日本:カスハラ対策の義務化 ~指針の公表を受けて、企業の取るべき対応とは~
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カスハラ対策の義務化
~指針の公表を受けて、企業の取るべき対応とは~
2026年3月16日
One Asia Lawyers 東京オフィス
弁護士 山村 響
弁護士 山本博人
弁護士 楠 悠冴
弁護士 柴﨑秀之
第1 はじめに
カスタマーハラスメント対策の義務化といったハラスメント対策強化に向けた法律改正などを内容とする「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」(以下「本改正法」といいます。)が2025年6月4日に成立、同月11日に公布され、2026年10月1日に施行されます[1]。
本改正法によって、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律が改正され[2](以下、改正後の本法を「改正労働施策推進法」又は単に「法」といいます。)、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」といいます。)の防止のために、雇用管理上必要な措置を講じること等が事業主の義務となりました。
事業主が講じるべき具体的な措置の内容は、別途指針において示されるとされていましたが、2026年2月26日、遂にこの指針(以下「本指針」といいます)が厚生労働省より示されました[3]。
労働者が一人でもいる場合は事業主に当たり、本改正法が適用されるため、実務に大きな影響を及ぼす改正となります。そこで、本稿では、カスハラ対策にポイントを絞って、本改正法の内容、指針を踏まえて企業が講じるべき具体的な措置について、解説していきます。
第2 改正労働施策推進法の内容について
1 事業主の義務
⑴ 雇用管理上必要な措置を講じること(法33条1項)
事業主は、職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(以下「顧客等」といいます。)によるカスハラで、労働者の就業環境が害されることのないよう、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者の就業環境を害するカスハラの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置そ
他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないとされています。
⑵ 労働者に対する解雇その他の不利益取扱いの禁止(法33条2項)
事業主は、労働者が上記のカスハラについての相談をしたことや事業主による相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはいけません。
⑶ 他の事業者への協力(法33条3項)
事業主は、他の事業主から当該他の事業主が講じる第一項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければなりません。
⑷ 関心や理解を深めること等(法34条2項、3項)
事業主は、自身や雇用する労働者について、カスハラ問題に対する関心、理解を深めるとともに、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければなりません。
2 事業主以外の義務
改正労働施策推進法においては、事業主以外についても、努力義務が課されています。
国については、カスハラ問題について、事業主や国民一般の関心と理解を深めるために、広報活動や啓蒙活動等を行うよう努めることとされています(法34条1項)。
労働者や顧客等は、カスハラ問題についての関心と理解を深めるとともに、労働者については、上記の事業主が講じる雇用管理上必要な措置について、協力するように努めることとされ、顧客等については、カスハラを行わないよう必要な注意を払うように努めなければならないとされています(法34条4項、5項)。
第3 本指針を踏まえて、事業主の講じるべき措置
以下では、本指針の内容を踏まえ、改正労働施策推進法上のカスハラの定義や、事業主が講じるべき具体的な措置の内容を解説します。
1 改正労働施策推進法上のカスハラとは
そもそも、事業主がその防止のために雇用管理上必要な措置を講じるべきカスハラとは、どのような行為でしょうか。本指針によれば、改正労働施策推進法上の「カスハラ」とは、「職場において行われる①顧客等の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう」と定義されています。
⑴ 「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行する場所については、「職場」に含まれることとなります。つまり、取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅等であっても、当該労働者が業務を遂行する場所であればこれに該当します。
⑵ 「労働者」には、いわゆる正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員等いわゆる非正規雇用労働者を含む事業主が雇用する労働者の全てが含まれます。
また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、派遣先事業主についても、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者を雇用する事業主とみなされ、法第33条第1項及び第34条第2項の規定が適用されることとなります。
さらに、法第33条第2項の労働者に対する不利益な取扱いの禁止については、派遣労働者も対象に含まれるものであり、派遣元事業主のみならず、派遣先事業主もまた、派遣労働者が職場におけるカスハラの相談を行ったこと等を理由として、当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒む等の不利益な取扱いを行ってはなりません。
⑶ 「顧客等」とは、顧客(今後商品の購入やサービスの利用等をする可能性がある潜在的な顧客も含む。)、取引の相手方(今後取引する可能性のある者も含む。)、施設の利用者(駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等の施設を利用する者をいい、今後利用する可能性のある者も含む。)その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者を指すとされています。本指針においては
