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ラオスにおける汚職防止法の改正について

2025年03月06日(木)

ラオスにおける汚職防止法の改正についてのニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認下さい。
汚職防止法の改正について

ラオスにおける汚職防止法の改正について

2025年3月6日
One Asia Lawyers Groupラオス事務所

1.背景

ラオスにおいては、2005年に汚職防止法が制定され、その後2012年に改正されています。今回、2024年6月26日付で12年ぶりに改正があり、2025年1月16日官報に掲載、2024年9月12日にバックデートして施行されています。

2005年の汚職防止法は、党組織、国家組織、国家建設戦線、大衆組織、国営企業職員、公務員、軍人、警察官などが適用の範囲となっており、汚職は、国の指導者や権力者の行為に限定されていました。2012年の改正時に、適用の範囲が、国内外を問わず、民間企業の職員や国際機関の職員等も含めたかたちとなっています。

さらに、2017年に刑法典が制定され、汚職にかかる罰則規定が第355条から第369条に規定されており、汚職行為については、刑法典も汚職防止法も同じ定義づけとなっています。

今回の改正に関しては、大きな変更点はないものの、政府の管轄下にあった国家査察機関(汚職防止捜査機関)が、2021年に政府から独立して、国家主席の管轄下となったため、 当局の組織の詳細、権限、責務等に関することが、新たに規定されています。これにより、国家査察機関が効率的に主体的に政府を監視する体制を構築しています。

以下、改正された汚職防止法の概要について解説いたします。

2.汚職行為とは

(1)定義

汚職防止法第11条及び刑法典第357条において「汚職行為」を次の①から⑫の行為と定義しています。しかしながら、次の比較表の通り、改正前と内容について、特段変更はありません。

<汚職防止法で規定する汚職行為(汚職防止法第11条)>

<改正前>

①  国家又は共同財産の横領

②  国家又は共同財産の詐取

③  贈賄

④  収賄

⑤  国家、共同又は個人財産を取得目的で職位、権限、任務の濫用

⑥  国家又は共同財産の悪用

⑦  国家、共同又は個人財産を取得目的で職位、権限、任務の過用

⑧  建設の技術基準、設計基準、計算基準及びその他の基準の詐欺、偽造

⑨  入札又はコンセッションの不正行為

⑩  書類の偽造又は偽造書類の使用

⑪  個人的便益を目的した秘密の開示

⑫  文書類の差し控え又は遅延

<改正前>

①  国家又は共同財産の横領

②  国家又は共同財産の詐取

③  贈賄

④  収賄

⑤  国家、共同又は個人財産を取得目的で職位、権限、任務の濫用

⑥  国家又は共同財産の悪用

⑦  国家、共同又は個人財産を取得目的で職位、権限、任務の過用

⑧  建設の技術基準、設計基準、計算基準及びその他の基準の詐欺、偽造

⑨  入札又はコンセッションの不正行為

⑩  書類の偽造又は偽造書類の使用

⑪  個人的便益を目的した秘密の開示

⑫  文書類の差し控え又は遅延

なお、ラオスにおいては、行政サービスに係る手続きの円滑化等を目的とした少額の支払い、いわゆる「ファシリテーション・ペイメント」の規定はないため、少額でも金銭であっても、金銭の受け渡しは、汚職行為とみなされると解釈されています。今回の改正でも「ファシリテーション・ペイメント」に関する規定は設定されていませんでした。

(2) 汚職防止法の適用の範囲

汚職防止法第8条に汚職防止法の適用の範囲が以下のように定められており、国籍、個人、法人を問わず、汚職防止法が適用されます。改正により、「ラオスにおいて汚職行為又は汚職に関係している個人、法人又は団体」という文言が追記され、「法人」も汚職防止法の適用の範囲であることが明記されました。

<汚職防止法の適用の範囲(汚職防止法第8条)>

<改正前>

国家公務員、企業の職員(ラオス人・外国人)、外国人の職員(その国の代表として、ラオスで任務に就いている公務員)、国際機関の代表として職務を任命されてラオスで働く職員

<改正後>

国家公務員、企業の職員(ラオス人・外国人)、外国人の職員(その国の代表として、ラオスで任務に就いている公務員)、国際機関の代表として職務を任命されてラオスで働く職員、ラオスにおいて汚職行為又は汚職に関係している個人、法人又は団体

