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シンガポール法律コラム 第33回 シンガポールにおけるAIガバナンスの最新動向(前編)

2026年08月13日(木)

「シンガポール法律コラム 第33回 シンガポールにおけるAIガバナンスの最新動向(前編)」についてニューズレターを発行いたしました。こちらの内容は以下のPDFでもご覧いただけます。
シンガポール法律コラム 第33回 シンガポールにおけるAIガバナンスの最新動向(前編)

シンガポール法律コラム
第33回 シンガポールにおけるAIガバナンスの最新動向(前編)

2026年8月
One Asia Lawyers Group
日本法・シンガポール法(FPC)・アメリカNY法弁護士
栗田 哲郎
台湾法弁護士
Zeline Jung

こんにちは。One Asia Lawyers Group(Focus Law Asia LLC)です。今号では、シンガポールにおけるAIガバナンスの最新動向についてご説明いたします。AIの急速な普及を受け、シンガポール政府は世界をリードする形でAIガバナンスの制度整備を進めており、シンガポールで事業を展開する企業にとって、その動向を正確に把握しておくことが重要となっています。

1. 背景——なぜ今、AIガバナンスが重要なのか

近年、AIは各国においてデジタル経済の推進、ガバナンスの高度化、産業競争力の強化を担う中心的な技術として位置づけられています。シンガポールはこの分野において特に際立った存在感を示しており、Oxford Insightsが2025年に公表した「政府AI準備度指数(Government AI Readiness Index)」では世界第7位・東アジア第2位に位置付けられています。これは政策立案の成熟度、技術投資の規模、データ・インフラの整備水準いずれの面においても高い評価を受けた結果です。

シンガポールは、AIガバナンスに早期から取り組んできた国の一つです。2019年に「国家AI戦略1.0(National AI Strategy、以下「NAIS 1.0」)」を発表、AIを国家戦略上の重要な技術基盤として位置づけました。また、2019年には「モデルAIガバナンス・フレームワーク(Model AI Governance Framework、以下「MGF」)」の第1版を公表し、2020年には第2版を公表しています。MGFは、公平性・透明性・説明可能性といった抽象的なAI倫理原則を、企業が実務で活用できる内部管理指針として具体化したものです。

さらに2022年には、世界初の政府主導によるAIガバナンス検証ツールキット「AI Verify」を発表し、Google・AWSをはじめとする国内外の企業が自社のAIシステムについてコンプライアンス・安全性の検証を行えるオープンソースの仕組みを整備しました。このように、シンガポールは現在に至るまで国際的なAIガバナンス議論の最前線に立ち続けています。

2. 国家AI戦略2.0NAIS 2.0)と政府の姿勢

シンガポールのAIガバナンスの基盤となるのが、2019年のNAIS 1.0を発展させ、2023年に更新・公表された「国家AI戦略2.0(NAIS 2.0)」です。NAIS 2.0が掲げるビジョンは「AI for the Public Good, for Singapore and the World(シンガポール及び世界の公共の利益のためのAI)」です。NAIS 2.0により、シンガポールのAI施策を、個別プロジェクトの推進から、AIを電力・水道と同等の「国家レベルの公共インフラ」として位置づける方向へと大きく転換させるものとなっています。

その後、黄循財(ローレンス・ウォン)首相は2026年2月の財政予算案(Budget 2026)において、自らが議長を務める省庁横断の「国家AI理事会(National AI Council、NAIC)」の設立を正式に発表し、さらに2026年5月にはNAIS 2.0の更新版(Update to NAIS)が提示されました。

政府はGDPの40%超を占める医療・金融サービス・先進製造・コネクティビティ(港湾・航空を含む)の4大中核産業を重点分野と定め、AIによる産業全体の変革を推進しています。また、公共AI研究、演算基盤、人材育成等に10億シンガポールドル超を投入する方針も示されています。人材面では、トップAI専門家を現在の約3倍となる1万5,000人規模に拡大するとともに、技術職以外の一般従業員10万人を「AIバイリンガル人材(自らの専門領域とAI活用の双方に精通した人材)」として育成することを目標に掲げています。

次号では、エージェント型AIガバナンスフレームワークの公表および外国企業が注意すべきことについて概説いたします。

※本稿は、シンガポールの週刊SingaLife(シンガライフ)において掲載中の「シンガポール法律コラム」のために著者が執筆した記事を、ニューズレターの形式にまとめたものとなります。