ベトナム インターネットサービス等に関する新たな規制
ベトナムのインターネットサービス等に関する新たな規制に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
<ベトナム インターネットサービス等に関する新たな規制>
2025年5月8日
One Asia Lawyers ベトナム事務所
インターネットサービスおよびオンライン情報の管理、提供、利用に関する政令第72/2013/ND-CP(以下「旧政令」)が改正され、新たに政令第147/2024/ND-CP(以下「政令147号」)が2024年12月25日に施行されました。
政令147号は、インターネットサービス、SNSサービス、ニュースサイト、オンラインゲーム、アプリストア、およびインターネット、データセンター、電気通信アプリケーションの提供サービスを対象とし、ベトナムで事業を展開する国内およびYouTube、Facebook、TikTok、Googleなど海外の事業者に適用されます。
本ニューズレターでは、主に国境を越えたサービスに関する規制について取り上げます。
1.ベトナムで事業を展開する外国のデジタルコンテンツ提供企業に対する義務[1]
政令147号では、外国のデジタルコンテンツ提供企業が、国外からベトナムの利用者に対して情報やサービスを提供することを引き続き認めています。ただし、次のいずれかに該当する企業は、ベトナム政府が定める特定の事業要件を満たす必要があります。
- ベトナム国内の「データアーカイブリースサービス」(※データ保存のためのクラウドサービス等)を利用している場合
- ベトナムからの月間アクセス数が平均して10万件以上ある状態が、6か月以上続いている場合
上記条件に該当する場合、例えば以下のようなベトナム国内で事業を行う企業と同様の登録義務や遵守事項が求められる可能性があります。
(1) ソーシャルネットワークサービスのユーザーアカウント確認義務
政令147号では、ソーシャルネットワーク上のユーザーアカウントについて、以下の対応が求められます。
- アカウントの本人確認は、携帯電話番号またはベトナムの身分証明書番号を使用して行い、ユーザーの氏名・生年月日とともに認証データを保存すること(政令施行日から90日以内に、すでにアクティブなアカウントについても同様の措置を実施する必要がある)
- 政令施行日以降は、本人確認が完了したアカウントのみが投稿(記事・コメント・ライブ配信)、コンテンツのシェア、商業目的のライブ配信(ただし、ライブ配信については本政令ではなく、電子識別および認証に関する法律に基づく規制によるもの)を実施可能
(2) ベトナム情報通信省(MIC)への連絡先通知義務
外国のデジタルコンテンツ提供事業者が、ベトナム国内でライブ配信やその他の商業活動を行うには、ベトナム情報通信省(MIC)に対して通知(連絡先情報等の提出)を行う必要があります。この通知は、以下のいずれかのタイミングから60日以内に行わなければなりません:
- ベトナム国内でデータ保存サービス(例:クラウドサービス)を利用開始した日
- ベトナムからの月間アクセス数が平均して10万件以上ある状態が、6か月以上続いた日
- 政令施行日(すでにサービスを提供中の場合)
上記のうち、特にすでにサービスを提供中の場合には本政令施行日後、速やかにこの通知について準備を行う必要がある点に留意が必要です。
(3) その他の義務
その他特に留意が必要な義務は以下の通りです。
1. | 管轄当局の要請に応じて、ベトナム国内ユーザーの情報を提供すること(侵害の兆候の有無にかかわらず) |
2. | ベトナム法に違反する情報の拡散を防ぐため、フェイクニュース、知的財産権・プライバシーの侵害についての監視・管理体制を構築すること |
3. | 当局からの要請があった場合、24時間以内に違法または誤解を招くコンテンツ・サービス・アプリの削除、違反ユーザーのアカウントのブロックを実施すること |
4. | サービス利用者からの通報を受け付けるため、電子通報用の設備・窓口を設置し、通報を受けた場合、48時間以内に該当コンテンツを削除すること |
5. | 16歳未満のベトナム国内ユーザーに不適切なコンテンツを警告するためのツールを設置すること |
6. | ベトナムの報道機関が発信した情報を掲載・引用する場合、報道当局との協力協定を締結すること |
7. | 本政令に基づく定期報告書を提出すること |
2.海外アプリストアに対する義務[2]
政令147号では、外国のデジタルコンテンツ提供企業に課される上記義務に加えて、海外アプリストアを展開する事業者にも特定の規制を遵守する義務があると定められています。
まず、アプリストア上で配信・販売されるオンラインゲームについては、「G1」「G2」「G3」「G4」と分類[3]される全てのゲームのうち、ベトナム政府の認可または書面による確認を受けた「ビデオゲーム」に限り配信が認められます。そのため、海外アプリストアは、ベトナムのユーザー向けストアから、認可を受けていないゲームや、ベトナム未登録の海外オンラインゲームを速やかに削除しなければなりません。
