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日本における労働条件明示の制度改正の概要について

2023年05月15日(月)

日本における労働条件明示の制度改正の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

労働条件明示の制度改正の概要

 

労働条件明示の制度改正の概要

2023年5月15日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 「労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令等の公布等について[1]」(令和5年3月30日基発0330第1号)が2023年3月30日に公表されました。無期転換ルール及び労働契約関係の明確化が行われることになり、改正された労働条件明示のルールが2024年4月1日に施行される予定です(以下「本改正」といいます)。

1 概要

 本改正における主な改正点[2]は、次のとおりになります。

 ①就業場所・業務の変更の範囲の明示
 ②更新上限の明示
 ③無期転換申込機会の明示
 ④無期転換後の労働条件の明示

 本ニューズレターでは、本改正の概要について解説いたします。

2 就業場所・業務の変更の範囲の明示

 現行では、使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して、下記の労働条件を原則書面の交付により明示しなければならないとされています(労働基準法第15条1項、労働基準法施行規則第5条1項、3項、4項)。

労働契約締結及び更新時の労働条件明示事項

(1)    労働契約の期間
(2)    (有期労働契約の場合)有期労働契約を更新する場合の基準
(3)    就業の場所及び従事すべき業務
(4)    始業及び就業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
(5)    賃金(退職手当、臨時に支払われる賃金、賞与等を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(6)    退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

 

 上記のとおり「就業の場所及び従事すべき業務」は労働条件明示事項の1つでしたが、「雇入れ直後の就業場所及び従事すべき業務」で足りるとされていました(平成11年1月29日基発第45号[3])。

 本改正では、「就業の場所及び従事すべき業務」に加えて、これらの「変更の範囲」(将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の範囲)についても明示事項に追加されました(改正労働基準法施行規則[4]第5条1項1号の3)。なお、就業場所及び従事すべき業務の変更の範囲の明示は、全ての労働契約の締結時及び有期労働契約の更新のタイミングごとに明示する必要があります。

3 更新上限の明示

 本改正では、有期労働契約の締結及び契約更新のタイミングごとに、更新上限(有期労働契約の通算契約期間又は更新回数の上限)の有無と内容の明示が義務付けられました(改正労働基準法施行規則第5条1項1号の2)。

 また、以下の場合は、更新上限を新たに設ける又は短縮する理由を有期契約労働者に対し、更新上限の新設・短縮をする前のタイミングで説明する必要があります(改正有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準[5]第1条)。

 ①最初の契約締結より後に更新上限を新たに設ける場合
 ②最初の契約締結の際に設けていた更新上限を短縮する場合

4 無期転換申込機会及び無期転換後の労働条件の明示

(1)無期転換申込機会及び無期転換後の労働条件の明示

 同一の使用者との間で、有期労働契約の通算契約期間が5年を超える場合には、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるとされています(以下「無期転換ルール」といいます。労働契約法第18条1項)。

 この無期転換ルールに対する労働者全体の認知状況を踏まえ、より一層の周知徹底を図るため、本改正では、無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、①無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)の明示及び②無期転換後の労働条件の明示が必要となりました(改正労働基準法施行規則第5条5項)。

 上記①及び②の例として、厚生労働省が公表しているモデル労働条件通知書[6]には、「本契約期間中に会社に対して期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の締結の申込みをしたときは、本契約期間の末日の翌日(〇年〇月〇日)から、無期労働契約での雇用に転換することができる。この場合の本契約からの労働条件の変更の有無( 無 ・ 有(別紙のとおり))」という記載が入れられています。

 なお、初めて無期転換申込権が発生する有期労働契約が満了した後も有期労働契約を更新する場合は、更新のたびに無期転換申込機会及び無期転換後の労働条件について明示することが求められます。

(2)無期転換後の労働条件に関する説明

 また、本改正では、無期転換後の労働条件を明示する場合、使用者は、無期転換後の賃金等の労働条件を決定するに当たって、他の通常の労働者(正社員等のいわゆる正規型の労働者及び無期雇用フルタイム労働者)とのバランスを考慮した事項について、無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、有期契約労働者に説明するよう努めなければならないと定められました(改正有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第5条)。

以上

[1] https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001080722.pdf

[2] 厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります

[3] https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb1912&dataType=1&pageNo=1

[4] 令和5年3月30日厚生労働省令第39号

[5] 令和5年3月30日厚生労働省告示第114号

[6] https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001080104.pdf