日本:公益通報者保護法の改正について
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公益通報者保護法の改正について
2026年1月21日
One Asia Lawyers 東京オフィス
弁護士 黒崎 裕樹
弁護士 楠 悠冴
弁護士 山本 博人
弁護士 山村 響
弁護士 柴﨑 秀之
第1 はじめに
近年、企業不祥事の早期発見や早期是正、さらにはコーポレート・ガバナンスの強化の観点から、内部通報制度の重要性が一層高まっています。このような背景の下、公益通報者保護法(以下「現行法」といいます。)は、段階的な見直しが行われてきました。
直近では、2020年に同法の改正がなされたものの(2022年施行)、令和6年に消費者庁が実施した実態調査[1]の結果等を踏まえると、その実効性が十分ではありませんでした。そこで、当該調査結果も踏まえた検討がなされて、公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号、以下「改正法」といいます。)が2025年6月4日に成立、同月11日に公布され、2026年12月1日から施行されることとなっております。
改正法は、近年の事業者の公益通報への対応状況及び公益通報者の保護を巡る国内外の動向に鑑み、
①事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上
②公益通報者の範囲拡大
③公益通報を阻害する要因への対処
④公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済を強化するための措置を講ずること[2]
を目的としています。
本稿では、まず現行法の基本的な枠組みを整理した上で、改正法の概要を説明します。なお、弊所では、改正法や近時の実務を踏まえたグローバル内部通報制度((Global Whistle-Blowing System: GWS、以下「GWS」といいます。URL: https://wb.oneasia.legal/」)を提供しておりますので、末尾にてご紹介させていただきます。
第2 現行法の概要
1 制度の趣旨
現行法第1条が規定する同法の目的は以下のとおりです。
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「公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効及び不利益な取扱いの禁止等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置等を定めることにより、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする。」 |
簡単に言えば、現行法は、「労働者等が、公益のために通報を行ったことを理由として解雇等の不利益な取扱いを受けることのないよう、どこへどのような内容の通報を行えば保護されるのかという制度的なルールを明確にするもの[3]」であるといえます。
2 現行法の保護対象
通報をした者が現行法による保護を受けるためには、当該通報が「公益通報」(現行法2条1項)に該当するものである必要があります。
敷衍すれば、公益通報とは、公益通報の主体に該当する者(労働者等)が、不正の目的ではなく、役務提供先(又は当該役務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員、代理人その他の者)について、通報対象事実が生じ又は生じようとしている旨を一定の通報先に通報することをいいます。その概要については、以下のとおりです(厳密な定義は省略しておりますので、該当性については、適宜法令等をご参照ください。)。
なお、現行法の対象とならない通報であっても、他の法令等によって通報者が保護される場合もあります[4]。
・通報主体:現行法2条1項各号に掲げる者
・「労働者…又は労働者であった者」
・「派遣労働者…又は派遣労働者であった者」
・「役員」
・通報内容:現行法3条3項各号が定める「通報対象事実[5]」
・「この法律及び個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律として別表に掲げるもの…に規定する罪の犯罪行為の事実又はこの法律及び同表に掲げる法律に規定する過料の理由とされている事実」
・「別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが前号に掲げる事実となる場合における当該処分の理由とされている事実…」
・通報目的:現行法2条1項柱書
「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他不正の目的でない」こと
・通報先:
▶︎2条1項柱書が定める「役務提供先等」(いわゆる1号通報)
♢同項「各号に定める事業者…又は当該役務提供先の事業に従事する場合におけるその役員…、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該役務提供先若しくは当該役務提供先があらかじめ定めた者
▶︎現行法2条1項柱書が定める「行政機関等」(いわゆる2号通報)
♢「当該通報対象事実について処分…若しくは勧告等…をする権限を有する行政機関若しくは当該行政機関があらかじめ定めた者」
