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日本:裁判例の紹介 ~日々雇用の労働者に労働契約法19条2号が類推適用された事案~

2025年07月14日(月)

日本における裁判例~日々雇用の労働者に労働契約法19条2号が類推適用された事案~についてのニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

裁判例の紹介 ~日々雇用の労働者に労働契約法19条2号が類推適用された事案~

 

裁判例の紹介
~日々雇用の労働者に労働契約法192号が類推適用された事案~

2025年7月14日
One Asia Lawyers 東京オフィス
弁護士 山本博人
弁護士 楠 悠冴

第1 概要 

 近年の裁判例(大阪高裁令和6年1月19日労働判例1327号13頁、以下、「本裁判例」といいます。)において、日々雇用の労働者に対し、労働契約法(以下、「法」といいます。)19条2号を類推適用するという判断がなされた事案があります。
 法19条2号は、雇止めが認められない場合の1つとして、「当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。」を規定しています。このように、同号は、有期労働契約の更新について定めた規定であるのに対し、一日の労働に対し使用者が賃金を支給し、その一日の労働が終了すれば労働契約自体も終了するという、そもそも契約の更新という状況が想定しづらい日々雇用の労働者に対して、同号が類推適用されたという点で、本裁判例は特徴的であると言えます。
 雇止め法理が適用される場合には、当該労働契約が更新されることとなるため、同号の適用があるか否かは非常に重要な問題であるといえ、法19条2号を類推適用した本裁判例が実務に与える影響に注視する必要があります。以下、その概要及び解説を説明いたします。

第2 事案の概要及び判旨

1 本件訴訟に至るまでの経緯

(1) 原告(控訴人、以下「A」といいます。)は、昭和33年生まれの男性であり、平成4年夏頃、被告(被控訴人、以下、「B社」といいます。)に正社員として入社し、一時雇用が中断した時期があったが、平成6年9月5日、再度、労働契約を締結し、平成11年頃までの間、ミキサー車を運転し工事現場に生コンを運ぶ業務に従事していました。B社が、平成11年頃、経営難に陥ったことから、人員整理によって希望退職を募ったところ、Aがこれに応募し、同年3月20日付けでB社を退職し、退職金の支給を受けました。
(2) Aは、B社を退職後も、B社の下で、他の日雇労働者に優先して、1か月13日ないし18日程度稼働する状態が続いていました。退職後における稼働日の決定は、B社がAに稼働を求めるときは前日に稼働の可否を確認することを基本とし、Aに対して特定の日の就労が義務付けられることはありませんでした。賃金については、毎稼働日の終了時に現金で支払いがなされており、また、Aは、B社の下で稼働しない日について日雇労働求職者給付金を受給していました。
(3) 平成29年8月25日、B社が甲賀公共職業安定所長から、Aについて、その就労実態等に照らし、日雇労働被保険者から一般被保険者に切り替える必要がある旨の行政指導を受けました。これを受けて、B社はAに対し、日雇労働求職者給付金を受給できるようにするため、別の事業所でも稼働するように要請したが、Aはこれを拒絶しました。労働組合は、B社に対し、Aを正社員として認め、一般被保険者として取り扱うよう求めたが、B社は、Aを正社員とは認めない一方で、AをB社の一般被保険者として加入させること、基本給に加えて指導手当を支給することを認めました。これによって、AのB社における賃金総額は1か月50万円近くとなりました。
(4) 以上のような状況の中、平成30年7月、B社の代表者が逮捕及び起訴されたことを受け、B社は、所属する大津生コンクリート協同組合から、同年12月の1か月間、生コンの出荷自粛を要請されました。B社は、同年12月27日、Aに対し、「平成30年12月1日から1か月間出荷自粛を余儀なくされております。」「来月1月以降も不確定であり、従来のような雇用は不可能となります。」と記載がある書面及び雇用保険被保険者離職票(以下、併せて「本件通知書」といいます。)を交付し、以降、Aに稼働を求めることはありませんでした。

2 本件訴訟におけるAの主張及び判旨

(1) Aの主張
 Aは、B社が行った解雇又は雇止めの本件通知が無効であることを理由とし
  ①労働契約上の地位を有することの確認
  ②未払い賃金の支払い
 等を求めました。
 (2) 地裁の判旨(大津地裁令和4年2月25日労働判例1327号28頁)
 地裁は、以下のような理由(法19条2号についての記載のみ要約して記載。下線は筆者により加筆)から、Aの主張を棄却しました。

原告と被告間の労働契約の内容は日雇契約であると認められるところ,日雇契約は,労働者が一日の労働力を提供し,使用者がこれに対する賃金を支給するもので,その一日の労働が終了すれば労働契約自体も終了するのであるから,労働契約法19条を直ちに適用することはできない(同規定の類推適用が問題になり得るにとどまる。)。
①原告は,被告の正社員として稼働していたところ,平成11年に退職金を受け取ったうえで被告を一度退職し,その後は日雇契約を前提として被告において稼働していたといえること
②被告は,甲賀公共職業安定所長の行政指導を受けて,原告に対し,別の事業所でも稼働するように伝えたが,原告はこれを拒絶したこと(したがって,被告が積極的に原告を一般被保険者としたものではない。)
③本件通知当時,原告が,被告における勤務条件と同程度ないしそれ以上の条件で他の事業所において稼働することが困難であったと認めるに足りる証拠もないことの各点からすれば,雇用継続の合理的期待を生じさせる事情があったとまではいえない。


