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(第3回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ
市民社会が権力構造と対等になるために(法のエンパワメント)

2024年06月06日(木)

現在、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院に在籍している原口 侑子弁護士によるニュースレターシリーズの第3回を発行いたしました。今後も引き続き連載の予定となります。
こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

(第3回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ 市民社会が権力構造と対等になるために(法のエンパワメント)

 

(第3回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ
市民社会が権力構造と対等になるために(法のエンパワメント)

2024年   2月
One Asia Lawyers Group
原口 侑子(日本法)

アフリカ社会と法律を学ぶにあたって、多くの国で「法」が広く慣習法や慣習に基づく首長制度を含むこと(「代替司法制度」)、アフリカの法制度は、「結局この法制度があって私たち(市民)の地域は豊かになるのか」という問いとともに語られることを紹介している。

その中で避けて通れない問いが、国家と市民の関係を考える際に法律や制度はどういった役割を果たしているかという点だ。市民は法律や司法制度に対してどういう形で関わることができるのか。そもそも市民が法律や制度について知らないのではないか。

近時、「法制度は貧困を克服するための道具になっていないのではないか。むしろ社会の繫栄や安全に対する障壁となっていないか」、「貧困層が法を体験する方法を変革し、制約的な体験からエンパワメントへと移行させることが必要ではないか」といった内容の法のエンパワメント(Legal empowerment)の議論が活発になっている(*1 Cisse)。その一つとして、アフリカ各地、特に旧イギリス植民地だった東南部で活躍しているパラリーガルという制度について紹介する。

農村部に行くと必ずパラリーガルに会う。パラリーガルの仕事は広く法的支援だ。日本では法律事務所で弁護士とともに仕事をすることが多く一般市民にはあまりなじみがない職業だが、アフリカ各国のパラリーガルはその逆で、コミュニティ活動の最前線にいるため一般市民にとっては弁護士よりなじみがある。

例えばザンビアでは、非弁護士の法的扶助サービス提供スキームが公式に国の政策(Legal Aid Policy)の中で認められている(2018 年)。よりコミュニティに近い業務を行う者から弁護士に近いプロフェッショナルな業務を行う者まで、専門性に応じて3段階に分けて研修が提供され、研修が完了した者から実務に入る。仕事内容や形式は多岐にわたり、「地域社会における法教育」から、「個別案件における法的情報提供、助言、調停に至るまで」の「法律扶助サービス」と規定されている(法律扶助委員会資料RATIONAL (2.0))。

ザンビアも他のアフリカ諸国の例にもれず、弁護士の数が少ない。人口約2000万人に対して弁護士人口は1906人(2020年時点)。さらにその中で裁判を遂行できる裁判弁護士の資格を持つ者は280人程度と言われる。

その不足をカバーするために、2000年以前からパラリーガルたちの活躍が市民社会の取り組みとして始まり、この民間発のイニシアティブが2018年に国家資格制度として法制化された。プロジェクトベースとして始まったというパラリーガルの特性によって、今もその仕事スタイルは市民社会に近い。弁護士との境目はあいまいというより、法廷弁護のように「弁護士の専権とされている仕事以外」と広い。法律扶助委員会の資料では、「パラリーガルの中には、弁護士のバックアップを受けて働く者もいれば、所属する市民社会組織(CSO)によって監督される者もいる」と書かれている。

日本では法律業務は弁護士や弁護士法人が行うため、弁護士資格のない者が報酬を得て法律業務を行う「非弁活動」が規制されているが、裁判所や弁護士といった「公式司法」に携わる人材が少ないザンビア(をはじめとした各国)ではそう悠長なことも言っていられないということだ。

法律家人口が少ない国々で、司法を身近にするというパラリーガルの活動は「法のエンパワメント」の一環だと言われている。
たとえば傷害やDVの事件があったときに、パラリーガルは被害者を警察や裁判所、病院にエスコートするような被害者側のサポートをすることもあるし、加害者側の弁護を引き受ける弁護士を探して書類作成を手伝うといった逆側のサポートをすることもある。警察や病院へ行く被害者に付き添う初動のエスコートは、DVのようなGBV(ジェンダーに基づく暴力)事件のときには特に重要だ。警察のいわゆる派出所や裁判所が少ない地方部では、被害者が警察に通報するに至るまでにたくさんの関門がある。そもそも警察が遠いのですぐに行けないことが多い。被害が家や村の中で起こることが多いこうした事件は、いったん家に帰ってしまったら通報をやめるようにというプレッシャーがかかる。捜査が始まるまでに必要な証拠が消されることもある。「泣き寝入り」は多くの国で起こっている。

同様に、被疑者や被告人となった側のサポートも今の法曹人口だけでは到底まかなえない。訴訟は本人訴訟であることが多いし、十分な法的弁護がなされていないことも多い。「刑事被告人」は各国で「脆弱層」とも言われている。法廷弁護以外のサポート、書類集めや証拠作成といったことができるパラリーガルは逆サイドからも重宝されている。

ここではパラリーガルは、市民社会と司法機関をつなぐ役割を担っている。市民がより司法にリーチしやすくなるため―「司法アクセス」の改善のためだ。

 

*1 Cisse, H., “Legal Empowerment of the Poor: Past, Present, Future” (2013)