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【第3回】「企業買収における行動指針」の概要 ~買収に関する透明性の向上~

2024年01月17日(水)

「企業買収における行動指針」の概要に関するニュースレターを発行いたしました。今回は、第3回として、買収に関する透明性の向上について解説しています。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

【第3回】「企業買収における行動指針」の概要 ~買収に関する透明性の向上~

 

【第回】「企業買収における行動指針」の概要
~買収に関する透明性の向上~

2024年1月17日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 今月のニューズレターでは、本指針[1]第4章の「買収に関する透明性の向上」について解説いたします。

 第4章では、買収者及び対象会社の双方の観点より、第2章で提示された第2原則(株主意思の原則)及び第3原則(透明性の原則)を実現するための買収に関する透明性の向上の在り方が整理されています。

1 買収者による情報開示・検討時間の提供

(1)買収者による株式の取得と情報開示

 買収者が株式の取得を進める場合には、以下の各段階によって、投資の性質や市場への影響、求められる透明性が異なるとした上で、各段階において、買収者が大量保有報告制度や公開買付制度などを遵守することにより、透明性を高め、株主に十分な情報や時間を提供することで、株主の適切な判断(インフォームド・ジャッジメント)が行われることが期待されるとされています。

  • 5%以下で株式を取得する段階(当初段階)
  • 5%超の株式の取得し、大量保有報告書を提出した後の段階(5%超の段階)
  • 市場内での株式取得や公開買付けの実施等により経営支配権を取得する段階(買収時の段階)


具体的に、次のような情報の開示・提供が検討されるべきと述べられています。

① 買収時における情報の開示・提供
② 事前取得の利用と買収意向に関する情報開示
③ TOBの予告に関する情報開示等
④ 実質株主に関する情報提供・情報開示

 

① 買収時における情報の開示・提供

  • 大量保有報告書や公開買付届出書を提出しようとする者は、これらの制度に基づき買収の目的について充実した開示を行うことが望ましい。
  • 市場内買付けの場合で、短期間のうちに市場内買付けを通じて経営支配権を取得するような場面においては、買収が企業価値に及ぼす影響を理解した上で株主が買収に応じるか否かの判断をできるよう、買付の目的、買付数、買収者の概要、買収後の経営の基本的な方針等の重要な項目については、少なくとも公開買付届出書における記載内容と同程度の適切な情報提供を、資本市場や対象会社に対して適時、任意の方法で行うことが望ましい。
  • 買収後にステークホルダー(従業員、主要取引先等)との関係に重要な変化を想定している場合、株主・投資家にとって重要な情報であるため、どのような戦略を描いているかに関する情報を開示・提供することも株主・投資家にとって有益と考えられる。


② 事前取得の利用と買収意向に関する情報開示

  • 買収をしようとする者が、公開買付けに先立って市場で株式の取得を進めるに当たり、その後に公開買付けを実施する意向が確定的である場合には、その旨の情報提供を資本市場や対象会社に対して行うことが望ましい。


③ TOB
の予告に関する情報開示等

  • 公開買付けの実施を予告する場合には、買収のために要する資力等、公開買付けを実際に行う合理的な根拠を有した上で、公開買付けを実施する条件や開始予定時期など、市場の判断に資する具体的な情報を開示することが望ましい。
  • 公開買付けの実施を予告した場合において、合理的な期間内に公開買付けを開始することができない場合には、市場の安定という観点から、原則として予告を取り下げることが望ましい。


④ 実質株主に関する情報提供・情報開示

  • 買収提案をする者が実質株主である場合には、自らが実質株主である旨や名義株主との対応関係に関する情報を対象会社に提供することが必要である。
  • 対象会社から共同保有者の範囲について質問を受けた場合には誠実に回答することが望ましく、共同保有者に該当することが推測される事情がある場合には、その点についても情報提供をすることが望ましい。
  • その時点では正式な買収提案がなされていない状況においても、対象会社が特定の者からの買収の可能性を客観的な事実に基づき認識し、その者に対して対話のための事実確認をしようとした場合には、当該者は、自らが実質株主であるか否かや共同保有者に関する事実確認に応じることが望ましい。
  • 当該者のために名義上の株主となっているカストディアンにおいては、当該者の意向を確認の上、上記の実質株主に関する事実確認に協力することが望ましい。

