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バングラデシュにおける労働規則改正について

2022年10月13日(木)

バングラデシュにおける労働規則改正についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

バングラデシュ労働規則改正:180日以上の雇用は無期限の「正社員」に

 

バングラデシュ労働規則改正:180日以上の雇用は無期限の「正社員」に

2022年10月13日
One Asia Lawyers 南西アジアプラクティスチーム

バングラデシュでは労働法に基づき6つの雇用形態がありますが、日本の正社員にあたる「常勤(permanent)」雇用と、日本の契約社員にあたる「有期(temporary)」雇用について、区別の仕方や時間枠がこれまで法的に明確ではありませんでした。にもかかわらず、この雇用形態の違いにより、特に解雇時の扱いが異なるため、日系企業の方々からのご相談も少なくありません。

この度、2015年労働規則が改正され、2022年9月1日に施行されました。改正規則では101の規則に変更(2つの規則の廃止を含む)が加えられていますが、中でも注視すべきは、雇用形態に関する長年にわたる混乱に終止符を打つ規定、すなわち常勤雇用(いわゆる正社員)の定義が追加されている点です。これにより、180日以上継続して組織内で必要とされる地位・業務・仕事は、「permanent employment」とみなされると明確化されました。

本ニューズレターでは、今回の改正の中でも、とりわけ組織へ大きな影響をもたらす雇用形態の明確化について解説いたします。なお、本ニューズレター内においては、permanent workerを「正社員」と表現し、正社員に該当しない雇用形態は、便宜上「契約社員」と表現しております。

また、その他の重要な規則改正についても一部紹介いたします。

1.労働法上の正社員の定義

労働雇用省(Ministry of Labour and Employment)により発表された改正労働規則は、9月1日に発効となっています。

バングラデシュ労働法(Bangladesh Labour Act)上、労働者には以下の7つの区分があり、使用者が労働者を雇用する際は、労働区分を明記する必要があります。

 (a)apprentice実習生:研修見習いとして雇用されたもの

 (b)badli (substitute)代替要員:常勤者等が一時的に不在の際に当該ポストを埋める要員

 (c)casual臨時雇い:一時的に発生する業務のために一時的に雇用されたもの

 (d)temporary有期労働者:一定期間の業務のために有期で雇用されたもの

 (e)probationer試用労働者:常勤労働者として雇用され、試用期間を満了していないもの

 (f)permanent正社員:常勤で雇用され、試用期間を満了したもの

 (g)seasonal:季節労働者:季節的に発生する業務のために当該シーズンの実雇用されたもの

今回問題となる(d) temporary workerと(f) permanent workerについて、労働法ではそれぞれ以下のとおり説明されるのみであり、正社員としてみなされる具体的な期間は明文化されていませんでした。

本質的に一時的な性質(essentially of temporary nature)を有し、かつ、限られた期間内に終了する可能性のある仕事のために事業所に使用される場合には、有期労働者という(同法第4条第5項)。

事業所に恒常的に(on a permanent basis)雇用される場合、正社員という(同条第7項)。

改正労働規則では、第18条(労働者の分類と組織図の作成)において、特定の事業所の仕事の種類と性質に応じ、180日以上継続する仕事はpermanent workとみなされると新たに規定されています。

つまり、その地位、業務、職種が、180日以上継続して組織内で必要とされるものであれば、そのポストで労働者を雇用する限り不可欠なものとして判断されるため、当該地位、業務、職種での契約形態は、常勤雇用でなければならないこととなります。

2.“180日ルール“の影響

バングラデシュでは、1年間などの期間を区切った雇用契約を更新する運用が多く見受けられます。これは、会社が労働者を解雇する際、有期契約の労働者であれば契約期間満了に伴い更新を行わないことで雇用を終了させることができるのに対し、正社員の場合は労働裁判所に持ち込まれる等の訴訟リスクがより高いことや、退職給付金の支払い義務[1]が発生することが背景として挙げられます。

企業側は、雇用の初期段階から正社員として起用せず、試用期間を設けたり、雇用を有期にしたりすることで対策を講じているのが実情といえます。

今回の労働規則18条の新規定導入により、これまでの契約社員から正社員に切り替えなければならないポストも多く発生することが予想されます。

改正規則は公布から1週間で施行していることから、現時点で一定期間での雇用契約に基づき雇用している従業員をただちに正社員に切り替えることまでは求められないと考えられるものの、期間満了をもって契約関係を終了させるのが困難であると(終了させようとすると訴訟等で会社側に不利な判断が下るリスクがあると)と認識しておく必要があります。したがって、無用な訴訟等に巻き込まれないよう、当該契約社員との有期雇用契約を更新するタイミングで、無期契約での正社員としての雇用に切り替えることが無難と思われます。

3.その他の主な重要改正

1)女性に対する行動とセクシャルハラスメント防止委員会

バングラデシュにはこれまでセクハラを犯罪として取り締まる法律がなく、職場でのハラスメントや暴力を禁じる法律の早期制定が指摘されていました。今回、労働法第332条(職場での女性に対する下品または礼儀に反する行動の禁止)を補完するものとして、初めてセクシャルハラスメントが規則361A条において定義され、女性従業員に対する性的嫌がらせ等を禁止する規程が導入されました。

さらに、女性を雇用するすべての職場にセクハラの苦情に対応する専門の委員会を設置することが義務付けられました。委員会の過半数は女性で構成し、メンバーは5名以上、委員長は女性が務めるものとされています。

2)出産手当の計算

出産手当に関する規定を明確化する改正です。労働法上はすべての女性労働者に対する出産手当の給付対象期間として産前産後で8週間ずつと規定されていますが、出産予定日の前8週間の予定時期を過ぎて出産した場合、出産後の8週間の休暇は全休暇と調整されることと新たに規定されました。これにより、合計16週間の出産休暇のうち、出産が予定より遅れた場合は、それに比例して産後8週間の休暇が減ることとなります。また、出産手当金の計算方法が規定され、労働者の最後の月に受け取った賃金の合計を26で割り、1日の平均賃金を決定するものとされました。

3)女性労働者の夜間労働

女性労働者に午後10時から午前6時まで勤務させる場合、すべての雇用者は当該女性労働者の書面同意が必要とされていました。今回の改正により、夜間勤務に関する同意取得の際、雇用主は女性労働者のために安全確保を含む必要な交通手段を確保することが新たに義務付けられました。また、従来は、当該同意書は12ヶ月間有効でしたが、改正後は1ヶ月間に短縮されました。そのため、女性労働者の同意は毎月末書面でとって管理するなどの運用が必要になります。

4.未消化分の年次休暇買取り規定にかかる計算方法

年休取得額の計算には、最後に支払われた給与総額(時間外手当やボーナスを除く)を30で割り、未消化の年休数を乗じるものと新たに規定されました。これまで、休取得額の計算に総支給額と基本給のどちらを用いるかが不明瞭だったこともあり、今回の規定で明確になったといえます。

以 上

 

[1] 常勤雇用者には「勤続年数×30日分」または一時給付金いずれか高い方を補償金として支払わなければならなりません(労働法第26条第4項)。