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マレーシアにおけるハラール認証及び生産の法的枠組み

2025年03月11日(火)

マレーシアにおけるハラール認証及び生産の法的枠組みに関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

マレーシアにおけるハラール認証及び生産の法的枠組み 

 

マレーシアにおけるハラール認証及び生産の法的枠組み

2025年3月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士 Aalaa’ Mohd Esa

1.はじめに

ハラール認証は、製品、サービス及びプロセスがイスラム法(シャリーア)に適合していることを確認する手続であり、これによりムスリムが消費又は使用することが許容されることが保証される。「ハラール(Halal)」とはアラビア語で「許容される」又は「合法的な」という意味を持ち、食品・飲料のみならず、医薬品、化粧品、物流、さらには金融サービスにも適用される。

マレーシアは、2023年の「グローバル・イスラム経済指標ランキング」において、81か国中1位を獲得し、より大きな輸出量を誇る国々を上回るなど、最も強固なイスラム経済エコシステムを有する国として位置付けられている。

ハラール認証及び生産に関する法的枠組みは、製品がシャリーアの厳格な要件を満たすことを保証するものである。本稿では、マレーシアにおけるハラール認証の法的枠組みについて、主要な法令、規制機関及び認証プロセスを概説する。

2.主要な法令及び規制

マレーシアにおけるハラール認証の法的枠組みは、以下の主要な法律及び規制により支えられている。

(1)貿易記述法 Trade Descriptions Act 2011

マレーシアのハラール認証を統括する主要な法律は、貿易記述法 (TDA 2011)であり、これは1972年に制定された貿易記述法 1972(TDA 1972)を改正・統合したものである。TDA 2011の導入により、ハラールに関連する法的事項を規定する以下の2つの命令が施行された。

  • 貿易記述(ハラールの定義)命令 2011(Trade Description (Definition of Halal) Order 2011)
  • 貿易記述(ハラールの認証及び表示)命令 2011(Trade Description (Certification and Marking of Halal) Order 2011)


これらの命令は国内取引・生活費省(Ministry of Domestic Trade and Costs of Living)の管轄下にあり、製品へのハラール表示の使用を規制するとともに、ハラールと誤認される虚偽又は誤解を招く記述を禁止している。特に、貿易記述(ハラールの認証及び表示)命令 2011では、マレーシア・イスラム開発局(JAKIM)及び各州のイスラム宗教評議会を、食品、商品、サービスのハラール認証を行う権限を有する適格機関として指定している。

(2)マレーシア・ハラール肉及び家禽生産プロトコル(Malaysian Protocol of Halal Meat and Poultry Productions

本プロトコルは、と畜場及び屠殺施設に対し、以下の実務ガイドラインを提供する。

  • 屠殺方法
  • 気絶処理方法(スタニング)
  • 追加処理、保管、輸送のプロセス


また、本プロトコルは既存のマレーシア・ハラール基準(MS1500:2009)の要件を補足するものとなっている。

(3)マレーシア・ハラール基準 MS1500:2009Malaysian Halal Standard MS1500:2009

この基準は、ハラール食品の製造、調理、取扱い及び保管に関するガイドラインを提供し、ハラール認証を取得しようとする事業者にとって不可欠な基準となっている。

(4)MS 2400-1:2019 – ハラール・サプライチェーン管理システム(Halal Supply Chain Management System

本基準は、原材料から最終製品までのハラール・サプライチェーンの完全性を確保することを目的としており、以下の課題に対応する。

  • 交差汚染(クロス・コンタミネーション)防止
  • トレーサビリティ(追跡可能性)の確保

(5)動物規則 1962Animal Rules 1962)及び動物法 1953Animals Act 19532006年改正)

