ラオスにおける健康影響評価について
ラオスにおける健康影響評価についてのニューズレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認下さい。
→HIAについて
ラオスにおける健康影響評価について
2026 年1月23日
One Asia Lawyers Groupラオス事務所
1.背景
ラオスにおける健康影響評価(Health Impact Assessment:HIA)は、保健省(Ministry of Public Health)が所管官庁として、その実施に関する役割を担っています。
まず、2001年に「衛生、予防、健康促進法(以下、「衛生健康促進法」)」が制定されました。同法はその後、2011年および2019年に改正され、特に2019年改正においては、健康影響評価に関する条項(第32条)が新たに規定され、HIAの法的根拠が明確化されました。
次に、2006年には、健康影響評価に関する国家方針を定めた「健康影響評価に関する国家方針の適用および実施に関する首相令(Degree on the Declaration of Use and Implementation of National Policy on Health Impact Assessment (HIA))(No.54)」が発行され、HIA制度の基本的枠組みが示されました。
その後、2010年に、HIAの具体的な評価手続や方法を定めた「A Practical Guideline on HIA in Lao PDR」が保健省より発行され、実務上の運用が明確化されています。
さらに近時の動きとして、ラオス政府は2025年12月17日付で「健康影響評価に関する首相令(No.817)」(以下「首相令」)を発行し、2026年2月15日から施行される予定です。
本ニューズレターでは、健康影響評価プロセスおよび健康影響評価証明書の取得方法を中心に解説いたします。
なお、環境影響評価(EIA)に関する法令につきましては、弊所発行の別途ニューズレターをご参照ください。
2.健康影響評価とは
(1)定義
投資プロジェクト又は活動(以下「プロジェクト」)から生じる可能性のある直接的又は間接的な健康への影響について、研究、調査、データ分析および測定を行い、影響を予測・評価することをいいます(首相令第2条)。
(2)対象となる事業
衛生健康促進法第32条では、プロジェクトを実施する前に、労働者および周辺住民に対する健康影響評価を実施する必要がある事業として、主に以下の例が挙げられています。
・インフラ開発プロジェクト
・工場の建設または操業に関する事業
・ダム建設事業
・鉱山開発事業
・ウイルス研究所の設置または運営
・原子力発電事業
・従業員および周辺住民の健康に影響を及ぼすリスクが高い毒性化学物質を使用又は製造する事業
・その他、プロジェクト実施地およびその周辺地域において、直接的又は間接的に健康への影響を及ぼす可能性がある事業
3.HIA実施の要否について
(1)プロジェクト情報の提出(首相令第8条)
HIAは、環境影響評価(Comprehensive Environmental Impact Assessment:以下「EIA」)において評価されるべき重要な要素の一つであり、EIAの実施が義務付けられるプロジェクトまたはEIA対象リストに掲載されているプロジェクトは、原則として人の健康への影響も評価対象となります。事業実施者は、当該プロジェクトの概要および関連情報を保健省へ提出する必要があります。これらの情報は、HIAを独立して実施する必要があるか否かを判断するための基礎資料として用いられます。
(2)スクリーニング(首相令第6条)
プロジェクトにおいてHIAの実施が必要か否かについては、保健省が、事業実施者から提出されたプロジェクト情報を精査した上で、スクリーニングを実施し判断します。
スクリーニングに際しては、主に以下の観点が考慮されます。
・健康への影響の性質および深刻度
・健康影響の規模および範囲
・影響を受ける人口規模
(3)スクリーニング結果の通知
保健省は、プロジェクト関連資料を受領した日から30日以内に内容を精査し、スクリーニング完了後5日以内に、HIA実施の要否について事業実施者に通知します(首相令第6条、第7条および第9条)。
なお、スクリーニングの結果、HIAの実施が不要と判断された場合であっても、保健省は、当該プロジェクトに伴う健康上のリスクを予防又は低減するための指導や助言を行う必要があります(首相令第10条)。
4.HIAの実施について
(1)HIAの実施(首相令第13条)
スコーピングに基づき、当該プロジェクトまたは活動の実施により生じ得る健康リスクの程度を特定・評価し、健康への負の影響を回避・低減し、正の影響を最大化するための改善策および対応措置を検討することを目的として、便益(ポジティブ)および不利益(ネガティブ)の双方を体系的に分析します。具体的なHIAの評価手法は、以下のとおりです。
①人口、環境、健康に関する情報なのデータの分析
②関係者へのインタビュー
③物理的、生物学的、社会的、環境的データの分析
④ 地理的特性を考慮した計画策定
⑤関連する科学的証拠の検討
(2)代替案の検討(首相令第14条)
プロジェクトを環境および社会に配慮した持続可能な方法で実施するため、複数の実施方策を比較検討し、健康影響および相互利益の最大化を図るための方向性を明らかにします。
プロジェクト実施事業者は、少なくとも三つ以上の代替案を検討しなければなりません。各代替案には、事業内容、立地、規模、実施方法等の違いを明確に示し、健康への影響の観点から比較可能な内容を含めるものとします。
5.HIA証明書について
(1)HIA証明書の有効期間
保健省によるモニタリング計画を含めたプロジェクト実施者が作成したHIA報告書が認証されると、HIA証明書が保健省より発行されます(首相令第33条)。
HIA証明書は、プロジェクトの全期間にわたって有効です。健康管理・モニタリング計画は、プロジェクトの種類に応じて、2年から5年ごとに更新しなければなりません(首相令第34条)。
プロジェクト実施者が承認日から2年以内にいかなる活動も実施しない場合、証明書は取り消されます。プロジェクトの開発を継続する意図がある場合、プロジェクト実施者は、健康管理およびモニタリング計画の策定を含むHIAを実施し、保健省に提出して審査を受け、再承認の検討を受けなければなりません(首相令第34条)。
(2)HIA証明書の発行条件(首相令第35条)
HIA証明書の発行条件は以下のとおりです。
①HIAの全過程において関係する社会の参加を得て実施され、完了していること
②完全性及び正確性を備えた事実に基づく情報が、影響を受ける者及びその他の利害関係者に適切に開示され、周知されていること
③モニタリング及び公衆衛生活動に必要な予算が確保されていること
なお、首相令の発行以前から実施されているプロジェクトで、これまでHIAを実施していないプロジェクト実施者は、2026年2月15日から起算して1年以内に、モニタリング計画を含むHIAを実施しなければなりません(首相令第76条)。
以上
yuto.yabumoto@oneasia.legal(藪本 雄登)
satomi.uchino@oneasia.legal (内野 里美)
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