(2)買収に関する検討時間の提供

 株主による適切な判断(インフォームド・ジャッジメント)の機会を確保するためには、情報のみならず、対象会社の株主や取締役会に対して十分な時間が提供されることも重要であるとした上で、具体的かつ望ましい対応として以下のとおり例示されています。

対象会社との交渉を経ずに公開買付けが開始される場合
  • 公開買付期間を30営業日より長く設定する、又は対象会社やその株主のニーズも踏まえ合理的な範囲で期間を延長することが望ましい。
公開買付けの方法によらず、急速な市場内買付けにより対象会社の株式を取得する場合
  • 買収者は株主等の判断のための十分な時間を確保できるスキームやスケジュールを選択することが望ましい。


 また、買収者と対象会社の間で秘密保持契約書を締結する場合には、一定の合理的な期間を定めたスタンドスティル条項等を定めることにより、適切な交渉時間・機会を確保するという方法が示されています。

2 対象会社による情報開示

 経営支配権を取得する買収が行われる際、対象会社からの情報開示を充実させ、取引条件の妥当性等についての判断に資する重要な判断材料を提供することで、株主によるインフォームド・ジャッジメントが可能となるとされています。対象会社が買収提案をどのように取り扱い、買収実施に至ったのかについて事後的に情報開示を行い、取引条件の形成過程の透明性を向上させることで、一般株主等の目を意識したより慎重な検討・交渉等が行われることが期待できると述べられています。

 また、(a)買収が実施される段階での開示、(b)買収提案の検討中で報道がされた場合の開示に関して、ぞれぞれの情報開示の在り方について示されています。

(a) 買収が実施される段階での開示
  • 金融商品取引所の適時開示規制による開示制度を遵守するにとどまらず、自主的に、取締役会や(特別委員会が設置されている場合には)特別委員会における検討経緯や、買収者との取引条件の交渉過程への関与状況に関し、充実した情報開示を行うことが望ましい。
  • 取締役会や特別委員会の構成員は、意見の一致に向けて議論を尽くすことが望ましいが、その上でなお意見が一致しない場合もあることから、その後の株主総会における選解任の判断に資するように、個々の社外取締役がどのように監督機能を発揮したのかについて、情報開示を行うことも検討に値する。
  • 対抗提案がなされ、現に複数の提案において異なる取引条件が提示され、公知となった場合には、賛同した買収提案が公表された後、当該提案に賛同する理由の説明の中で、他にも対抗提案があったが当該提案がより望ましいと判断した旨とその理由を開示すべきである。
(b) 買収提案の検討中で報道がされた場合の開示
  • 買収を検討中の段階で、報道や噂の流布がされた場合には、情報の真偽等の事実関係について開示をすることが必要になり得るため、この点に留意して検討する必要がある。
  • 報道などがなされていないにも関わらず検討中の段階で開示をすることは、さまざまな憶測を生じさせるとともに、それによる市場の反応により買収が頓挫する可能性があるなど、マイナスの面が大きいため、徹底した情報管理を行うか、情報開示を行うかについては、この点を考慮し、慎重に判断すべきである。

3 株主の意思決定を歪める行為の防止

 株主が買収に対する判断を行う際には、必要な情報の提供を受けた上で、合理的な意思決定が阻害されない状況が確保されることが重要とされ、買収者及び対象会社による望ましくない行為(法令違反に該当する行為は行ってはならない)として以下が例示されています。

買収者による望ましくない行為
  • 強圧的二段階買収等の強度の強圧性を有する買収手法を行うこと
  • 不正確な情報開示や株主を誤導するような情報開示・情報提供を行うこと
  • 買収の意図があるにも関わらず、それを隠して買付けを進めること
  • 買収のために要する資力など、公開買付けを実際に行う合理的な根拠なく、公開買付けの実施を予告すること
  • 買収者の取引先株主等への優越的な地位に乗じた働きかけを行うこと
  • 議決権行使や委任状の勧誘を行う際に、金品・財物の交付を行うこと
対象会社による望ましくない行為
  • 不正確な情報開示や株主を誤導するような情報開示・情報提供を行うこと
  • 対象会社の取引先株主等への優越的な地位に乗じた働きかけを行うこと
  • 議決権行使や委任状の勧誘を行う際に、金品・財物の交付を行うこと

 

 

[1] 経済産業省「企業買収における行動指針」