本法は、ハラール製品の輸入要件を規定しており、動物の健康及び安全に関する基準を確保する役割を果たしている。

3.マレーシア・イスラム開発局の役割

JAKIM(マレーシア・イスラム開発局)は、ハラール認証を発行する唯一の機関であり、ハラール認証プロセスにおいて中心的な役割を担う。JAKIMは、ハラール認証の基準を策定し、検査を実施し、ハラール認証を発行する責任を負う。

JAKIMのマレーシア・ハラール認証手続(Malaysian Halal Certification Procedure)は、ハラール認証を取得するための公式ガイドラインであり、企業が遵守すべき厳格な要件を規定している。この要件は、原材料の調達から生産プロセス全般に及び、衛生管理及び消毒、輸送及び保管に至るまでのさまざまな側面を網羅しており、サプライチェーン全体にわたるハラールの完全性を確保することを目的としている。

4.ハラール認証のプロセス

マレーシアのJAKIMによるハラール認証プロセスは、以下の手順で実施される。

① 申請(Application)
製造業者及び生産者は、JAKIM又は認定されたハラール認証機関に申請書を提出する。

② 書類審査(Document review)
JAKIMは、申請内容を審査し、原材料の調達、生産方法、衛生管理がハラール基準に適合しているかを確認する。

③ 現地検査(On-site Inspection)
生産プロセスがハラール基準に適合していることを確認するため、現地検査が実施される。この検査では、原材料、加工方法、衛生管理が審査の対象となる。

④ 認証(Certification)
検査が適正であると判断された場合、ハラール認証が発行され、該当製品にハラールの表示を行うことが認められる。当該認証の有効期間は2年間とされる。

⑤ 適合性監査(Compliance monitoring)
JAKIMは、定期的に監査を実施し、ハラール基準の継続的な遵守を確認する。

5.執行機関

ハラール認証基準の執行は、保健省(Ministry of Health)、獣医局(Department of Veterinary Services)、関税局(Customs and Excise Department)を含む各政府機関によって実施される。これらの機関はJAKIMと連携し、ハラール製品が求められる基準を満たしていることを確認し、不適合が発生した場合には速やかに対応する。

JAKIMは、検査の実施、不適合製品の押収、及びTDA 2011(貿易記述法 2011)の違反者に対する制裁の適用を行う権限を有する。

6.食品以外のハラール分野への拡大

食品業界が依然として主要分野である一方で、マレーシアのハラール制度は以下の産業にも拡大している。

① 医薬品及び化粧品
非ハラール成分を含まないことを保証し、イスラムの原則に従って製造されていることを確認する。

② 物流及び輸送
保管から配送に至るまで、サプライチェーン全体のハラールの完全性を維持する。

③ 金融サービス
シャリーア(イスラム法)に適合したイスラム銀行及び金融商品を提供する。

④ 観光
ハラールに配慮した宿泊施設、レストラン、観光ツアーを提供する。

7.事業者における重要な考慮事項

ハラール業界に参入しようとする事業者は、JAKIMのハラール認証要件を十分に理解し、適合性を確保する必要がある。業界内で製品を生産する際に関与する全てのプロセス及び原材料は、適切かつ正確に文書化されなければならない。

すべてのプロセスが認証要件を満たした後、ハラール生産に関与する従業員に対し、ハラールの原則及び手順に関する適切な研修を実施することが求められる。これらの要素が適切に管理され、規制に準拠している場合、JAKIMが実施する定期的な監査及び検査について、企業は特段の懸念を抱く必要はない。

8.事業者における重要な考慮事項

世界的にハラール製品の需要が拡大し続ける中、マレーシアは法的枠組みの継続的な改善及び新たな課題への対応を通じて、この分野でのリーダーシップを維持することが期待されている。これにより、マレーシアのハラール産業は同国経済の基盤の一つとしての役割を維持し、世界中の消費者にとって信頼されるハラール製品の供給源であり続けることが可能となる。

この有望な市場への参入を目指す事業者にとって、法的枠組みを理解し、遵守することが極めて重要である。