改正公益通知者保護法について
改正公益通知者保護法について報告致します。
改正公益通知者保護法について
2020年9月7日
One Asia Lawyers
1. はじめに
2006 年に国民生活の安定と社会経済の健全な発展に資することを目的として公益通報者保護法が施行されました。しかしながら施行後、通報を受けた企業が通報者に対して不利益措置を講じる等の事例が報告され、制度の機能不全が指摘されていました。こういった状況を踏まえ、より実効性のある制度構築をするべく2020 年6 月8 日に同改正法が成立しました(「改正法」)。改正法は公布日である2020 年6 月12 日から2 年以内に施行されますが、具体的な施行日は未だ公表されていません。
以下では、改正法の要点をご紹介します。
2. 公益通報
公益通報とは、労働者等の一定の要件を満たす者が、事業者において生命・身体・財産等の利益の保護に係る一定の法律に規定する犯罪行為等の事実が生じるかまたはまさに生じようとしている旨を当該事業者、行政機関または発生防止・被害拡大の防止に必要となる者に通報することを言います(改正法2条)。
改正法のもとで労働者等から通報を受けた企業は、事実関係調査を行い、報告を共有し、会社の側に問題があると判断した場合には自ら是正措置を講じて自浄作用を発揮することが期待されています。
3. 内部通報制度の体制整備
(1)内部通報制度の体制整備義務付け
(a) 対象となる企業及び内容
常時雇用する労働者の数が300 名を超える企業に対しては、①受付・調査・是正の
ための業務に従事する者(「公益通報対応業務従事者」)を定める義務(改正法11
条1 項)及び②内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等を行う義務が
課されます(改正法11 条2 項)。
(b) 違反の効果
上記の義務に違反した場合で、行政庁の勧告に従わないときには、企業名や違反事
実につき公表される可能性があります(改正法15 条、16 条)。
また、上記義務に関して行政庁から施行状況の報告を求められた場合で、これにつ
いて報告をしなかったり、虚偽の報告を行ったりしたときには、改正法の下で新た
に20 万円以下の過料に処せられます(改正法22 条)。
(c) 今後の対応
②の内容については、今後内閣総理大臣による指針により明らかにされ、公表され
る予定です(改正法11 条4 項、6 項)。既に内部通報制度を設置している企業で
も、自社の制度が当該指針に沿ったものであるかどうかの確認が必要となります。
(2)公益通報対応業務従事者
(a) 守秘義務
今回の改正法では、現在又は過去の公益通報対応業務従事者に対して、正当な理由
なく公益通報者(「通報者」)を特定する情報を漏洩してはならないとする守秘義
務が課されました(改正法12 条)。
(b) 違反の効果
守秘義務に違反した公益通報対応業務従事者に対しては、30 万円以下の罰金が科さ
れます(改正法21 条)。
(c) 今後の対応
上記の通り公益通報対応業務従事者の違反については、当人に対し新たに刑事罰が
予定されており、企業としては守秘義務の存在・内容について、研修等を通じて対
象者への周知を行っていくことが今後必須となると考えられます。また、取り扱わ
れる通報者の情報について適切に管理がなされているかどうかについても適宜確認
する必要があります。
4. 内部通報制度の利用活性化措置
(1)通報者の対象の拡大
現行法下で通報者は現在勤務している労働者、派遣労働者、請負労働者等に限られていますが、今回の改正法では、現在のみならず過去1年以内に雇用・契約関係にあったかつての労働者、派遣労働者、請負労働者等についても拡張されました(改正法2 条1 項1 号乃至3 号)。更に今回、役員(取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人等)についても新たに通報者として加えられました(改正法2 条1 項4 号)。
(2)通報者の保護
通報者への報復措置を防ぐため、公益通報によって損害を受けたことを理由として、通報をされた企業が通報者に対して損害賠償できないとする旨が新たに明文で規定されました(改正法7 条)。
(3)その他
