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ラオスにおける民事訴訟法の改正について(Part1)

2025年10月08日(水)

ラオスにおける民事訴訟法の改正について(Part1)のニューズレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認下さい。
民事訴訟法の改正


ラオスにおける民事訴訟法の改正について(Part1)

1.民事訴訟法の改正
ラオスの立法府である国民議会は2024年12月11日付で「民事訴訟法(No.67)」を13年ぶりに改正し、2025年8月11日に官報に掲載、さらに2025年1月30日から遡って施行されています。

以下では、民事訴訟制度に関する主な改正点を中心に解説いたします。

2.民事訴訟制度について

(1)裁判所について

ラオスの民事裁判所は、最高人民裁判所、地域人民裁判所、県・首都人民裁判所、地区人民裁判所に区分されています。第一審を担当する裁判所は、訴額や事件の種類によって決まります。

今回の改正により、第一審を取り扱う裁判所の訴額基準が以下のとおり変更されました。

 

改正前

改正後

裁判所

訴額

3億キープ未満

10億キープ未満

地区人民裁判所

3億キープ以上

10億キープ以上

県・首都人民裁判所

※10億キープ=約680万円(2025年9月現在)

(2)裁判官について

改正前の「裁判官の権限及び責務(民事訴訟法第58条)」には、裁判官が一人で審理を行い判決を下すこと(以下「単独事件」)は規定されていませんでした。

しかし、改正後は新たに「単独事件における裁判官の権限と責務(民事訴訟法第59条)」が追加され、単独事件として審理される事件の範囲が、以下のとおり明確に規定されています。

<単独事件で審理される事件の条件>

 

条件

民事事件

1.1

紛争の対象額が、1億キープ未満である場合

1.2

紛争の対象額が、1億キープを超えるが、原告と被告が合意している場合

1.3

紛争の対象額のない紛争

  • 契約や財産に関する紛争(対象額のない契約書の解除・破棄)
  • 所有権のない土地や家からの立ち退き請求
  • 損害賠償の伴わない通行請求

 

1.4

各種認証・承認請求

·       土地権原書やその他書類の紛失による認証

·       法的行為が不可能であることの認証

·       行方不明または死亡の承認

家族事件

2.1

資産、共有財産、債務、養育などがない夫婦間の紛争

2.2

資産、共有財産、債務が1億キープを超えない夫婦間の紛争

2.3

資産、共有財産、債務が1億キープ以上だが、原告と被告が合意している夫婦間の紛争場合

2.4

養育に関する紛争

2.5

親権、子の権利のはく奪に関する紛争

2.6

子の権利(名前、苗字、国籍など)に関する紛争

少年事件

3.1

18歳以下の青少年による損害賠償の伴わない、対象額が1億キープを超えない事件

3.2

青少年の指導に関する措置要求

労働事件

4.1

対象額が、1億キープ未満である場合

4.2

対象額が、1億キープ以上だが、原告と被告が合意している場合

 3.民事訴訟手続きについて

(1)民事訴訟手続きにおける継承

改正前は、当事者の死亡した場合などにより当事者の地位の継承があった場合の継承者の責務に関する規定はありませんでした。

改正後は、原則として、継承者は当事者の訴訟における権利および義務(民事訴訟法第70条)を引き継ぐこととされました。

ただし、相続放棄をした相続人については、契約関係のない民事上の義務や債務、損害について責任を負わないことが新たに明確に規定されています(民事訴訟法第78条)。

(2)情報、証拠書類について

改正前には存在しなかった「情報・証拠書類の出処」として、公証役場での認証が新たに追加されました(民事訴訟法第96条)。
なお、公証役場法第19条では、「認証があれば、紛争解決の検討や当局の訴訟手続きにおいて法的根拠となり、執行力が高まる」と規定されています。

また、改正により、証明を要しない情報・証拠として、以下の項目が明確に規定されました(民事訴訟法第103条)。

①一般的に公開・周知されている情報や証拠

②第1審で立証され、裁判官が判決文中で認証している情報や証拠

③公証役場で認証された金銭貸借契約書や売買契約書

④法定代理人を含めた当事者双方が認めている情報や証拠

さらに、第1審においては、当事者が証拠の提出をすべて終えたことを、書面で記録する必要があることも新たに規定されました(民事訴訟法第106条)。
この書面には、当事者の署名および/または拇印を押す必要があります。

(3)情報、証拠書類の収集手段について

裁判所が情報や証拠を収集する手段のひとつとして、「紛争の対象となっている財産や訴額の評価」が新たに規定されました(民事訴訟法第108条)。

また、民事訴訟法第116条では、財産や訴額の評価に当事者が不満を持つ場合、評価委員会に再評価を要求できることが明記されました。なお、再評価にかかる費用は、評価を要求した当事者が負担します。
さらに、評価報告書に評価委員会の署名と認証がある場合は、報告書は初回評価の検証内容と同等に取り扱うことが可能です。

(4)証拠、文書、署名、拇印、または印鑑の鑑定の結果

偽造が疑われた証拠は鑑定の対象となり、偽造と判明した場合は、提出者に刑事責任および損害賠償責任が及ぶことが新たに規定されました。
さらに、この証拠が民事事件にも影響する場合は、関連する裁判は一時停止されることも明記されています(民事訴訟法第119条)。

<民事訴訟法第119条>

文書や署名・印鑑などが偽造だと争われた場合、証拠を提出した側は、その証拠を取り下げるか、裁判で使わない選択ができる。

取り下げない場合は、本法117条に従って裁判所が審査する。

偽造が立証された場合、裁判所は検察に訴追を要請し、提出者に損害賠償や立証費用を負担させる。その証拠が民事訴訟にも影響する場合は、関連する民事・刑事訴訟は停止される。

 

以 上

 

yuto.yabumoto@oneasia.legal(藪本 雄登)
satomi.uchino@oneasia.legal (内野 里美)