上記、定義により、改正後も同様に、民間企業の役職員および民間企業に関する贈収賄(商業賄賂)も含まれると解釈されます。

3.汚職防止法が規定する罰則規定

改正前は、罰則規定は、刑法と汚職防止法の両方に規定されていました。汚職防止法には、建設の技術基準、設計基準、計算基準及びその他の基準の詐欺、偽造、入札又はコンセッションの不正行為、個人的便益を目的した秘密の開示に関する罰則が規定されており、それ以外は、刑法に定められていました。2017年に刑法典が成立し、この刑法典は、2005年11月9日付・刑法の第12号に代わるものとなります。従いまして、改正後は、刑事責任に関する罰則規定は、刑法に代わり、刑法典に従うということが明記されています。

改正後の汚職防止法が規定する罰則規定は以下の通りです。

(1)職員に対する罰金 (汚職防止法第91条)

汚職防止法で規定する職員が汚職防止法第11条で規定する不正行為をした場合、刑法典に基づく自由剝奪刑等のほかに、自身が生じさせた損害額の10%を罰金として科することが新たに規定され、損害賠償のほかに、罰金も科せられるため、罰則が厳しくなったと言えます。

(2)民事罰(汚職防止法第92条)

汚職防止法で規定する職員が汚職防止法第11条で規定する不正行為をした場合、刑法典に基づく刑事責任のほか、民事責任として損害賠償責任及び不正行為で得た財産の国による没収又は社会、所有権者、持ち主へ返還するという内容は、改正前と変わりません。

(3)刑事罰(汚職防止法第93条)

一般企業、国際機関、外国人公務員等に対する罰則規定が、新たに規定されました。

<刑事罰(汚職防止法第93条>

<改正前>

汚職防止法で規定する職員が汚職防止法第11条で規定する不正行為をし、損害額が500万キープを超える場合、法律に基づく刑事責任を科す。

国家又は共同財産の横領、国家又は共同財産の詐取、贈賄、収賄、国家、共同又は個人財産を取得目的で職位、権限、任務の濫用、国家又は共同財産の悪用、国家、共同又は個人財産を取得目的で職位、権限、書類の偽造又は偽造書類の使用、文書類の差し控え又は遅延に対しては、刑法に基づく罰を科す。

<改正後>

汚職防止法で規定する職員が汚職防止法第11条で規定する不正行為をした場合、刑法典に基づく刑事責任を科す。

法人に対しては、企業登録書を永久的又は一時的にはく奪する。

外国籍公務員、国際機関代表者及び職員に対しては、ラオス法に基づく起訴及びラオス国内から追放及び再入国を禁止する。

国際機関に対しては、活動許可書の永久的又は一時的にはく奪する。

4.刑法典に基づく罰則規定

上記で述べたように、汚職防止法の罰則規定は刑法に代わり刑法典に従うことになりますので、その一部をご参考までにご紹介します。刑法典第355条から第366条に、刑法典で規定する「職員[1]」による汚職行為に対する罰則が規定されています。例えば、贈収賄や入札等に係る不正行為については、以下の通りです。

贈収賄:
(1)損害額に応じて、1年(約14万円以下)から終身(約1400万円以上)までの自由剥奪刑

(2)損害額の1%の罰金

入札・コンセッション不正行為:
(1)損害額に応じて、1年(約3万5000円)から終身(約1400万円)までの自由剥奪刑

(2)損害額の1%の罰金

 また、刑法典第369条「(特定の個人による)職員への贈賄及び贈賄斡旋行為 」に関しては、以下の通り、罰則が定められており、「特定の個人」に中に法人も含まれます[2]

(1)6か月から2年の自由剥奪刑及び賄賂の金銭額又は贈賄額に同等額の罰金

(2)賄賂が多額である場合、3年から5年の自由剥奪刑及び賄賂の金銭額又は贈賄額の2倍の罰金。

(3)収賄及び贈賄の斡旋人に対し、6か月から2年の自由剥奪刑及び賄賂の金銭額又は贈賄額に同等額の罰金

[1] 刑法典第354条:指導者の地位にある公務員、幹部公務員、専門公 務員、企業の職員、国家公務員、軍人、警察、村長及び公的に 任命された者そして外国の職員、国際機関の職員

[2] 刑法典第3条4項:刑法典第2編、第1章から第11章に定められている「特定の個人」とは、個人及び法人が含まれる犯罪人を意味する。(第369条は、第2編第10章にあたる)

 

           以上

yuto.yabumoto@oneasia.legal(藪本 雄登)
satomi.uchino@oneasia.legal (内野 里美)