タイにおける会社更生手続きについて
タイにおける会社更生手続きの概要について報告いたします
タイにおける会社更生手続きの概要
2020年6月5日
One Asia Lawyersタイ事務所
新型コロナウイルスの感染拡大で、世界各国の航空会社の運休が続いている中、タイのナショナルフラッグである「タイ国際航空」が経営破綻しました。負債総額は、昨年末時点の約2,450億バーツ(約8,300億円)から、最終的には1兆円近くにまで膨らむ可能性がある状態となっています。5月27日には、次の通り、タイ国際航空から、会社更生手続申立等に関する報告が出されており、タイ国際航空に関するご相談が増加していることから、今回は、タイにおける会社更生手続きの概要をご紹介致します。
<5/27 更生手続申立に関する報告 タイ航空発表>
http://thai.listedcompany.com/newsroom/270520201705070806E.pdf
タイにおける会社更生の申立は、1940年の破産法に基づいて、破産裁判所(Bankruptcy Court)の管理下において、次の手続に従い、実施される必要があります。
6月5日時点の情報によれば、破産裁判所は、更生手続の審理を、2020年8月17日に行う予定としており、その後、会社更生開始の判断がなされ、更生計画作成者が任命された上、債権者はその任命1か月以内に管財人に対し、債権届出を提出する必要があります。そのため、破産裁判所の更生手続開始判断と、更生計画作成者選任の動向を確認していく必要があります。
なお、破産法上、債権者は更生手続申立に対して異議申し立てを行うことができますが、破産裁判所でのヒアリングによれば、本件については、会社更生において、過去最大の債権者数となっており、異議申し立て数も多いことから8月17日の審理開始については延長される可能性が高いとのコメントを得ております。
1 会社更生手続きの申立
まず、会社更生手続きが認められるための要件は、次の通りです。
- 債務者の債務履行が不能なこと
- 1000万バーツ以上の債務を負っていること
- 事業更生の合理的な根拠と見込みがあること
なお、債権者だけではなく、債務者又は監督当局(タイ中央銀行、タイ証券取引所等)も、事業更生の申立を行うことが可能となっています(破産法第90条4項)。
また、会社更生手続の申立を受けた裁判所は、直ちに申し立ての審理を行う必要があり。破産裁判所は、審理予定日を新聞等において公告する必要があります。
2 更生開始決定
上記申立要件を満たし、タイ破産裁判所が、会社更生を実行する合理的な理由があると判断すると、破産裁判所が会社更生の申立を受理し、会社更生の開始決定を行います(第90条10項)。
裁判所は、会社更生申立を受けたときは、緊急の必要があるものとして審査を進め、審査期日の15日前までに、広く流通している1紙以上の新聞に、当該申立てを受理する決定並びに、指定審査の日時を公表しなければならないと規定されています(第90条99項〜第90条105項)。
会社更生開始決定後、債務者保護の観点から、債権者による訴訟手続、強制執行申立、破産申立、法人解散請求等の行為が禁止されます(いわゆるAutomatic Stayといわれる措置、第90条12項)
3 更生計画作成者の選任
更生計画作成者の選任については、原則として、債権者が債権者集会を経た後、破産裁判所での承認を得た上で、選任されます。また、債権者又は債務者の推薦による選任も可能となっています(第90条17条)。なお、更生計画作成者の選任までの間、破産裁判所は、Interim Executive(暫定経営者)を任命し、管財人の監督下において債務者の事業と財産を管理します。
4 債権届出
債権者は、会社更生手続においてのみ、債権回収が可能となっています。更生計画作成者選任の公告から1か月以内に、債権者はその債権を管財人に届出を行う必要があり(第90条26項、27項)、期限内に実施しない場合、債務の弁済を受ける権利を喪失しますので、留意が必要です(第90条61項)。
通常、弁護士等の代理人が、債権届出を管財人に提出することが一般的であり、当該債権届出は管財人を通じて、更生計画作成者に届け出がなされます。破産裁判所でのヒアリングによれば、申請書類は次の通りです。
<申請書類一覧>
- 申請書(所定のフォーマットあり)
- 債権及び担保一覧表(所定フォーマットあり)
- 利息計算書(所定フォーマットあり)
- 委任状(代理人が存在する場合)
※債権者がタイ非居住法人、又は署名者がタイ非居住者の場合、委任状は公証手続を得る必要があります。
※債権者は、手書き又はタイプのいずれかにより申請書に必要事項を記入し、請求書、契約書等、債権の存在を立証する十分な証拠書類及びその写しを添付する必要があります。
※債権額はタイバーツ建ての計算が必要となります。
※申請書は、営業時間内に破産裁判所において管財人に直接提出する必要があり、郵送、電子メールやその他の方法による申請は受理されないとのことです。
5 更生計画案の作成・提出
更生計画者の選任の公告から3か月以内に、更生計画案を管財人に提出します(第90条43項)。更生計画の実施期間は、5年を超えない範囲で実行されます(同条同項)。
6 更生計画案の承認
更生計画案は、債権者集会において承認されなければなりません(第90条44項)。その承認の要件は、次の通りとなっています。なお、債権者集会において承認された後、破産裁判所にその結果を報告し、その内容を破産裁判所が承認します。
(1)すべての債権者グループの決議(債権者の過半数と総債権額2/3以上の賛成)による承認
又は、
(2)少なくとも1債権者グループにおいて上記決議がなされた上で、債権者全体の債権者のうち債権総額の半数以上の承認(いわゆるクラムダウン方式)
ここでいう各債権者グループとは次を意味します。
(1)全債権額の15%以上を有する有担保権者
(2)その他の有担保権者
(3)一般債権者
(4)法律または契約による劣後債権者に分けられます。
過去のケースでは、上記要件を債権者集会にて満たせないこともあり、その場合は、通常の訴訟又は破産申立により債権回収を図ることになります。
7 会社更生手続の終了
裁判所は、更生計画実施期間終了までに更生計画が実施されたと判断した場合には、会社更生手続の終了を決定します。他方、更生計画実施期間が終了し、破産が相当と判断した場合には、財産保全命令を下すことも可能となります。
なお、2016年の破産法改正によりSmall and Medium Enterprises(SMEs)に関する会社更生の特例制度が定められました。こちらは別途ニュースレターにて、改めて解説する予定にしております。
以 上
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yuto.yabumoto@oneasia.legal(藪本 雄登)