電子商取引に関する消費者保護規則の改正 ~マレー語表記の義務化~
マレーシアにおける電子商取引に関する消費者保護規則の改正によってマレー語表記が義務化される点についてのニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
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電子商取引に関する消費者保護規則の改正
~マレー語表記の義務化~
2025年8月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士 橋本 有輝
マレーシア法弁護士 Najad Zulkipli
1.はじめに
マレーシア政府は、電子商取引取引に関する消費者保護規則(Consumer Protection (Electronic Trade Transaction) Regulations 2024)」(以下「本規則」)の施行を発表した。本規則は、従来の2012年に施行されたものを置き換えるものであり、オンラインプラットフォームを通じてマレーシア国内の消費者に商品またはサービスを提供するローカルの販売者・事業者を対象とするものである。
本規則は、典型的には、Shopee、LazadaといったECサイトにおいて、商品を販売している事業者に課されうる。このように、本規則は、マレーシアにおけるウェブ上のマーケットプレイスで商品を販売する企業に影響があるため、ここで取り上げた。
2.企業に求められる留意点
(1) バハサ・マレー語による情報表示が義務化
本規則第4条により、オンラインマーケットプレイス上で消費者に対して表示される重要な情報について、マレーシアの国語(バハサ・マレー語)による記載が義務化された。バハサ・マレー語以外の言語による併記も許容される。
(2) 適用対象となる企業
本規則における「オンラインマーケットプレイス」とは、電子的手段によって提供される取引プラットフォームを意味し、上記表示義務は「販売者(online marketplace supplier)」に対して課される。
この点、ECサイトの運営者が上記義務を負うのではなことに注意が必要である。なお、ECサイト運営者は、「運営者(online marketplace operator)」と定義されており、別の義務を負う(後述)。
(3) マレー語での表示が要求される範囲
帆規則第4条に基づき表示が求められる情報は、以下の通り別表に定められている。
- 販売者の氏名、ウェブサイト、メールアドレス等の情報
- 商品またはサービスの主要な特徴に関する記載
- 価格、送料、支払方法
- 売買契約に関する条件
- 商品の配送またはサービス提供に要する目安時間
- 所轄官庁により定められた安全・衛生基準への適合証明(該当する場合)
(4) 企業のコーポレートサイトは対象となるか
本規則の言語表示義務は、「オンラインマーケットプレイス」に該当しない限り、企業のコーポレートウェブサイトには適用されない。
たとえば、製品説明や企業情報のみを掲載する情報提供目的のウェブサイトであって、購入・注文機能を備えていない場合には、本規則の適用対象外となる。
ただし、政府より今後補足的な通達等が発出された場合には、その内容により適用範囲が修正される可能性もあるため、継続的な確認が求められる。
(5) その他の新設義務
本規則は、言語表示義務のほかにも、以下のような義務を定めている。
① 再配達および追加サービスの提供(第5条)
商品に重大な不一致や欠陥がある場合には、販売者が再配達費用を負担し、提供するサービスは合理的に適合したものでなければならない。
② エラー訂正および注文受領の確認(第6条)
購入者が注文前後にエラーを訂正できる手段を用意し、注文の受領を速やかに確認する義務がある。
(6) マーケットプレイス運営者の義務
本規則において、バハサ・マレー語表示義務は販売者に課されるものであるが、運営者(Shopee、Lazada、TikTok Shopなど)にも一定の責任が課されている。
同規則第7条によると、運営者には以下の義務が定められている:
- 出品者による表示内容が、バハサ・マレー語を含めて適切に開示されていることを確認する義務
- 消費者による苦情申立てが可能なチャネルを提供する義務
- 規則に違反する広告を防止する義務
これらの義務を果たすために、運営者は社内規定の整備や技術的対応等を講じる必要があり、詳細は今後当局(KPDN)より発出される方針に基づいて対応が要求される見込みである。
また、本規則第8条は、運営者に対して、販売者に関する記録を3年間保存する義務を課している。
3.施行時期
当初、施行期限は2025年6月24日とされていたが、現在KPDNにおいて見直し作業が進められている。KPDNは主要なマーケットプレイス運営者との協議を実施し、懸念事項への対応およびフィードバックの収集を行ったうえで、2025年8月末までに正式な施行日程と包括的なガイドラインを公表する予定である。
もっとも、本規則自体はすでに官報にて公布され法的効力を有しているため、施行日が確定していないことは免除を意味するものではない。たとえばShopeeでは、すでに自動翻訳ツールや出品者向けのQ&Aガイドラインを導入するなど、先行的な対応が見られる。
4.違反に対する罰則
本規則第9条により、同規則に違反した者は犯罪として処罰対象となる。消費者保護法第145条に基づく一般的な罰則は以下のとおりである。
- 個人に対しては、最大5万リンギの罰金、または3年以下の懲役、またはその両方
- 法人に対しては、初犯で最大10万リンギ、再犯以降は最大20万リンギの罰金、および1日あたり1,000リンギの継続違反金
5.最後に
上記につき、ご質問がある場合、またはこれらの変更に際しサポートが必要な場合は、当社の専門家チームがお手伝いいたします。

