適用の要素を持っているため、日本企業が日本国外で事業を営んでいても適用することができます。企業は、どのような腐敗防止法が適用されるかを明確にし、それに応じて保護対策を策定する必要があります。

企業が検討すべき保護対策の詳細は、業種や事業展開する法域によって異なりますが、一般的に腐敗防止コンプライアンス・プログラムを策定することはこの観点から有用です。コンプライアンス・プログラムの詳細は本稿の範囲外ですが、一般的に以下の要素が含まれます。

  1. トレーニングと意識向上:従業員に対し、腐敗防止に関する規制や倫理基準について定期的に研修を行う。
  2. 統制の実施:強力な内部統制を確立し、潜在的な違反を検知・防止するための監視・ 報告メカニズムを構築する。これには、企業のサプライヤーに腐敗防止を課すことも含まれる。
  3. デューデリジェンスと監査:第三者ベンダーや代理店に対するデューデリジェンスと監査を実施し、彼らが贈収賄防止基準を遵守していることを確認するとともに、潜在的なリスク領域を特定するためのコンプライアンス・プログラムを実施する。

もちろん、これらすべてのステップを実施することが常に可能であるとは限らず、また、すべてのステップが常に必要であるとは限らないため、企業の実際の贈収賄防止コンプライアンス・プログラムは、適用される法律、企業の状況、リスク、能力などに照らして慎重に検討する必要があります。

4.結論

近年の売買やサプライヤー契約における贈収賄防止・腐敗防止条項の急増は、特定の法的リスク、特に域外適用される特定の法律、また株主や活動家の圧力によって引き起こされています。このことは、たとえ当該法律が自社に適用されなくても、サプライヤーがこのような条項を排除することは現実的に期待できないことを意味します。しかし、贈収賄や腐敗に関連する管理可能なリスクのみに適用され、無関係または不必要な契約違反のリスクにさらされることのないよう、条項を確実に作成することは可能です。さらに、これらの条項とそれが提起する問題について考える機会を得たことにより、企業は適格な法的助言を受けて、独自の腐敗防止コンプライアンス・プログラムを策定することができます。