▶︎「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」(いわゆる3号通報)
上記のとおり、役務対象先等だけではなく、外部への通報(いわゆる外部公益通報)も公益通報の対象となっています。また、通報先ごとに保護を受けるための要件が異なるため、注意が必要です。
3 事業者の基本的義務
事業者には、次のような義務が課されています。
・「公益通報対応業務従事者」の指定(現行法11条1項)
▶︎常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については、努力義務となります。
▶︎公益通報対応業務従事者は、公益通報者を特定させる事項について守秘義務を負い、違反した場合には30万円以下の罰金の対象となります。
・内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置(現行法11条2項)
▶︎この措置については、指針[6]において概要が示されております。
第3 2025年法改正の内容(改正点の全体像)
1 改正の概要
前述のとおり、2025年法改正は、令和6年に消費者庁が実施した実態調査の結果等を踏まえて、より公益通報制度の実効性を高めることなどを目的として行われました。
具体的には、以下の図のとおりです。

(消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律(概要)」より、
URL
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/assets/consumer_partnerships_cms205_250611_01.pdf)
2 各改正の内容
⑴ 上記1.について
ア 現行法は、上述した公益通報対応業務従事者の指定義務違反があった場合には、消費者庁長官は、当該事業者に対し、報告徴収、助言・指導、勧告をすることができる旨規定していましたが、改正法ではこれらに加え、①事業者に対する立入検査(改正法16条)、②立入検査等に従わない場合の刑罰(改正法21条2項、23条)、③勧告に従わない場合の命令権及び違反時の罰則(改正法15条の2、21条、23条)等についての規定などが新設されました。
イ また、現行法は、事業者に対し体制整備義務を課していましたが、改正法では、その例示として、事業者に対し、当該事業者の公益通報対応体制を労働者等に対して周知することを義務付けました(改正法11条2項)。この義務に違反した場合には、上述のとおり報告徴収等や刑罰の対象となります。
⑵ 上記2.について
現行法では、公益通報の主体として特定受託業務従事者(フリーランス)を対象としておりませんでしたが、改正法では、「特定受託業務従事者…又は特定受託業務従事者であった者」も公益通報の主体となりました。特定受託業務従事者の定義等については、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)によることとなります。
⑶ 上記3.について
ア 改正法では、通報妨害の禁止・無効に関する規定が設けられました(改正法11条の2)。これは、現行法においても、通報妨害をしてはならないことは実務上明らかでしたが、明示的な規程が無かったために公益通報を躊躇する要因となっているのではないかといった議論がありました。そのため、改正法においては、通報妨害の禁止・無効に関する規定を明示したものです。
イ また、通報者探索の禁止に関する規定も改正法で新設されました(改正法11条の3)。
2020年改正の際には、「公益通報者保護法には、通報者の探索や通報妨害を禁止する明示的な規定はないが、通報者の探索が通報を理由として行われた場合には、同法第5条(不利益取扱いの禁止)により違法となり得ます。また、通報妨害があった場合、同法第3条第3号ハ(労務提供先から正当な理由なく公益通報しないことを要求された場合)に該当するとされている。これらを踏まえ、通報者の探索や通報妨害に関して別途規定を設けることについては、今後、必要に応じて検討を行うべきである[7]」といった議論がなされていました。本改正では、上述のとおり、公益通報者保護制度の実効性を確保するために、従前議論されていた点について、法律に規定を設けることになりました。
⑷ 上記4.について
ア 改正法により、公益通報者が解雇又は懲戒の無効を主張する場合において、公益通報後1年以内にされた解雇又は懲戒は公益通報をしたことを理由としてされたものと推定される旨の規定が追加されました(改正法3条3項)。つまり、事業者が、当該解雇又は懲戒が公益通報をしたことを理由としてされたものではないことの立証責任を負うこととなります。
この点、背景事情として、2020年改正時点においても上記推定規定の導入が検討されており[8]、当時の専門調査会では賛成する意見が多かったものの、最終的に「今後、必要に応じて検討を行うべきである。」と言及されるにとどまっていたという事情がありました。本改正においてようやく、公益通報者保護制度の実効性をより担保するために、上記推定規定が導入されることとなりました。
今後は、企業側が、公益通報後1年以内に解雇又は懲戒を行った場合、公益通報をしたことを理由として実施したものではないことを立証しなければなりません。
