シンガポール法律コラム:第13回 コーポレート・サービス・プロバイダー法の制定(1)
「シンガポール法律コラム:第13回 コーポレート・サービス・プロバイダー法の制定(1)」と題したニュースレターを発行いたしました。シンガポール法律コラムは、今後も引き続き連載の予定となります。
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シンガポール法律コラム
第13回 コーポレート・サービス・プロバイダー法の制定(1)
2024年12月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎
みなさん、こんにちは。One Asia Lawyers Group (Focus Law Asia LLC)です。今号ではシンガポールの新しい法律(コーポレート・サービス・プロバイダー法(Corporate Service Providers Act 2024、以下「CSP法」))をご紹介したいと思います。
コーポーレート・サービス・プロバイダー(以下「CSP」)とは、会社の設立業務、秘書業務、会計業務、取締役としての業務の代行及びその人材の斡旋などを行う会社又は個人を指します。会社の設立・運営に際しては様々なバックオフィス業務が発生しますが、自社で全てを行おうとすると効率が悪いことから、財務、税務、労務管理、法務機能などを専門家に受託することがあり、この受託先がCSPと呼ばれています。具体的には、上記の業務を行っているコンサルティング会社、人材会社、会計事務所、法律事務所などがCSP事業者と判断される可能性があります。
このようなCSP事業者は、各企業の財務情報等を引き受けて管理することが多く、マネーロンダリング(資金洗浄)やテロリスト向けの送金を助長してしまう可能性があります。例えば、違法行為によって資金を稼いでいる会社が、上記事業者のサービスによって名目上の取締役を立て、真のオーナーの身分を隠して真っ当な会社に見せかけることなどが考えられます。
そこで、2024年7月、シンガポールの国会において、上記CSP法と「Companies and Limited Liability Partnerships (Miscellaneous Amendments) Act 2024」(以下「CLLP法」)の法案が可決されました。CSP法はCSPへの規制を強化し、CLLP法は有限責任会社の実質的所有者に関する情報の透明化を図ることが目的であり、両法案は同時に可決され、一体となってマネーロンダリングや核兵器・化学兵器・テロリズムへの投資等の防止に資することが期待されています。
実務的な主な変更点としては、(1)CSP事業者の登録制の強化や罰則の強化、(2)次稿にて扱うノミニー取締役(Nominee Director)の規制強化などが挙げられます。
まず、(1)登録制の強化と罰則強化についてご紹介します。 従来の規制においては、シンガポール国内にあるCSP事業者でも、会計企業規制庁(Accounting and Corporate Regulatory Authority、以下「ACRA」)での手続の代理業務を行っていなければ、登録は不要でした。しかし、これでは未登録事業者がマネーロンダリング等に利用される恐れがあります。
そこでCSP法では、シンガポール国内で事業を行う全てのCSP事業者にACRAへの登録が義務付けられました。これにより、国内の全てのCSP事業者がACRAによる直接の監視下におかれることとなります。また、登録事業者は対マネーロンダリング等の様々な義務を負うので、国内事業者全てが同様の義務を負うこととなりました。
さらにCSP法においては、対マネーロンダリング等の上記義務に違反した事業者に対して、刑事罰が科せられることとなりました。具体的には、違反事業者には違反行為の数ごとに最大10万シンガポールドルの罰金、当該違反事業者の経営陣には最大10万シンガポールドルの罰金が科せられる可能性があります。
このように、新法CSP法はシンガポール国内のCSP事業者へのシンガポール当局による監視を拡大し、刑事罰を設けることによって、不適切な企業活動に対する取締りを大幅に強化するものといえるでしょう。
今回はシンガポールにおいて新たに成立したコーポレート・サービス・プロバイダー法の一部についてご紹介しました。次回は(2)ノミニー取締役(Nominee Director)の規制強化についてご説明いたします。
※本稿は、シンガポールの週刊SingaLife(シンガライフ)において掲載中の「シンガポール法律コラム」のために著者が執筆した記事を、ニューズレターの形式にまとめたものとなります。