(a) 通報対象事実の拡張
改正法では犯罪行為の事実のほかに、新たに個人の身体、生命、財産その他の利益
の保護に関る過料の理由とされている政令違反の事実についても通報を行うことが
可能となり、通報対象事実が拡張されました(改正法2 条3 項1 号)。
(b) 通報した役員が解任された場合の損害賠償請求
通報者となった役員が解任された場合で、当該役員において調査是正措置をとるこ
とを努めたなどの一定の条件が認められるときに、当該役員から企業に対する損害
賠償請求が認められることが新たに明示されました(改正法6 条)。
5. 現時点での具体的対応策(ガイドライン、内部通報制度認証制度の活用)
指針の発表に合わせて改訂されることが予想されますが、指針が出るまでの間の対策として参考になるのが、消費者庁の「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事 業者向けガイドライン」(平成 28 年 12 月9日)とこれをベースにした内部通報制度認証(Whistleblowing Compliance Management System 認証:WCMS 認証)基準です。ガイドラインとWCMS認証基準にはそれぞれ次のような内容が含まれます。
ガイドライン |
①通報窓口の整備・拡充、②従業員等への周知・研修、③適切な調査・報告・是正(独立した調査権限を持つ者による調査等)、④通報に関する秘密保持厳守、⑤中立公正な外部窓口の活用(法律事務所等)、⑥不利益取り扱いの禁止、⑦フォローアップ(通報者への不利益有無確認、再発していないか等の確認)、⑧定期的な認証制度の評価実施・改善等。 |
WCMS認証基準 | |
必須項目 | 任意項目 |
内部通報制度の意義・目的の明確化、経営トップによるメッセージの発信、経営トップの責務及び役割の明確化、通報窓口の整備及び利用方法の明確化、通報窓口利用者・通報対象事項の範囲等の設定、内部規程の整備、通報対応における利益相反関係の排除、通報対応に関する質問・相談への対応、内部通報制度の実効的な運用のために必要な事項の周知・研修、通報者等への通知、通報受付や調査・是正等のために必要な体制の確保、調査協力の確保及び調査妨害の防止、調査結果を踏まえた是正措置等の実施、内部通報制度の運用担当者に対する教育・研修、通報に係る秘密保持の徹底、通報に係る記録・資料の適切な管理の確保、調査実施における秘密保持、通報者等に対する不利益取扱いの禁止、不利益取扱いが判明した場合の救済・回復措置、通報者等に対し不利益取扱いを行った者に対する措置、通報等に関する秘密を漏らした者に対する措置、被通報者による不利益取扱いの防止、通報者等の保護のためのフォローアップ、是正措置及び再発防止策のフォローアップ | 通報窓口の利用しやすさの向上、経営幹部から独立性を有する通報受付及び調査・是正の仕組みの整備、通報対応に係る業務を外部委託する場合における中立性・公正性等の確保、内部通報制度に対する従業員の意見の把握、内部通報制度の運用実績を用いた信頼性の向上、経営トップが内部通報制度に関する理解を深めるための機会の確保、内部通報制度の運用担当者による貢献の評価、通報者・調査協力者による貢献の評価、外部窓口の信頼性の確保、通報者本人による適切な情報管理の確保、禁止される不利益取扱いの類型の具体化、法令違反等に関与した者による問題の早期発見・解決への協力の促進、内部通報制度の整備・運用状況等のステークホルダーへの情報提供 |
6.おわりに
コーポレート・ガバナンスの観点から、また、特に法令違反等の早期発見と予防の観点から、内部通報制度の適切な体制整備は年々重要視されてきています。改正法により、一定規模以上の企業に設置義務が課されるとともに、通報を行う人・通報の対象も拡張したことにより、利用の機会が増大すると予測される一方、他方で通報者との関係ではその保護の強化(通報者特定情報の適切な取扱い、通報者に対する不利益措置禁止の徹底)が求められるなど、今後の内部通報体制の構築および見直しにあたり、配慮しなくてはならない点が追加されます。なお、施行までに内閣総理大臣により公表される指針に基づいた制度設計が必要となりますが、2020 年月9 日1 日現在公表されておらず、今後の動向にも注意が必要です。
以 上