パキスタンの外国投資規制
パキスタンの外国投資規制についてニュースレターを発行しました。
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パキスタンの外国投資規制
2021年9月14日
One Asia Lawyers 南アジアプラクティスチーム
パキスタン・イスラム共和国(以下、パキスタン)は、2億人を超える人口を擁する市場規模と、豊富な労働力から、外国投資の対象として注目を集めています。
本ニュースレターでは、パキスタンにおける外国投資に関する規制を解説いたします。
なお、2021年9月15日発売の『南アジアの法律実務』(中央経済社)では、パキスタンにおける会社の設立や運営に加え、労働法、清算法等の法務実務を解説しています。本著の解説セミナーも10月12・13日に開催予定ですので、ぜひご参照ください。
- 1.パキスタンの概要
インダス川流域の中心にあり、インダス文明の発祥地となったパキスタンは、19世紀に現在のパキスタン、インド、バングラデシュ等を包含した英国インド領として植民地となりましたが、1947年にイスラム教の国としてインドとは別に独立し、その後、東パキスタン部分は内戦を経て1971年にバングラデシュとしてパキスタンから独立しています。
中国の影響も強く、カラコルム・ハイウェイの再整備やグワダル港の開発を含む中国パキスタン経済回廊(CPEC)や、中国の一路一帯構想による経済圏の発展に、大きな期待が寄せられています。
パキスタンの概要 |
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首都 |
イスラマバード |
面積 |
79.6平方㎞(日本の約2倍) |
人口 |
2億3,818万人(2021年7月推計)(米国中央情報局) |
言語 |
パンジャブ語(48%)、シンド語(12%)、サライキ語(10%)、ウルドゥー語(国語、8%)等 |
民族 |
パンジャブ人、シンド人、パシュトゥーン人、バローチ人 パンジャブ人が人口の過半数を占める |
宗教 |
イスラム教(国教、96.4%)、ヒンドゥー教、キリスト教、ゾロアスター教など |
政体 |
連邦共和制 |
通貨 |
パキスタンルピー(PKR) |
GDP |
約2,842億ドル(2019年)(IMF) |
イスラム教の国であり、ヒジュラ暦(略称A.H.)を使用するため、西暦とは年が異なり、西暦2021年8月10日にヒジュラ暦1443年が始まっています。会計年度は7月から6月です。
- 2.外国企業の投資規制
パキスタンの外国投資を規制する法律として、「外国民間投資(促進・保護)法」[1]と「経済改革保護法」[2]があり、投資促進機関としては、パキスタン投資庁(Board of Investment(BOI))が投資に関する申請や許認可を管轄します。
外国投資についての規制は少ないとは言え、一部の分野を除き、ほぼすべての分野が外国投資に開放さており、最低資本金も2013年に規制が廃止されています。
- (1) 外資規制
規制業種に関し、パキスタンでは、インフラ関連産業、サービス業を含むほとんどの業種が外資に開放されていますが、以下の産業に関しては、政府の許可が必要とされます。
① 兵器、弾薬 ② 高性能爆薬 ③ 放射性物質 ④ 有価証券、通貨、貨幣の製造・印刷 ⑤ 酒類,アルコール類(工業用を除く)の製造所の新設 |
出資比率については、ほとんどの業種において100%の外資参入が認められますが、航空(49%まで)、金融・保険(49%まで)、農業(60%まで、ただし農業経営法人は外資100%が認められている)などの分野では、外資の出資割合に上限が定められます。
最低資本金も現在は規制されていません。
国外送金に関しては、外為規制に従い、利益・配当を投資元に送金することが可能です。ただし、各種手続きが円滑でなく、遅延が生じることも少なくありません。
土地の取得・所有については、パキスタン政府の許可が必要となるものの、外資100%であっても認められます。なお、土地のリースをする場合は、通常50年間の契約が可能であり、その後の延長も可能です。
- (2) 投資奨励措置
奨励産業として、食品加工業、交通インフラ・物流業、縫製業、自動車産業、IT産業、建設・住宅事業、観光業が挙げられています。
パキスタンの投資奨励措置には、外資と内資で特段の区別は設けてられておらず、主に所得税法に基づく税の優遇措置が適用されます。
ただし、所得税法や税率は頻繁に改正されており、歳入庁がその都度通達(Statutory Regulatory Orders)を発出しているため、同庁のウェブサイト等で最新の規制を確認することが求められます。
【主な投資奨励措置】
小規模会社[3]に対する法人所得税減税措置: 2021年度は22%、2022年度21%、2023年度以降20%(通常の会社の法人所得税率は29%) 資本財の輸入に対する税金の減免: パキスタン国内で製造されていない工場設備、機械、機器の輸入関税、これらの輸入に関する売上税が引下げられる。 タックスクレジットの付与: 雇用を創出した製造業者、新卒者を雇用した納税者、(2022年6月30日までに)上場した会社、新設工場・設備機械に投資した納税者等に対しタックスクレジットが付与される。 加速減価償却: 最初の税務年度において工場設備および機械(中古製品、輸送用車両、家具等は対象外)の減価償却率を25%(指定の農村地域・未開発区域における事業設立の場合は90%)とすることが認められる。 |