(3) 高裁の判旨(大阪高裁令和6年2月13日労働判例1327号15頁)
 高裁は、以下のような理由から(同様に、法19条2号の適用についての判示のみ抜粋、下線は筆者により加筆)、一審の判決を変更し、Aの未払賃金等の支払請求を一部認容しました。

日々雇用においては、特定の使用者との間で雇用関係が事実上継続されることがあったとしても、その間には雇入れがされない日も存在することから、契約更新による継続的な法律上の労働契約関係の存在を認めることはできない。しかし、控訴人は被控訴人の下で1か月当たり少なくとも13日程度以上の稼働が長年月にわたって続けられていたものであって、このような場合、日雇労働者において、従前と同程度の稼働が認められる状態が継続することについての期待の存在やそれに対する保護の必要性は、有期労働契約の更新の場合と異なるものではないといえる。したがって、日雇の労働者について、労働契約法19条2号の類推適用の余地があるというべきである

第3 分析

1 法19条が立法化される前の事例ではありますが、日々雇用の労働者について、雇止めの法理が適用された事案があります(最決平成17年5月16日(判例番号【L06010239】)、以下「平成17年決定」といいます。)。なお、平成17年決定の高裁判決(東京高裁平成14年11月26日労働判例843号20頁)が多く引用されています。
  この事案では、約14年間にわたり日々雇用の関係で勤務していた配膳人(ホテルのスチュワード)への雇止めが問題となっており、①14年間という長期間にわたり日々雇用の関係を継続してきたこと、②当該労働者が平成8年以降、週5日勤務を継続していたこと(使用者側が平成11年5月11日以降の雇用契約の存在を否定している事案)、③労働条件に関して当該労働者についてほかの配膳人により高い基準での合意をしてきたこと、④雇止め当時、当該労働者が当該使用者のホテルにおける勤務条件と同程度ないしそれ以上の条件で、ほかのホテルにスチュワードとして勤務することは困難であったこと等の理由から、これらの事情を総合して、当該労働者と当該使用者の間の雇用関係においては、雇用関係のある程度の継続が期待されたものであり、当該労働者におけるこの期待は法的保護に値するとし、当該使用者による当該労働者の雇止めには、解雇に関する法理が類推され、社会通念上相当と認められる合理的な理由がなければ雇止めは許されないと解するのが相当であると判断されました(原審において、このような判断がなされ、最高裁においては上告棄却となりました。)。
2 上記裁判例と、本件を比較すると、以下のとおりです。

  本裁判例 平成17年決定
雇用期間 約19年間(平成11年~平成30年)
(正社員時代を含めると合計約26年(平成4年~平成30年))
約14年間
勤務頻度 1か月13日ないし18日程度稼働する状態が続いた 平成8年以降、週5日勤務を継続していた
他の労働者との差 他の日雇労働者に優先して、1か月13日ないし18日程度稼働する状態が続いた 賃金総額は1か月50万円近くであった(正社員の時代に劣らない手厚い待遇を受けていたと認められる) 労働条件に関して当該労働者についてほかの配膳人により高い基準での合意をしてきた
他の場所での就業可能性 本件通知当時既に60歳に達していた労働者が、使用者より支給されていた賃金水準と同程度の条件で他の事業所で稼働するのは困難であることが見込まれる 雇止め当時、使用者における勤務条件と同程度ないしそれ以上の条件で、ほかのホテルにスチュワードとして勤務をすることは困難であったこと等の事情が認められる


  このようにみると、本裁判例と平成17年決定には多くの共通点があるといえます。
  そもそも、法19条第1号又は第2号の要件該当性について説明する通達(平成24年8月10日基発0810第2号「労働契約法の施行について」第5、5、⑵、ウ)では、法第19条第1号又は第2号の要件に該当するか否かは、「これまでの裁判例と同様、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無などを総合考慮して、個々の事案ごとに判断されるものである」とされています。これらの要素は、日々雇用の労働者の雇止めが問題となった上記2つの裁判例についても同様に検討されている要素であるといえます。
  また、本裁判例の原々審判決(大阪地裁令和4年2月25日労働判例1327号28頁)では、法19条2号の類推適用を認めなかったものの、本裁判例や平成17年決定とは異なり「本件通知当時、原告が、被告における勤務条件と同程度ないしそれ以上の条件で他の事業所において稼働することが困難であったと認めるに足りる証拠もない」と認定していることから、他の場所での就業可能性も重要な要素となるのではないかと考えられます。
  また、本裁判例の原々審判決は法19条2号の類推適用を認めなかったのに対し、本裁判例が同号の類推適用を認めたことにつき、地裁判決が「単に当該日雇労働者にほかの事業所における稼働可能性があったということを殊更重視していたのに対し、高裁では、仮にそのような事情があったとしても、長い年月にわたりかつ安定的に継続されてきた稼働実績があった本件においては、雇用継続の合理的期待の存在が否定されるに至らないと判断したことが、1審と控訴審で具体的適用の場面において結論が別れたことの背景事情であるように思われる」とする分析もあります[1]

第4 結語

 以上、簡潔ではありますが、法19条2号の類推適用を認めた本裁判例についての説明となります。
 法19条2号の類推適用を認めた類似の裁判例がほとんどないことからも、そもそも本件のようなケースは稀であるように思われます。また、日々雇用の労働者に対し、1か月あたり従前と同程度の日数の稼働をする日々雇用の存在を認めた点でも注目に値します。
 本裁判例自体は特殊な前提を踏まえた事例判断とも考えられますが、19条2号の適用対象が広がったという点で、本裁判例及び今後の実務の動向には着目する必要があると言えます。

以上

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[1] 労働判例1327号15頁