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日本における民事訴訟法改正案の概要について

2022年05月11日(水)

日本における民事訴訟法改正案の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

民事訴訟法改正案の概要

 

民事訴訟法改正案の概要

2022年5月11日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2022年3月8日、第208回国会に民事訴訟法等の一部を改正する法律案[1][2](以下「本改正法案」といいます。)が提出されました。

1 概要

 本改正法案における主な改正点は民事裁判手続のIT化、裁判期間の短縮化、個人の住所及び氏名の秘匿制度の創設が挙げられます。

本ニューズレターでは、上記の改正点に関してそれぞれ解説いたします。

2 民事裁判手続のIT化

 (1)背景

 現在、日本の民事裁判手続のIT化に関して諸外国と比較すると非常に遅れた状態にあるとされています。例えば、訴状等の裁判書類のオンライン提出は、アメリカでは1990年代前半より開始されており、また、アジアではシンガポールが先進的で、1998年から取り組みが始められています[3]

 日本では、2004年に民事訴訟法に裁判書類のオンラインによる提出のための規定(現行法第132条の10)が置かれ、翌年4月の施行から約4年間、札幌地方裁判所にて一部の申立て等をオンラインで行うシステムが試行されましたが、実務に定着することなく2009年3月に運用が停止されました。その後2017年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」[4]において、「裁判に係る手続等のIT化を推進する方策」について検討する方針が定められ、実現のために検討が行われました。その結果、2018年3月に「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ―「3つのe」の実現に向けて―」[5]が公表され、民事裁判手続のIT化が段階的に進められることとなり、まずは法改正が必要なく運用で実現できるものとしてTeamsを利用したウェブ会議による手続が進められました。また、2022年2月よりインターネットを利用した民事裁判書類の電子提出システム(mints[6])による裁判書類の提出が一部の裁判所において開始され、2022年夏又は秋頃には知的財産高等裁判所、東京地方裁判所、大阪地方裁判所でも運用が開始される予定です。

 そして、裁判手続のIT化をさらに進めるために必要な法改正に取り組むべく、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会における審議[7]を経て、本改正法案が国会に提出されました。

(2)訴訟記録の電子化

 訴状等の裁判所に提出する裁判書類を含め、裁判関係文書等は全て「紙」で作成され、管理されてきました。本改正法案では、これらの訴訟記録を電子化することを想定し、それに伴う手続が規定されています。

 まず、弁護士が訴訟代理人として訴訟を遂行する場合、弁護士は裁判書類の電子提出が義務化されます(法案第132条の11第1項1号)。また、電子判決書の導入(法案第252条1項)、電子呼出状による期日の呼出し(法案第94条1項1号、2項)、電磁的記録の送達(法案第109条、第109条の2)、電磁的記録の公示送達(法案第111条2号)等についても規定がされています。送達に関しては、原則電磁的記録を出力することにより作成した書面で行うこととされていますが(法案第109条)、電子情報処理組織による送達を受ける旨の届出がされている場合は、当該方法による送達が可能とされています(法案第109条の2第1項)。なお、電子提出が義務化される弁護士については、当該届出がされていなくても電子情報処理組織による送達が可能とされています(法案第109条の4第1項)。

 また、訴訟記録の閲覧謄写等は、これまでは当事者であっても裁判所に足を運ぶ必要がありましたが、訴訟記録の電子化に伴い、当事者及び利害関係を疎明した第三者は、電磁的訴訟記録を裁判所設置端末及び裁判所外端末から閲覧及び複写することが可能となります(法案第91条の2第2項)。

(3)ウェブ会議の利用

 新型コロナウィルスの流行に伴い、これまであまり使用されていなかったTeamsを利用したウェブ会議システムを利用した弁論準備手続、書面による準備手続が裁判手続において頻繁に開催されるようになりました。しかし、弁論準備手続ではウェブ会議システムを利用するには一方の当事者の出頭が必要とされていました(現行法第170条3項、民事訴訟規則第96条1項)。

 本改正法案において、ウェブ会議等による口頭弁論(法案第87条の2第1項)、弁論準備手続(法案第170条3項)、書面による準備手続(法案第176条2項)の規定が整備されています。弁論準備手続については、本改正法案では一方当事者の出頭の要件が撤廃され、最高裁判所規則に基づき手続が行われるようになります。

 また、本改正法案は、ウェブ会議による尋問の実施要件が緩和されました。現行法では証人が遠隔地に居住する場合等にテレビ会議システムによる尋問が認められていましたが(現行法第204条)、本改正法案では上記の場合に加えて当事者に異議がない場合にもウェブ会議による尋問が可能となります(法案第204条3号)。また、裁判所が相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、裁判所外でウェブ会議を用いた証拠調べの手続も可能となります(法案第185条3項)。その他、審尋(法案第87条の2第2項)、通訳人(法案第154条2項)、参考人等の審尋(法案第187条3項、4項)、和解の期日(法案第89条2項)等も、ウェブ会議システムを用いて実施できるように規定されました。

3 裁判期間の短縮化

 裁判手続のIT化につき、新しい審理手続として「法定審理期間訴訟手続」と呼ばれる手続が創設されることになります(法案第381条の2第1項)。ただし、消費者契約に関する訴え及び個別労働関係民事紛争に関する訴えは除かれています。

 当該手続を利用するためには、当事者双方の申立て、又は一方の申立てと他方の同意が必要となります(同条2項)。当該手続を行う決定がされた場合は、決定の日から2週間以内に口頭弁論又は弁論準備手続の期日を指定し、また当該期日から6か月以内に口頭弁論を終結し、口頭弁論を終結する日から1か月以内に判決が言い渡されることになります(法案第381条の3)。判決については、訴えを却下した判決以外は控訴することができません(法案第381条の6)。なお、当事者は判決の送達を受けた日から2週間以内に異議の申立てをすることができ(法案第381条の7第1項)、異議があれば通常の手続によりその審理及び裁判をするとされています(法案第381条の8第1項)。

4 秘匿制度の創設

 当事者又はその法定代理人の住所、氏名等を他方当事者に対しても秘匿することができる制度が新たに設けられています(法案第133条1項)。従来の閲覧等制限の制度では、閲覧等の制限決定の対象となった情報も相手方当事者には開示されていましたが、当該秘匿制度では他方当事者に対しても秘密が保護されることになります。当該制度は、DV被害者や性犯罪被害者が加害者に氏名や住所を知られることなく訴えを提起するような場面が想定されています。

以上

 

[1] 法務省「民事訴訟法等の一部を改正する法律案」新旧対照条文https://www.moj.go.jp/content/001368845.pdf

[2] 法務省「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱案」(令和4年1月28日)https://www.moj.go.jp/content/001365873.pdf

[3] 杉本純子「シンガポール・アメリカにおける裁判手続等のIT化」https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/dai2/siryou5.pdf

[4] 「未来投資戦略2017」https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2017.pdf

[5] 裁判手続等のIT化検討会「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ―「3つのe」の実現に向けて―」(平成30年3月30日)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/pdf/report.pdf

[6] 「民事裁判書類電子提出システム(mints)について」https://www.courts.go.jp/saiban/online/mints/index.html

[7] 法制審議会-民事訴訟法(IT化関係)部会https://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_003005.html