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マレーシア汚職防止委員会法改正法の適用範囲について

2021年08月16日(月)

マレーシア汚職防止委員会法改正法の適用範囲についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシア汚職防止委員会法改正法の適用範囲について

 

マレーシア汚職防止委員会法改正法の適用範囲について

2021年8月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士 橋本 有輝

 マレーシアにおける汚職防止については、マレーシア汚職防止委員会法(Malaysian Anti-Corruption Commission Act 2009:以下「MACC法」)が規定されていたところ、昨年法人及び取締役の責任を定めたMACC法の改正法(Malaysian Anti-Corruption Commission (Amendment) Act 2018:以下「MACC改正法」)が施行された。

そこで、本稿ではマレーシアにおける汚職防止に関する規制内容の概要及びMACC改正法について解説し、同法の適用対象となる企業の範囲等を明らかにする。

1 イントロダクション

 マレーシアは、トランスペアレンシー・インターナショナルが公開している世界各地の公務員等がどの程度汚職しているかを示す順位(2020年)で世界179か国中57位と、シンガポールの3位、日本の19位と比べると低く[1]、依然として汚職防止に向けたさらなる取り組みが要求される状況にある。

2 規制対象行為

 MACC法16条は、ある者が①自ら又は他の者と共同するなどして、②汚職の意図をもって、③ある者の作為・不作為/公務員の公務に関する作為・不作為について、④その誘因(inducement)、又は見返り(reward)として⑤便益(gratification)を⑤勧誘し、受領し、受領する合意をすること又は供与し、供与の約束をし、供与を申し出たことに対する罰則を設けている。同様にMACC法17条は、本人の業務に関する汚職について代理人の責任も定めている。

 上記の定義においては、汚職の当事者は公務員に限らず民間の当事者同士においても汚職が成立する、という点に注意が必要である。

 他方で、これまでのMACC法の下では、汚職を行った当該個人の刑事責任のみが定められているに過ぎなかった。

3 会社及び取締役等の責任

 そこで、MACC改正法は、以上の規制の在り方を変更し、汚職を行った個人のみならず、その個人が属する会社や関係者にも責任を拡大する規定を置いた(同法は2020年に施行)。

(1)会社に責任が及ぶ場面

 会社関係者が、会社の事業あるいは事業遂行上の利点を得る又は保持することを意図して、便益を供与し、供与の同意をし、供与の約束をし又は供与を申し出た場合、当該会社が処罰される(MACC改正法17A条(1))。

 ただし、後述の4記載の通り、会社には免責事由が定められている点が最も重要である。

 ここでいう「会社」とは、マレーシアの会社法のもと設立された会社、マレーシアで事業を行う会社(外国会社含む)、マレーシアの組合法(Partnership Act 1961)に基づく組合等を指す(MACC改正法17A条(8))。

 したがって、マレーシアにおいて事業を営むあらゆる類型の企業はこの規定の適用を受けることになることにまず留意すべきである。

 また、「会社関係者」とは、当該会社の取締役、パートナー若しくは従業員又は当該会社のために若しくは当該会社に代わって役務を提供する者を指し(MACC改正法17A条(6))、「当該会社のために若しくは当該会社に代わって役務を提供する者」か否かは、この者と会社との間の関係性の性質だけから判断するのではなく関連する全ての状況を加味して判断される(同条(7))。

したがって、「会社関係者」とは、会社内部の者に限られず非常に広い範囲の者が対象に含まれうる点にも留意すべきである。

(2)取締役等に責任が及ぶ場面

 上記(1)に基づいて会社が責任を負う場合、その汚職行為があった時点で取締役、役員及び当該汚職の管理に関係していた者などは、汚職行為の責任を負う可能性がある(17A条(3))。

 ただし、この汚職行為がその者の同意乃至黙認に基づかずに行われたものであること及びその者の職務に照らして汚職防止に向けた適切な注意を払っていたことを証明できた場合にはこの責任を免れることが出来る。

(3)会社に対する罰則の内容

 上記の各規定に基づき会社や取締役が有罪判決を受けた場合、①汚職行為の対象となった便益の価値の10倍又は100万リンギットのいずれか高い方の罰金、②20年以下の禁固刑、又は③その併科という重い罰則が定められている(17A条(2))。

4 会社及び取締役等が責任を免れるための方策

 以上の通り、MACC改正法により、会社及び取締役はその関係者による汚職行為につき責任を負いうることが明確となった。

 しかしながら、同法は会社がその責任を免れるための免責事由を定めている点に留意が必要である(17A条(4))。

 すなわち、同規定によれば、罪に問われている会社が、当該汚職行為を会社関係者が行うことを防止するための適切な措置を採っていた場合には、当該会社は免責されると規定されている。なお、取締役等の責任は、会社が責任を負うことが前提となっているため、会社にとっての免責事由は取締役等の責任の存否に対しても影響があるものと考えられる。

 さらに、ここでいう「適切な措置」の具体的内容は、別途発行される「ガイドライン」によって明らかにされると規定されていたところ、このガイドラインは2018年12月に公表された[2]

5 企業に求められる姿勢

 上記4のガイドラインの具体的内容及び企業の採るべき方策については、紙幅の関係上、別稿に譲ることとするが、上記に述べた通り、マレーシアで事業を行う企業はすべからくMACC改正法の適用を受けうること、「会社関係者」の概念の広範さゆえ企業が個人による汚職行為の責任を問われる範囲が広いこと及びその罰則の重さなどに鑑みれば、マレーシアでビジネスを行う上ではMACC法及び同改正法への対応は不可避というべきであり、法及びガイドラインに沿って汚職防止に向けた対策を進めていくことが重要である。

 

[1] https://www.transparency.org/en/cpi/2020/index/nzl 

[2] https://f.datasrvr.com/fr1/119/75252/Prime_Ministers_Department_-_Guidelines_on_Adequate_Procedures.pdf