イ また、改正法では、公益通報を理由として解雇又は懲戒をしたものに対する罰則が規定されました(改正法21条、23条)。
この点についても、2020年改正の際には、「公益通報者保護法の施行後、通報者が公益通報をしたことを理由に不利益取扱いを受けた事案が多数生じており、現行の民事ルールだけでは、不利益取扱いに対する抑止の効果が不十分である。したがって、不利益取扱いに対する抑止の観点から、通報を理由として不利益取扱いを行った事業者に対する行政措置を導入すべきである[9]」といった声や、「行政措置を導入するとしても、まずは助言、指導、勧告及び勧告に従わない場合の公表により是正を図っていくことが適当であり、命令制度の導入、ひいてはそれを前提とした刑事罰(間接罰)を導入することについては、今後、必要に応じて検討を行うべきである[10]」といった声があったことから、本改正において、ようやく行政措置や刑事罰の規定が導入されたことになります。
第4 内部通報制度について
弊所においては、グローバル内部通報制度((Global Whistle-Blowing System: GWS)URL: https://wb.oneasia.legal/」)を提供しております。
①その背景には、以下のような問題意識があります。
令和6年に消費者庁が実施した実態調査の結果によると、内部通報が不正発見の端緒として最も有用であることや、内部通報制度導入によって役職員のコンプライアンス意識の向上に繋がっているといった調査結果が得られた。
②一方で、令和6年に消費者庁が実施した実態調査の結果によると、国外拠点からの通報受付体制として多言語で受け付けている企業は43%程度に留まった。
③各種ガイドラインの制定及び改定、並びに監査実務の強化・向上を踏まえ、グローバルガバナンスの重要性は年々高まっており、日本本社として海外子会社を管理しなければならないものの、割けるリソースに限りがある。
この点、弊所のGWSは、弊所の強みを生かして、日本語・英語だけでなく、各国における現地語での外部機関による内部通報窓口として対応することが可能である点や、各国の個人情報保護法や通報者保護規定を踏まえた内部通報導入支援が可能である点、内部通報の実効性を高めるための各種施策に取り組んでいる点等に特徴があります。
本改正、公益通報者制度を含む内部通報制度の構築の重要性がより高くなっておりますが、弊所のGWSを導入することで、自社の内部通報制度やコンプライアンス体制をより強固なものとすることが可能です。
第5 おわりに
2025年改正は、公益通報者保護法の基本構造を維持しつつ、事業者に求められる対応の水準を実質的に引き上げる改正といえます。企業においては、形式的な内部通報制度の整備にとどまらず、内部通報制度の実効性が担保されているかを改めて点検することが重要となるでしょう。内部通報制度の整備にあたっては、弊所のGWSが極めて有用と考えておりますので、興味をお持ちのご担当者様は、是非お気軽にご連絡ください。
以上
[1] 消費者庁「民間事業者の内部通報対応 ―実態調査結果概要―」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/research/assets/research_240426_0001.pdf
[2] 消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律(概要)」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/assets/consumer_partnerships_cms205_250611_01.pdf
[3] 消費者庁「公益通報ハンドブック(改正法(令和4年6月施行)準拠版)」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_220705_0001.pdf
[4] 例えば、法は、労働契約法14条乃至16条の適用を妨げるものではないと規定していることから(法8条2項及び同条3項)、通報を理由とする出向命令、懲戒又は解雇が有効であるか否かは、これら労働契約法の規定に照らして別途判断されることとなります。
[5] 2025年12月18日時点では、合計506の法律が対象となっております。
URL:
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/subject/assets/consumer_partnerships_cms205_260107_01.pdf
[6]「公益通報者保護法第 11 条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」、令和3年8月 20 日内閣府告示第 118 号
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_210820_0001.pdf
[7] 消費者委員会 公益通報者保護専門調査会「公益通報者保護専門調査会報告書」(平成30年12月)、37頁、
URL: https://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/koueki/doc/20181227_koueki_houkoku.pdf
[8] 上掲6と同様、35頁
[9] 上掲6と同様。34頁
[10] 上掲6と同様。35頁

