ベトナムにおける国際相続 <ベトナムに財産を持つ日本人が遺言なく死亡した場合>
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ベトナムにおける国際相続
<ベトナムに財産を持つ日本人が遺言なく死亡した場合>
2026年4月
One Asia Lawyers国際相続プラクティスグループ
〔ご相談の概要〕
日本人男性がベトナムに区分所有不動産(マンション)と預金口座を保有していたところ、この日本人が遺言を残さずに亡くなられました。この方には、日本人の妻と二人の子供がいました。弊所は、上記のご遺族からベトナム財産の相続について以下の相談を受けました。
質問1:ベトナムにある財産を相続できますか。
質問2:相続割合はどうなるのでしょうか。
質問3:相続の手続には何が必要でしょうか。
以下、これらのご質問についての回答を考えてゆきます。
1. はじめに
国際的な相続は、複数の国の法律が絡み合い、解決が複雑になることが多々あります。以下では、日本人がベトナムにマンションと預金口座を保有していたところ、遺言を残さずに死亡した場合について、日本人の相続人がこれらの財産を相続する際の適用法、相続割合、および必要な手続きについて、日本法とベトナム法[1]に基づいて検討します。
2. ベトナム所在の財産の相続の可否と相続に適用される法律
まず、ベトナムにある財産を相続できるかどうかですが、ベトナム法は死亡した者が残した財産についての相続を権利として認めます[2]。銀行預金は、銀行に対する債権で相続の対象である財産に含まれます[3]。マンションは土地に付着した住宅であり、不動産として相続の対象となります[4]。
次に、この相続財産を誰がどのような割合で相続するかですが、遺言がない場合には相続法に従って相続が行われます。日本もベトナムも民法の中に相続に関するルールが定められていて、これが各国の相続法になります[5]。そこで、日本人がベトナムに財産を残して死亡した場合に、どの国の相続法が適用されるかの検討が必要になります。
日本での相続については、日本の国際私法では、被相続人の本国法によるとされています[6]。本件の場合、被相続人は日本人ですので、日本の相続法が原則として適用されます。ただし、相続財産が外国にある場合には、外国の法律が適用される可能性があります。この事例では相続財産がベトナムにあり、かつマンション(不動産)と預金(動産)に分かれるため、それぞれの財産についてどの国の法律に従って相続が行われるかを検討する必要があります。
さて、ベトナムでは外国人が関係する国際相続について次のように定めます。
2015年ベトナム民法680条:
(1) 相続は、被相続人が死亡の直前にその国民であった国の法律によって定める。
(2) 不動産に対する相続権の行使は当該不動産の所在する地の国の法令に従って確定される。
上記によれば、相続は被相続人の最終の国籍地の法律に従うということなので、本件の場合は原則として日本の相続法が適用されます。ただし、不動産に対する相続権の行使については、不動産の所在地法であるベトナム法に従います。
このことから、まず、ベトナムにある銀行預金については、被相続人が日本人の場合には日本の相続法が適用されます。次に、ベトナムのマンションについては、同様に日本の相続法が適用されます。ただし、相続に基づく所有権の移転など、相続権の行使についてはベトナムの住宅法などが適用されます[7]。
3. 相続人の決定と相続割合
- ベトナムにある財産の相続についても日本法が適用されるため、相続人と相続割合は日本の民法に基づいて決定されます。
- 日本民法によれば、配偶者と子が法定相続人である場合、配偶者が2分の1、子が2分の1の相続分を持つと定められています[8]。子が複数いる場合、子の相続分を均等に分けるため、子供2人にはそれぞれ4分の1ずつが割り当てられます。
- したがって、このケースでは、妻が2分の1、子供2人がそれぞれ4分の1ずつ相続することになります。
※ なお、ベトナムにおける相続手続きの実務上、被相続人の名義が単独であっても、婚姻中に取得された資産はベトナム法により「夫婦共有財産」[9]とみなされる可能性が高い点に留意が必要です。ベトナムの登記所や金融機関は、この共有財産性を重視するため、相続財産に対して妻が50%の共有持分を有すると主張されるリスクがあります。したがって、実務上は、相続人全員の合意を得る過程で、配偶者の共有持分の扱いについて明確にしておくことが不可欠です。
4. 相続に必要な手続き
ベトナムでの相続手続きは、原則として公証役場または裁判所を通じて行われます。もっとも、裁判所での手続きは、相続に関して争いが生じ、裁判所による判断が必要となる場合に限られます。相続人間で遺産分割について合意が成立している場合には、公証役場において手続きを行うだけで足ります。特に遺言がない場合は、相続人全員の合意に基づく「遺産分割合意書」を作成し、公証役場で認証を受けるのが一般的です。
※なお、ベトナムの国家機関や銀行は、ベトナムの様式による「遺産分割合意書」のみを前提としており、日本の慣行とは異なります。そのため、必ずベトナムの弁護士に依頼し、ベトナム法で最低限求められる内容を網羅した形で作成・確認を受ける必要があります。
