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フィリピン:G.R. No. 263603 オンラインチャットログ及び録画の刑事手続における証拠能力を認めた事例

2025年02月10日(月)

フィリピンのオンラインチャットログ及び録画の刑事手続における証拠能力を認めた事例に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

G.R. No. 263603 オンラインチャットログ及び録画の刑事手続における証拠能力を認めた事例

 

G.R. No. 263603 オンラインチャットログ及び録画の
刑事手続における証拠能力を認めた事例

2025年2月
One Asia Lawyers Philippines Team
日本法弁護士 難波 泰明
フィリピン法弁護士 大場 正巳

1.はじめに

2024年12月3日、フィリピン最高裁判所は、刑事事件におけるオンラインチャットログ及び動画の証拠能力に関する判決の議論及び要約を含むプレスリリースを発表し、「犯罪が行われたかどうかを判断するために使用される場合、オンラインチャットログ及び動画の証拠はプライバシー権の侵害とはならない」との判断を示しました。

本件「People v. Eul Vincent O. Rodriguez」(G.R. No. 263603、2023年10月9日)において、被告人は改正フィリピン共和国法第9208号(人身取引防止法)に基づき、加重人身取引の罪で起訴されました。本件で被告人は、特定の電子的証拠が被告人のプライバシー権を侵害するものであると主張し、争いました。

2.ソーシャルメディアのチャットログ及び動画

囮捜査の一環として、地域7の対人身取引特別対策チームに所属する警察官が偽装アカウントを作成し、未成年者の搾取に関する行為について被告人と接触しました。警察官はFacebook及びSkypeを使用し、被告人とやり取りを行い、関心を持つ顧客を装いました。
その後、チャット及び動画の記録が保存・印刷され、刑事事件の証拠として提出されました。被告人は、以下の2点を理由に当該証拠の証拠能力を争いました。
(1) 反盗聴法(Anti-Wire Tapping Law)違反
(2) 2012年データプライバシー法(Data Privacy Act of 2012、DPA)違反

3.反盗聴法(共和国法第4200号)

被告人は、Skypeの会話及び画像の録音・録画は反盗聴法に基づく盗聴行為に該当し、証拠としての提出は認められないと主張しました。

これに対し、最高裁判所はこの主張を退け、同法における「装置または手段」の使用は、「同種又は類似の性質を有する機器」(すなわち、電話の主回線を盗聴する装置、または通話を傍受・録音する目的で使用される機器)を指すものであると解釈すべきであるとしました。その上で、Skypeの会話を録画する行為は、電話の主回線を盗聴する行為と同種のものではないと判断しました。

4.2012年データプライバシー法(共和国法第10173号)

最高裁判所は、記録されたチャットログ及び動画は証拠として許容されると判断し、その理由として、同法は「データ主体の刑事責任の判断に関する場合、または訴訟手続において合法的な権利及び利益を保護するために必要な場合、機微な個人情報の処理が許容される」と規定している点を挙げました。

本件では、通信記録、写真及び動画は被告人の起訴及び未成年の被害者の法的請求を立証するために提出されたものであり、適法に証拠として採用されたと判断されました。

5.最高裁判所判決の射程

本判決は、電子的証拠が「犯罪が行われたかどうかを判断するため」に使用される場合に関して判断を下したものです。したがって、本判決は刑事事件における電子的証拠の使用に限定さ、従業員の解雇に関する手続などの、他の事件や手続にまでその射程が及ぶものではありません。

他方で、本判決において最高裁判所は、電子的証拠が「訴訟手続において合法的な権利及び利益を保護するため」に使用される場合、その適法性が認められる可能性を示唆しています。そのため、電子的証拠を用いた法的請求又は抗弁の立証を検討している個人及び企業にも、有利に作用する可能性があるといえます。
なお、各事件での事実関係は個別に慎重に検討する必要があるため、具体的な案件については、弁護士にご相談ください。