以下の者が具体例としてあげられています。
▶︎事業主が販売する商品の購入やサービスの利用をする者
▶︎事業主の行う事業に関する内容等に関し問い合わせをする者
▶︎取引先の担当者
▶︎企業間での契約締結に向けた交渉を行う際の担当者
▶︎施設・サービスの利用者及びその家族
▶︎施設の近隣住民
⑷ 「その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えた」言動とは、社会通念に照らし、当該顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、又は手段や態様が相当でないものを指します。
この判断に当たっては、当該言動の目的、当該言動が行われた経緯や状況といった様々な事情を考慮し、「言動の内容」及び「手段や態様」といった視点から総合的に判断すべきとされていますが、「言動の内容」、「手段や態様」の一方のみが社会通念上許容される範囲を超える場合でもこれに該当し得るとされています。
本指針においては、「社会通念上許容される範囲を超えた」言動の典型例として、以下の言動が掲げられています。
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言動内容の視点 |
手段や態様の視点 |
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①そもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求 |
①身体的な攻撃(暴行、傷害等) |
⑸ 「労働者の就業環境が害される」とは、当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指すとされています。具体的には、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかが基準となります。
2 事業主が雇用管理上講じるべき措置の具体的内容
本指針により、事業主は、次のような措置を講じるよう義務付けられることになります。
⑴ 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
▶︎社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に職場におけるカスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を記載し、配布等すること
▶︎職場におけるカスハラの内容として、当該事業所において発生しやすいカスハラの例や、商品・サービス・接客等における問題や顧客等とのコミュニケーションの不足などが職場におけるカスハラの発生の原因や背景となり得ることを周知すること
▶︎可能な限り労働者を一人で対応させないこと。また、必要に応じて当該労働者に代わって管理監督者等が対応すること
▶︎法的な手続が必要な場合には、法務部門等と連携し、弁護士へ相談すること
⑵ 相談(苦情を含む。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
▶︎相談に対応する担当者をあらかじめ定めること
▶︎外部の機関に相談への対応を委託すること
▶︎あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること
▶︎相談を受けた場合の対応についての研修を行うこと
⑶ 職場におけるカスハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
▶︎相談窓口の担当者、関係部門又は専門の委員会等が、相談者から事実関係を確認すること
▶︎事案の内容や状況に応じ、対応する担当者の変更又は複数人で対応すること、被害者と行為者を引き離すための配置転換、管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講じること
▶︎職場におけるカスハラの原因や背景となった商品・サービス・接客等における問題や顧客等とのコミュニケーションの不足などが把握された場合には、その問題等そのものの改善を図ること
⑷ 職場におけるカスハラへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置
▶︎犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報すること
▶︎警告文を発出すること
▶︎店舗及び施設等への出入りを禁止すること
⑸ ⑴から⑷までの措置と併せて講じるべき措置
▶︎相談者等のプライバシーの保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、当該マニュアルに基づき対応するものとすること
▶︎相談者等のプライバシーの保護のために、相談窓口の担当者に必要な研修を行うこと
▶︎就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、カスハラの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し、労働者に周知・啓発をすること
▶︎社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に、カスハラの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を記載し、労働者に配布等すること
第4 最後に
本指針が公表されたことにより、本改正法によって事業主が講じるべき具体的な措置が明らかになりました。事業主は、2026年10月1日の施行日までに、これらの具体的な措置を講じるために必要な体制を整備していくことが求められます。
近時、カスハラを含め、ハラスメントに対する社会の関心は高まっています。時代の潮流にあわせ、企業もその意識や制度をアップデートしていくためにも、上記のような措置を講じる必要があります。
弊所では、カスハラに限らず、ハラスメントに関する研修、各種規程の整備といった事前の対応や、ハラスメントが起きてしまったあとの事後対応についても相談をお受けしておりますので、お気軽にご連絡ください。
以上
[1] 令和8年政令第17号
[2] なお、本改正法によって、労働施策総合推進法のほかに、男女雇用機会均等法、女性活躍推進法も改正されています。
[3] 厚生労働省告示第51号(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/001662625.pdf)

