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AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供に関する指針の概要

2023年09月13日(水)

2023年8月1日に法務省より公表された資料「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」の概要を解説するニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。

AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供に関する指針の概要(PDF)

AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供に関する指針の概要

2023年9月13日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2023年8月1日、企業間で交わす契約書等をAIで作成や審査するサービスの提供に関する指針である「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」が法務省より公表されました[1][2](以下「本ガイドライン」といいます)。

1 背景

 「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービス」とは、AI等を用いて契約書等(契約書、覚書、約款その他の名称を問わず、契約等の法律行為等の内容が記載された文書又はそれらの内容が記録された電磁的記録)の作成・審査・管理業務を一部自動化することにより支援するサービスを指します(以下「本件サービス」といいます)。

 本件サービスは法律に関連する業務をITで効率化するリーガルテックの1つであり、複数の企業等がサービスを提供しています。AI等を用いたリーガルテックは、サービスによっては弁護士以外による法律事務を禁じる弁護士法第72条との関係が懸念されており、企業の法務機能を通じた国際競争力向上や、契約書審査やナレッジマネジメントにおける有用性等に鑑みて、本ガイドラインが作成されました。

 本ニューズレターでは、本ガイドラインの概要について解説いたします。

2 概要

 弁護士法第72条では、以下のとおり弁護士でない者の法律事務の取扱い等、いわゆる「非弁行為」を禁止しています。

第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。


 本ガイドラインでは、本件サービスが次の①から③の各要件のいずれかに該当しない場合は、本件サービスの提供は同条に違反しないとの考えが示されました。

①報酬を得る目的であること

②対象とする案件が、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件であること

③サービスの機能・表示内容が鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務であること

 以下、各要件について解説いたします。

(1)要件①:報酬を得る目的について

 本ガイドラインでは「報酬」について、「法律事件に関し、法律事務取扱のための役務に対して支払われる対価をいうとされるところ、『報酬』には、現金に限らず、物品や供応を受けることも含み、額の多少は問わず、第三者から受け取る場合も含むと考えられる。また、『報酬』と認められるためには、当該利益供与と本件サービスの提供との間に対価関係が認められる必要があると考えられる」と示されています。

 上記を踏まえ、「報酬を得る目的」に該当しない例と該当し得る例は次のとおりです。

該当しない例 該当し得る例
・事業者が利用料等一切の利益供与を受けることなくサービスを提供する場合

金銭支払等の利益供与と本件サービスの提供との間に実質的に対価関係が認められるときで、以下のような場合

ア.事業者が提供する他の有償サービスを契約するよう誘導するとき

イ.第三者が提供する有償サービスを利用するよう誘導するとともに、本件サービスの利用者が当該第三者が提供する有償サービスを利用した際に当該第三者から当該事業者に対して金銭等が支払われるとき

ウ.顧問料・サブスクリプション利用料・会費等の名目を問わず金銭等を支払って利用資格を得たものに対してのみ本件サービスを提供するとき


 なお、「報酬を得る目的」に該当し得るか否かの判断は、本件サービスの運営形態、本件サービスと他の有償サービスとの関係、利用者・事業者・当該有償サービスの提供者・金銭等の支払主体等の関係者相互間の関係、支払われる金銭等の性質や支払の目的等諸般の事情が考慮されます。

(2)要件②:対象とする案件について

 弁護士法第72条に列挙されている「訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件」は「法律事件」であり、これらに準ずる程度に法律上の権利義務に関し争いがあり、あるいは疑義を有する、いわゆる「事件性」があるものが「その他一般の法律事件」に該当するとしています。この「事件性」の該当性の判断は、個別の事案ごとに、契約の目的、契約当事者の関係、契約に至る経緯やその背景事情等諸般の事情を考慮して行われます。

 上記を踏まえて、「その他一般の法律事件」に該当しない例と該当し得る例は次のとおりです。

該当しない例 該当し得る例

・親子会社やグループ会社間において従前から慣行として行われている物品や資金等のフローを明確にする場合

・継続的取引の基本となる契約を締結している会社間において特段の紛争なく当該基本契約に基づき従前同様の物品を調達する契約を締結する場合

・取引当事者間で紛争が生じた後に、当該紛争当事者間において、裁判外で紛争を解決して和解契約等を締結する場合


 なお、上記以外の場合で、企業法務において取り扱われる通常の業務に伴う契約書の作成やレビューは、「事件性」はないものの、「いわゆる企業法務において取り扱われる契約関係事務のうち、通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の話合いや法的問題点の検討については、多くの場合『事件性』がないとの当局の指摘に留意しつつ、契約の目的、契約当事者の関係、契約に至る経緯やその背景事情等諸般の事情を考慮して、『事件性』が判断されるべき」としています。

