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シンガポール個人情報保護法Q&A(第8回)

2021年05月03日(月)

シンガポール個人情報保護法Q&A(第8回)についてニュースレターを発行いたしました。

PDF版は以下からご確認ください。

シンガポール個人情報保護法Q&A(第8回)

 

2021年5月3日

One Asia Lawyers シンガポール事務所

 

シンガポール個人情報保護法Q&A(第8回)

 

本稿執筆の背景については、第1回記事の冒頭をご参照ください。

Q.訂正義務(Correction Obligation)の具体的な内容は、どのようなものですか。

PDPA第22条第1項においては、個人は、事業者が保有し、又はその管理下にある個人情報の誤りや脱落の訂正をその事業者に求めること(以下、「訂正要請」)ができることが規定されています。

訂正要請を受けた事業者は、要請通りに訂正を行うべきかどうかを検討する義務を負います。この点について、第22条第2項に基づき、事業者は、合理的な理由により訂正を行うべきではないと判断した場合を除き、次のことを行わなければなりません。

  1. a) 実務上可能な限り、速やかに個人情報を訂正すること。
  2. b) 個人情報の訂正を求められた日から1年以内に、その対象となる個人情報を開示した他の全ての事業者に訂正後の個人情報を送付すること。但し、当該他の事業者が何らかの法律上又は事業上の目的のために、その訂正後の個人情報が不要な場合を除く。

なお、事業者は、第22条に基づく個人情報の訂正を要請された場合には、訂正料を請求することはできません。

Q.事業者が訂正義務を履行しなくても良い場合はありますか。

この訂正義務(第22条第1項)には、第22条第6項及び第7項に基づき、いくつかの例外が存在しています。

第22条第2項に基づく訂正にかかる他の事業者への通知義務に関して、第22条第3項においては、信用情報機関以外の事業者は、本人の同意を得た上で、訂正後の個人情報の送付先につき、当該事業者が開示した特定の組織に限定することができるとされています。

そして、この通知を受けた他の事業者は、訂正を行うべきではないという合理的な理由がある場合を除き、第22条第4項に基づき、その事業者が保有し、又はその管理下にある個人情報を同様に訂正することが求められています。

このような義務については、次のような事例をもとに理解することができると思われます。すなわち、あるオンライン小売業者が、顧客から住所(顧客の個人情報の一部)のアップデートを求められた場合には、その小売業者は、通常は顧客の訂正要請を拒否する合理的な理由がないため、データベースにおける顧客の住所を訂正(アップデート)することになります。そして、その小売業者は、訂正後の住所を、顧客に対するアフターサービスを提供する関連会社に送信します。しかし、顧客の保証期間が既に終了している場合には、その関連会社は、法律上又はビジネス上の目的で訂正された住所を必要としないと考えられるため、特段の訂正を行わないことになります。更に、この小売業者は、顧客が小売業者から購入した特定の製品の配送を行った宅配業者には、既に法律上又は事業上の目的で顧客の更新された住所を必要としないため、訂正された住所を送る必要はないと考えられます。

なお、訂正を行わない合理的な理由がある場合であっても、事業者は第22条第5項に基づき、訂正を求められたにもかかわらず訂正を行わなかったことを示す注釈(メモ)を、対象となった個人情報に記載すべきことになる点には注意が必要です。実務上は、更に、訂正を行わないことを決定した理由を本人に説明することが推奨されると説明されています。

このほか、第22条第7項においては、附則6(Sixth Schedule)で定められた事項については、訂正を行う必要はないと規定されています。これには次のようなものがあります。

(a) 評価目的[1]のみのために保管されている意見にかかる情報[2]

(b) 教育機関が実施する試験、試験のスクリプト、試験結果の公表前の試験結果

(c) 私的信託の受益者の個人情報であって、信託の管理のみを目的として保管されるもの

(d) 仲裁・調停機関が管理する仲裁・調停手続の目的のみのために、その機関が保管するもの

(e) 手続が完了していない刑事手続に係る文書

 また、第22条第6項に基づき、事業者は、専門家意見に関するものについても訂正が不要ということになっています。

上記にかかわらず、事業者は、第21条第1項に基づき、合理的に可能な限り速やかにアクセスを提供し、第22条第2項に基づき、実務上可能な限り速やかに個人情報を修正する責任を負うとされています。

 

以上

[1] 「評価目的」については、第2条第1項において次の通り定義されています。

(a) その個人情報が関係する個人の適性、能力又は資格を決定する目的:(i) 雇用又は役職への任命、(ii) 雇用又は役職における昇進、継続、(iii) 解雇、(iv) 教育機関への入学、(v) 契約、賞、奨学金、名誉、又はその他の類似の給付の授与、(vi) 運動又は芸術に関する選考、又は (vii) 公的機関が管理するスキームの下での財政的若しくは社会的援助の付与、又は適切な保健サービスの提供のため

(b) 契約、賞、奨学金、名誉、又はその他の同様の給付を継続、修正又は取消すべきかどうかを決定する目的

(c) 個人若しくは財産に保険をかけるかどうか、又は、保険を継続若しくは更新するかどうかを決定する目的

(d) その他これに類する目的で大臣が定めるもの

[2] 例えば、雇用主が保管する従業員の業績評価記録に関する情報がこれに該当します。

 

本記事やご相談に関するご照会は以下までお願い致します。

tomoyoshi.ina@oneasia.legal