4.1 ベトナムの不動産相続手続き
(1) 必要書類の準備:
- 不動産の権利証書(「土地使用権、土地に付随する資産の所有権の証明書」)
- 被相続人の死亡証明書(日本の市町村役場が発行したもの)
※被相続人の死亡証明については、ベトナムでは「死亡証明書(Giấy chứng t)」という統一様式の証明書が発行されます。
一方、日本においては死亡の事実が戸籍に記載されるため、独立した死亡証明書が発行されるわけではありません。そのため、日本で発行された戸籍謄本等に死亡の事実が反映されている場合には、その戸籍謄本(除籍謄本)を提出し、併せて日本の制度について説明することで、ベトナムにおいても死亡の事実を証明する資料として受け入れられます。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(相続人との関係を証明するため)
- 相続人全員の戸籍謄本、住民票、印鑑証明書、パスポートの写し
- 上記の日本で発行された書類はすべて外務省の公印確認と駐日ベトナム大使館または総領事館での領事認証が必要です。
(2) 遺産分割合意書の作成:
- 相続人全員が合意した内容に基づき、「遺産分割合意書」を作成します。この合意書は、ベトナムの弁護士または公証人が作成をサポートするのが一般的です。
(3) 公証役場での認証:
- 相続人全員またはその代理人が、準備した書類と遺産分割合意書を日本又はベトナムの公証役場に提出し、認証を受けます。
(4) 不動産登記の変更:
- 公証された遺産分割合意書を、ベトナムの不動産登記を管轄する機関(通常は、省市レベルの農業環境局の下部機関である土地登記所)に提出し、所有権の名義変更手続きを行います。
- この手続きには、不動産の価値に基づいた登録料や所得税(個人の財産譲渡所得税)が発生する場合があります。ベトナムの法律では、親族間の相続による不動産譲渡は非課税となる規定があるため、確認が必要です。
4.2 ベトナムの預金相続手続き
(1) 必要書類の準備:
- 被相続人の死亡証明書(※上記と同様)
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 被相続人の銀行等に登録しているパスポート
- 相続人全員の戸籍謄本、住民票、印鑑証明書
- 金融機関所定の申請書
- これらの書類も、ベトナムの金融機関が要求する場合、ベトナム語への翻訳と公証人認証が必要になる可能性があります。
(2) 遺産分割協議書の作成:
- 日本法が適用されるため、日本の民法に基づく遺産分割協議書を作成します。この協議書には、相続人全員の署名と実印の押印が必要です。
※なお、ベトナムの国家機関や銀行は、ベトナムの様式による「遺産分割合意書」のみを前提としており、日本の慣行とは異なります。そのため、必ずベトナムの弁護士に依頼し、ベトナム法で最低限求められる内容を網羅した形で作成・確認を受ける必要があります。
(3) 金融機関への提出:
- 作成した遺産分割協議書と必要書類を、ベトナムの預金口座がある金融機関に提出し、口座の解約手続きを進めます。
- 金融機関によっては、日本の公証役場での認証を要求する場合や、ベトナムの弁護士が作成した準拠法に関する意見書を求める場合もあります。
5. 結論と留意事項
ベトナムは国際相続に関する経験が乏しいことから、上記の法的な分析が実務に反映されない可能性があります。このことから、万が一に備えて、ベトナム法の弁護士などと相談の上、相続対策をすることが推奨されます。
以上
———-
[1] 特に2015年ベトナム民法。
[2] 2015年民法典第609条・614条。
[3] 2015年民法典第105条・609条
[4] 2023年住宅法第19条
[5] 相続に関しては、日本民法第5編、ベトナム民法第4編に規定が設けられている。
[6] 法の適用に関する通則法第36条
[7] 2015年民法680条2項の解釈として、不動産の国際相続関係について、被相続人の本国法を適用するのか、あるいは不動産の所在国の法律を適用するのかについては、必ずしも明確でありません。その理由は、不動産の国際相続に関する規定が、2005年民法と2015年民法で異なっていて、解釈が分かれているからです。2005年民法は、「不動産に対する相続権は、当該不動産の存在する国の法律を遵守しなければならない」(同法第767条2項)と定めたのに対して、2015年民法は「不動産に対する相続権の行使は当該不動産の所在する地の国の法令に従って確定される」(同法第680条2項)としたため、相続権については本国法が適用され、相続権の行使だけが所在地国法によるものと解されるためです。ただし、このような解釈は公的に確認されているわけではないので、現状ではケースバイケースでの対応しかできないことが懸念されます。
[8] 日本民法第900条
[9] 2014年婚姻家族法第33条
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