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マレーシアにおける不動産投資について

2022年11月14日(月)

マレーシアにおける不動産投資についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける不動産投資 ~外資企業による不動産購入手続き~

 

マレーシアにおける不動産投資
外資企業による不動産購入手続き

2022年11月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士 橋本有輝
マレーシア法弁護士 Najad Zulkipli

1.はじめに

 マレーシア投資開発庁(MIDA)の発表によると、マレーシアは、その良好な投資環境から外国企業に最も人気のある投資先の1つであると認識されており、多くの投資家がマレーシアを製造やグローバルサプライチェーンのハブとして、またサービスや地域統括のハブとして考えている。また、マレーシアのデータセンター市場は急速に拡大しており、ここ数年、大規模な投資が行われている。

 この中で、投資家の多くは、マレーシアにおいて不動産を取得しビジネス・事業を拡大するニーズを高めている。そこで、本項では、マレーシアでの不動産取引に適用される規制内容を概観し、外国人投資家による不動産取得に関する現在の法的枠組みを説明することとする。

2.外資企業(“Foreign Interest”)とは?

 首相府に属する経済企画室(Economic Planning Unit。以下「EPU」)が発行するガイドラインに定義される“Foreign Interest”(以下では便宜上「外資企業」と呼ぶ)とは、以下の者に関連する利害関係者、利害関係者のグループ、またはこれらの者と協調して行動する者を意味する。

 (a) マレーシア国民でない個人 および/または
 (b) 永住者である個人 および/または
 (c) 外国の会社または機関 および/または
 (d) (a)(b)(c)の当事者が現地法人又は現地機関の議決権の50%を超えて保有している場合の現地法人又は現地機関

3.制限内容について

 3.1 州政府の承認 – The National Land Code 1965(以下「NLC」)。

 NLC は、土地に関連する法律、特に土地所有権の登記、取引及び譲渡などを管理するために制定された法律である。NLCは、非市民や外国企業が不動産を取得する際の要件も規定しており、特に第433B条では、非市民や外国企業は州政府当局(State Authority)の承認がなければ土地を取得できないと定めている。

 2017年にNLCが改正され、その改正前は外国企業が工業用地を取得する場合、州政府当局の承認を得ることが免除されていた。しかし、2017年の改正により、土地のカテゴリーに関係なく、すべての外資企業による取得は州政府当局の審査を受けることになった。

州政府当局State Authorityとは?

 マレーシアは13の州と3つの連邦政府に細分化され、各州は州首相(chief minister)を長とする議会(assembly)と政府(government)からなる州政府当局(State Authority)の下に統治されている。

 州政府当局とは、州の計画を担当する当局であり、州内のすべての土地と建物の開発および使用に関する一般的な政策に責任を負っています。この権限により、土地や建物の取得は、それぞれの州政府当局の承認が必要である。

承認のための要件

(1)最低価格要件

 それぞれの州は、外国企業が不動産を購入できる最低価格を定めている。例えば、ジョホール州およびセランゴール州は200万リンギ以上、クアラルンプール、プトラジャヤ、ラブアン、ペナン州など多くの最低価格は100万リンギ以上、ケダ州やサラワク州は50万リンギ以上等と定められている。外国企業は、州政府承認が下りない結果、これら各州が定めた基準を下回る価格の不動産を取得することが原則出来ない。なお、この基準は、その時々改訂されるため、随時確認する必要がある。

(2)不動産の類型に基づく規制

 外国企業は、各州が定めるlow-cost or medium-cost unitsを取得することも出来ないとされる。これら不動産は、ブミプトラのみが取得できるものとされている。

 また、例えばセランゴール州では、外国企業は、商業用、工業用及び居住用の不動産のみ取得可能で、農業用土地は取得出来ない(居住用についてもStrata Titleというマンション区分所有に限られる)といった、用途に応じた制限が課せられるケースもある。

上記を充たせば州政府当局は外資企業による買収を承認するか?

 州政府当局は、建前上は、外国企業による不動産取得への承認につき、絶対的な裁量を有するとされている。しかし、長年の実務の積み重ねの結果、上記要件の充足や必要な書類が整えば、この承認が得られる可能性が高いことが実証されている。なお、州政府当局の承認が下りるまでのタイムラインは、事案によって全く異なるものの、3-6か月程度と考えておけば良いとされる。

3.2 経済企画ユニット(以下「EPU」)の承認

EPUとは?

 EPUは、マレーシア国家の開発計画を担当する首相府所属の主要な政府機関です。1961年に設立されたEPUの目的は、「開発計画、計画実行における主要な問題、あらゆる形態の海外に焦点を当てる」ことである。

EPUの外国企業買収に関するガイドライン

 取得金額が2,000万リンギを超え、かつ取得自体がブミプトラ所有権の希薄化につながる場合、EPUの事前承認が必要です。

 間接的な取得についても、この要件から免除されない。つまり、2,000万リンギを超える価値を持つ不動産につき、当該不動産の50%を超える持ち分を有するブミプトラinterestや政府機関の株式を購入する等して、外資企業が不動産を間接的に取得する場合で、株式購入の結果、当該企業・機関の支配権が変わる場合、EPUによる事前承認が必要となる。

ブミプトラinterestとは?

 ブミプトラとは、マレーシア憲法に規定されたマレー系民族、またはマレーシアの原住民もしくは先住民族を指すブミプトラinterestとは、ブミプトラ個人、ブミプトラの機関及び信託機関、並びに現地法人及び現地機関においてブミプトラがその現地法人及び現地機関の議決権の 50%以上を保有している当事者と定義されている。

EPUの承認が不要な場合

a) RM1,000,000以上の商業ユニットの取得

b) RM1,000,000以上の農地または面積5エーカー以上の農地を以下の目的で取得すること;

 (i) 近代的または高度な技術を使用して商業的規模で農業活動を行うこと、または

 (ii) アグロ・ツーリズム・プロジェクトを実施すること。

 (iii) 輸出用の商品を生産するための農業または農業に基づく産業活動を行うこと。

c) RM1,000,000以上の工業用土地の取得

d) 家族であることに基づく外国人への財産移転で、直系親族間でなされるもの

e) 100万マレーシアリンギット以上の外国人による住宅用ユニットの取得。この取得はEPUの承認を必要とせず、あくまで州政府当局の管轄となる。

 なお、EPUの承認が不要な場合、外国企業は、現地法人を設立しなくても、その不動産を取得可能である[1]

EPUはどのように承認するのか?

 EPUは、不動産の所在地、土地の状況(freeholdかleaseholdか)、外国企業の資本状況、投資目的等、多くの要素を考慮する。ただし、EPUガイドラインの必須条件の1つは、外資企業が30%のブミプトラ株主を確保することである。これは、不動産の権利証書を譲渡する前に行われる必要がある。

4.結論

 マレーシアでは、外国人による不動産取得に関する法規制が複雑であるにもかかわらず、国家の発展計画の一環として外国投資を受け入れることにかなりオープンであることから、多くの投資家がマレーシアでの不動産取得に成功しています。

 マレーシアは、優れたインフラ、通信サービス、金融・銀行サービス、裾野産業、技能、訓練可能な労働力、そしてマレーシアが締結した16の自由貿易協定を通じた市場機会を通じて、今後も外国投資家に魅力的な投資環境を提供し続けると予想されます。

 マレーシアでの不動産取得を検討されている方で、弊社のリーガルサービスをご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。

[1] この点EPUガイドラインには、現地法人なくして不動産の購入が出来ないように読める記載があるが、当局への照会の結果、この要件はあくまでEPU承認が必要な取引に限った規制であるとの回答であった。