(3)要件➂:サービスの機能・表示について

 「法律事務」とは、弁護士法第72条に列挙されている「鑑定、代理、仲裁若しくは和解」のほか、法律上の効果を発生・変更等する事項の処理をいい、「法律事務」に当たるかどうかは、本件サービスにおいて提供される具体的な機能や利用者に対する表示内容から判断されます。本ガイドラインでは、本件サービスを、(1)契約書等の作成業務を支援するサービス、(2)契約書等の審査業務を支援するサービス、(3)契約書等の管理業務を支援するサービスの3つに分類しています。

 各サービスが「法律事務」に該当するか否かの事例は次のとおりです。

  該当しない例 該当し得る例
(1)契約書等の作成業務を支援するサービス ・その利用者があらかじめ設定された項目について定型的な内容を入力し又は選択肢から希望する項目を選択することにより、その結果に従って、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ同システムに登録した複数の契約書等のひな形から特定のひな形が選別されてそのまま表示されるか、複数のひな形の中から特定のひな形が選別された上で、利用者が入力した内容や選択した選択肢の内容が当該選別されたひな形に反映されることで、当該選別されたひな形の内容が変更されて表示されるにとどまる場合

・その利用者による非定型的な入力内容に応じ、個別の事案における契約に至る経緯やその背景事情、契約しようとする内容等を法的に処理して、当該処理に応じた具体的な契約書等が表示される場合

・その利用者が、あらかじめ設定された項目について定型的な内容を入力し又は選択肢から希望する項目を選択する場合であっても、極めて詳細な項目、選択肢が設定されることにより、実質的には利用者による非定型的な入力がされ、当該入力内容に応じ、個別の事案における契約に至る経緯やその背景事情、契約しようとする内容等を法的に処理して、当該処理に応じた具体的な契約書等が表示されるものと認められる場合

(2)契約書等の審査業務を支援するサービス

・審査対象となる契約書等の記載内容と、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容との間で相違する部分がある場合に、当該相違部分が、その字句の意味内容と無関係に表示されるにとどまるとき

・審査対象となる契約書等の記載内容と、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容との間で、法的効果の類似性と無関係に、両者の言語的な意味内容の類似性のみに着目し、両者の記載内容に当該類似性が認められる場合に、当該類似部分が表示されるにとどまるとき

・審査対象となる契約書等にある記載内容について、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容又はチェックリストの文言と一致する場合や、ひな形の記載内容又はチェックリストの文言との言語的な意味内容の類似性が認められる場合において、

ア.当該契約書等のひな形又はチェックリストにおいて一致又は類似する条項・文言が個別の修正を行わずに表示されるにとどまるとき

イ.同システム上で当該ひな形又はチェックリストと紐付けられた一般的な契約書等の条項例又は一般的な解説や裁判例等が、審査対象となる契約書 等の記載内容に応じた個別の修正を行わずに表示されるにとどまるとき

ウ.同システム上で当該ひな形又はチェックリストと紐付けられた一般的な契約書等の条項例又は一般的な解説が、審査対象となる契約書等の記載内 容の言語的な意味内容のみに着目して修正されて表示されるにとどまるとき

・審査対象となる契約書等の記載内容について、個別の事案に応じた法的リスクの有無やその程度が表示される場合

・当該契約書等の記載内容について、個別の事案における契約に至る経緯やその背景事情、契約しようとする内容等を法的に処理して、当該処理に応じた具体的な修正案が表示される場合

(3)契約書等の管理業務を支援するサービス

・管理対象となる契約書等について、契約関係者、契約日、履行期日、契約 更新日、自動更新の有無、契約金額その他の当該契約書等上の文言に応じて分類・表示されるにとどまる場合

・管理対象となる契約書等について、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ登録した一定の時期や条件を満たした際に、当該事実とともに、同システムの利用者が契約書等に関してあらかじめ登録した留意事項等が表示されるにとどまる場合

・管理対象となる契約書等の記載内容について、随時自動的に、個別の事案に応じた法的リスクの有無やその程度が表示される場合やそれを踏まえた個別の法的対応の必要性が表示される場合

(4)弁護士による本件サービスの利用について

 上記①から③までの要件のいずれにも該当する場合、つまり「報酬を得る目的」であって「法律事件」に関して「法律事務」を取り扱うものであっても、弁護士(組織内弁護士を含みます)が本件サービスを利用した結果も踏まえて審査対象となる契約書等を自ら精査し、必要に応じて自ら修正を行う方法で本件サービスを利用する場合には、弁護士法第72条に違反しないとする考えが示されています。

 

[1] 法務省「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について(概要)」

[2] 法務省「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」