【特定事業分野に対する優遇措置】
発電プロジェクトに対する免税措置: パキスタンで設置された発電プロジェクトから得た利益・売上に対する税金の免除 コンピューターソフトウェアの輸出、IT産業に対する免税措置: 2025年6月30日までにコンピューターソフトウェアの輸出、ITサービス、IT Enabledサービス(ITES)から得られた利益・売上に対する税金の免除 精油事業に対する免税措置: 2018年7月1日から2023年6月30日までに精油事業から得た利益・売上について、一定要件を満たすことを条件に税金免除 低価格住宅プロジェクトに対する免税措置: 低価格住宅プロジェクトから得た利益・売上について、一定要件を満たすことを条件に50%の免税 液化天然ガス事業に対する免税措置: 液化天然ガス基地の運営者および所有者は、生産から5年間、利益・売上に対する税金の免除 |
- (3) 輸出加工区・経済特区・輸出志向型企業に対する優遇措置
輸出企業向けのための工業用地として、1989年に最初の輸出加工区(Export Processing Zone)がカラチに設置され、現在は、カラチ、リサルプール、サイアルコット、サインダックの輸出加工区が稼働しています。輸出加工区の入居企業は、設備・機械・原材料に関する税金および関税の免除、無期限の損失繰越等の優遇措置を享受できます。
パキスタンには現在約20の経済特区(Special Economic Zone)が承認を受けています。経済特区に入居する企業は、10年間の所得に対する税金の免税(2020年6月30日以降に生産を開始した企業については5年間)、経済特区での工場の建設資材、工場に設置する機械類の輸入関税の免除(一度限り)といった優遇措置を受けられます。
生産品の輸出を行う「輸出志向型企業」に対しては、輸出加工区や経済特区に関連する優遇措置とは別に、輸出商品の製造に必要な資本財や投入財(機械・原材料等)の輸入および現地調達について、関税の免除(原材料に関する使用期間は24カ月、車両・スペアパーツの保持期間は10年間)等の優遇措置が設けられています。
- (4) 進出形態
パキスタンへの進出形態としては、株式会社(公開、非公開、単独株主)、支店、駐在員事務所、有限責任パートナーシップ(LLP)があり、その中でも、非公開株式会社による進出が一般的です。
株式会社の設立等を監督する官庁は、証券取引委員会(Security and Exchange Commission of Pakistan (SECP))であり、オンライン上で様式取得や申請が可能です。
他方、外国企業の支店または駐在員事務所の設立は、BOIによる認可を取得した後に、SECPに登録することとなります。
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現地法人 |
支店 |
駐在員事務所 |
LLP |
事業範囲 |
パキスタン法人として外資規制の範囲内で事業実施が可能。 |
特定の契約(プロジェクト)履行のための形態。契約範囲外の活動は不可。実務上は建設、インフラ、銀行、航空、海運等に限定。 |
調査、販促活動等に限定。営業活動・商業活動は不可。 |
組織体(bodies corporate)として合法的に行うことができる活動等 |
手続 |
SECPに登記 |
BOIに許可申請後、SECPへ登録 |
SECPに登記 |
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特記事項 |
非公開株式会社の形態が一般的 |
認可期間は3~5年。更新が可能 |
パートナー2名以上。代表パートナーはパキスタン居住の個人 |
会社法上の公開会社、非公開会社、一人株主会社の株主数、取締役数は以下のとおりです。
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公開会社(非上場) |
非公開会社 |
一人株主会社 |
株主数 |
3人以上 |
2人以上50人以下 |
1人 |
取締役数 |
7人以上 |
2人以上 |
1人以上 |
株式譲渡制限 |
制限なし |
制限あり |
- |
一人株主会社は、外国人であっても設立できるとされています。
その他、会社の設立や運営、関連法務実務に関しては、『南アジアの法律実務』(中央経済社)において解説していますのでご参照ください。
以上
[1] Foreign Private Investment(Promotion and Protection)Act, 1976
[2] Protection of Economic Reforms Act, 1992
[3] 小規模会社の要件は次のとおり:1)2007年7月以降に会社法に基づいて設立され、2)資本金および資本準備金が6,000万PKRを超えず、3)従業員数が年間で250人を一度も上回らず、4)年間売上高が2.5億PKRを上回らない、5)既存の会社の分割または事業再編によって成立したわけではない会社
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