また、ゲームサービスを提供する企業(開発会社やパブリッシャー)は、アプリストアに提出する情報や書類の真実性・正確性に対する責任を負うとされています。このため、アプリストア自体は、当局から特段の指示がない限り、掲載されたゲームコンテンツの違法性について直接的な共同責任を問われることは低いと考えられます。
ただし、例外として、ベトナム当局から違法コンテンツの削除要請があった場合、海外アプリストアは当該アプリを24時間以内に削除する義務があります。
3.デジタルコンテンツ提供企業のベトナムにおけるデータ保存と商業拠点に関する義務[4]
政令147号及びサイバーセキュリティ法に基づき、デジタルコンテンツ提供企業に対しては、ベトナムにおけるデータ保存義務が課されています。
まず、国内でSNSサービスを提供する企業に対しては、ユーザーデータを、ベトナム国内のIPアドレスを持つサーバーに保存すること、および国内に少なくとも1つのサーバーシステムを設置することが義務付けられています。
他方で、外国からSNSサービスを提供する企業やベトナムで活動する外国のデジタルコンテンツ提供企業に対しては、これらの義務は適用されません。
ただし、サイバーセキュリティ法に基づく別の規定により、外国企業であっても、ベトナムの法令に違反した場合には、当局の判断により個別にデータ保存や拠点設置を義務付けられることがあります。現時点では、外国企業はデータ保存義務を必ず課せられるわけではなく、サイバーセキュリティ法に定める特定の違反行為があった場合に限っていわゆるデータローカライゼーション義務が適用される可能性があるという位置付けと考えられます[5]。
4.ベトナムからのサービス利用者の個人データ保護義務[6]
ベトナムで事業を展開する外国のデジタルコンテンツ提供企業は、ベトナムのユーザーの膨大な個人データを収集および処理しています。
本政令では、個人情報の処理活動について特に規定されておらず、個人データの処理活動に関しては、2023年4月17日付個人情報の保護に関する政令第13/2023/ND-CPのベトナムの個人情報保護規制に従うことになると考えられます。
5.オンラインビデオゲーム(「ゲーム」)事業者の義務[7]
ゲームサービスを提供する海外の企業(開発会社やパブリッシャー)に対してベトナムにおける商業拠点の設立の義務付け、海外アプリストアのゲーム配信範囲をライセンス制とすることが義務付けられており、ベトナムへの越境ゲームサービスの制限が強化されており、主に以下のようなものが定められています。
(1) ベトナムでゲームを流通させるための条件:
政令147号は、旧政令と同様に、オンラインビデオゲームを次の4つのタイプに分類し管理しています[8]。G1(オンラインで複数プレイヤーが参加するもの)、G2(プレイヤーサーバー間のインタラクションのみ)、G3(オフラインで複数プレイヤーが参加するもの)、G4(ダウンロード可能であるが、プレイヤーまたはサーバー間のインタラクションの無いもの)。
ベトナムのサービスユーザーにゲームを提供するためには、外国および国内の個人または組織は、主に以下の条件を満たさなければなりません。
- 商業拠点:ベトナムに企業を設立し、VSIC 3240(ゲーム制作)、VSIC 6190(その他の通信活動(オンラインゲームの提供))、VSIC 5820(ソフトウェア制作)[9]など、関連する事業分野を登録すること。
- 外国人の市場アクセス制限:WTO公約上では、外資による出資は合弁事業の定款資本の49%を超えてはならないとされています。それ以外の場合、CPTPPに基づき、2024年1月14日より、ベトナムはCPTPP加盟国の外国投資家が所有するゲーム会社に対する外資出資比率の制限を課さないことになります。ただし、実務上、CPTPPに基づく投資登録を行う際には、外国投資家は個別に承認を取得することが求められています。
- G1の提供には所定のライセンスを、G2、G3、G4の提供には所定の認定を取得する必要があります。ライセンス・認定の有効期間は企業の要望に応じて設定されますが、10年を超えることはできないとされています[10]。
- オンラインビデオゲームごとに当局から特定の承認を取得する必要があります(以下「ゲーム承認」)[11]。
(2) その他、ゲームの運営期間中、事業者は以下の要件を維持しなければなりません:
- 管轄当局からの要請に応じて調査、検査、アーカイブ、および情報提供を行うために、ベトナム国内に少なくとも1つのサーバーシステムを設置すること。
- 携帯電話経由でユーザーアカウントを確認すること。
- ゲーム上のアイテム、ボーナス等[12]への規制:オンラインゲーム上で取引価値のあるアイテム、携帯電話用プリペイドカード、銀行カード、クーポン券、ゲームカード、ギフトカードなどを交換(プレイヤー同士の交換を含む)・付与してはならない。
