賃金(最低賃金)に関する政府規則の改正(政府規則2023年51号による、政府規則2021年第36号の改正)
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賃金(最低賃金)に関する政府規則の改正
(政府規則2023年51号による、政府規則2021年第36号の改正)
2024年1月
One Asia Lawyers Indonesia Office
日本法弁護士 馬居 光二
NY州法弁護士 友藤 雄介
インドネシア法弁護士 プリシリア・シトンプル
1.はじめに
2021年2月2日、政府は賃金に関する2021年政府規則第36号(以下、「政府規則36/2021」)を施行しました。この政府規則36/2021は、賃金に関する幅広い側面(構成要素、分類、最低賃金、賃金保護など)をカバーする枠組みとして機能しております。
今回、政府規則36/2021の内の最低賃金に関する規制を改正するため、政府は、2023年11月10日に「政府規則36/2021の改正に関する政府規則2023年第51号」(以下、「改正政府規則」)を施行しました。
2.改正内容
(1) 政府規則の適用対象に関する規定
政府規則 36/2021 の第 24 条第 1 項では、最低賃金は労働期間が 1 年未満の労働者に適用されるとの規定がありました。今回の改正政府規則では、これに加えて、労働期間が1年未満であっても、その職務に必要な一定の資格を有する労働者は、最低賃金を上回る賃金を与えられることができるという一文が追加されております(第24条1a)。
(2) 最低賃金の計算式
改正政府規則第25条第1項のとおり、最低賃金は今回の改正後も、州別最低賃金と県・市別最低賃金から構成されています。
また、第26条第1項は、州および県・市は、毎年最低賃金を調整しなければならないとしています。さらに、この調整には、一定の変数、すなわち経済成長率、インフレ率、一定の指数を取り入れる必要があり(改正政府規則第26条第2項)、その計算方法は以下の通りです(改正政府規則26条4~8項)
UM(t+1) = UM(t) + UM(t+1) への調整値
UM(t+1) への調整値= {インフレ率 + (PE ✕ α)} ✕ UM(t)
記号 | 備考 |
UM(t+1) | 翌年の最低賃金 |
UM(t) | 当年の最低賃金 |
インフレ率 | 前年9月期の消費者物価指数に対する当年9月期の消費者物価指数の変化に基づいて算出されたインフレ率 |
PE | 地域経済成長率 |
α | 特定の係数(0.10~0.30の間) |
上記特定の係数αは、州または県/市の経済成長に対する労働力の貢献度に基づいて決定され、当該決定は、州または県/市の賃金委員会が行うことができるとされています(第26条3項および6項-8項)。
なお、UM(t+1)に対する調整値がゼロ以下またはゼロに等しい場合、翌年適用される最低賃金は当年のものと同じとなります(第26条9項)。さらに、第26条Bでは、最低賃金額の計算結果は1ルピア単位で切り上げられるとされています。
(3) 最低賃金調整額の代替式
更に、州または県/市の当年度の最低賃金が一定の基準に達した場合は、以下の計算式が適用されると規定しています(第26条A)。
一定の基準(閾値)=(平均世帯消費額)÷(省・県・市の平均勤労世帯員数)
>UM(t+1)
一定の基準に達した場合の代替式は以下の通りとなります。
UM(t+1) への調整値 = PE ✕ α ✕ UM(t)
なお、経済成長率(PE)がマイナスの場合、翌年の最低賃金額は当年の最低賃金額と等しく設定されます(第26条A項5号)。
(4) 最低賃金の決定
翌年に適用される州別最低賃金については、知事は毎年11月21日までに決定・公表しなければならず(改正政府規則第27条第1項、第29条)、県・市別最低賃金については、その年の11月30日までに公表しなければならないとされています。
3.結論
今回の改正政府規則により、政府は最低賃金の計算に新しい計算式を導入しております。この計算式には0.10から0.30までの特定の係数が含まれており、これにより最低賃金はわずかではあるものの、従来以上に引き上げられる可能性があります。しかし、これに基づいて新しい最低賃金が首都で発表された後も、労働者は最低賃金の一層の引き上げを要求して西ジャワ州やその他の地域でストライキを起こすなどの事象が発生しています。