- ゲームカードに関する制限[13]:オンラインゲームサービスを提供する企業は、ゲームカードを発行することができ、その管理責任を負う。ただし、ゲームプロバイダーは、プレイヤーが自社の合法的なオンラインゲームまたはグループにのみ入金することを許可する。つまり、ゲームカードは、無許可のオンラインゲームへの入金やその他の目的には使用できない。
- カジノ事業を模倣するゲームやカード画像を含むゲームの提供をしてはならず、提供している場合には停止措置が取られる[14]。この規制により、ベトナムのゲーム大手であるVNGは、Tiến Lên Miền Nam(サザンポーカー)、Tú Lơ Khơ(ベトナム・ラミー)、PokerVN(ベトナム・ポーカー)、Crazy Tiến Lên(クレイジー・サザンポーカー)など、さまざまなオンラインゲームの運営を停止しました[15]。
- 各ゲームの広告をゲーム承認を受ける前に公開してはならないこと。
- 18歳未満のプレイヤーのプレイ時間(00:00~24:00)を毎日管理するための技術的装置システムを導入すること。
- 各製品に年齢別カテゴリーを表示すること:オンラインビデオゲームをプレイヤーの年齢別に4つの年齢グループに分類する。00+(全年齢)、12+(12歳以上)、16+(16歳以上)、18+(18歳以上)。
- 定期に所定の報告書を作成すること。
ゲームサービスを提供する海外の企業は、ベトナムで有効なゲームプロバイダーとなるための措置を速やかに講じ、接続の中断や終了を回避する必要があります。
なお、旧政令および政令147号では、Lazada、Shopee、Grabなどの電子商取引プラットフォームでリリースおよび使用されるゲームベースのアプリケーションが政令147号の対象となるかどうかについて明確にされていません。弊所にて口頭の問い合わせベースでMICの専門家に確認をしたところ、担当官からは明確な回答を得られませんでした。そのため、この点については今後も注視が必要です。
6.ベトナムの国家安全保障およびベトナムの法律に違反するデジタルコンテンツ[16]
ベトナム政府は、国家安全保障および法令遵守を目的として、インターネット上の違法コンテンツに対する規制を強化しています。
外国の組織、企業、個人は、ベトナム当局から書面または電子的な要請を受けた場合、ベトナムの法律や国家安全保障に違反するコンテンツを速やかに削除または遮断する義務があります。これに従わない場合、当局は書面や電子通知、さらには電話による要請に基づき、電気通信事業者やインターネット接続事業者、データセンター、アプリ提供者などに対し、問題のあるオンラインコンテンツやサービス、アプリケーションへのアクセスを24時間以内に遮断するよう、必要な技術的措置を講じるよう求めることができます。
もちろん違反が認定された場合には、行政罰として一定の金銭的制裁が科される可能性もあります。現在、ソーシャルネットワークや電子情報サイト、オンラインゲームなどにおける違反行為については、郵便、電気通信、無線、情報技術、電子商取引分野の行政処分を定めた2020年2月3日付の政令第15/2020/NĐ-CPが適用されており、これに基づき罰則が科されます。なお、現時点ではこれらに関連する新たな罰則規定の草案は公表されていないものの、政府は越境でのインターネット関連サービスの急速な拡大への対応を強化しており、今後もさらなる規制強化と罰則整備を進めていくものと見られます。弊所では、こうした動向について今後も継続的に情報提供を行っていく予定です。
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[1] 政令第147号第23条3項を参照
[2] 政令第147号第23条3項k号および第5条b号、政令第147号第82条11項を参照
[3] 分類については本稿第5項(1)を参照
[4] 政令第147号第26条2項を参照
[5] サイバーセキュリティ法第26条を参照
[6] サイバーセキュリティ法第26条3項およびサイバーセキュリティ法のいくつかの条項を詳述する政令第53/2022/ND-CP第26条を参照
[7] 政令第147号第3章第2節を参照
[8] 政令第147号第37条を参照
[9] 政令第147号第37条4項を参照
[10] 政令第147号第37条第2項および第3項を参照
[11] 同上、第9項を参照
[12] 政令第147号第57条を参照
[13] 政令第147号第58条を参照
[14] 政令第147号第43条b項第1号を参照
[15] VnExpress. (2025, February 14). VNG đóng game bài. vnexpress.net. https://vnexpress.net/vng-dong-game-bai-4849582.html
[16] 政令第147号第23条および第59条を参照