日本:株主総会前の適切な情報提供に関する概要
日本における株主総会前の適切な情報提供に関する概要についてのニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
株主総会前の適切な情報提供に関する概要
2025年5月13日
One Asia Lawyers 東京オフィス
弁護士 松宮浩典
2025年3月28日、金融庁は、株主総会前の適切な情報提供についての要請を公表しました(以下「本要請」といいます)[1]。
今月のニューズレターでは、本要請の概要について解説いたします。
1 要請の背景
有価証券報告書には役員報酬や政策保有株式など、企業のガバナンスに関する重要な情報が数多く含まれており、これらの情報は、投資家が株主総会において、適切な意思決定を行う上で不可欠なものです。金融庁は、有価証券報告書の提出時期について、本来、株主総会の3週間以上前に行うことが最も望ましいとの見解を示していますが、企業の実務上の課題を考慮し、段階的な対応を求める方針を示しています。
しかしながら、2024年度のデータによると、90%以上の企業が、株主総会当日又は数日以内に有価証券報告書を提出しており、現状では投資家が十分な情報を得た上で議決権行使を行うことが困難な状況にあります。具体的には、以下のような問題点が指摘されています。
- 株主や投資家が株主総会前に十分な情報を得られない
株主総会直前に有価証券報告書が開示された場合、株主や投資家は、株主総会前に企業の財務状況や経営戦略などを詳細に分析する時間を十分に確保できず、結果として、株主総会での適切な議決権行使が妨げられる可能性がある。 - 海外投資家からの意見や国際的な開示慣行とのギャップ
諸外国では株主総会開催前に年次報告書を開示することが一般的であり、有価証券報告書を株主総会以降に開示する日本の現状は異例と指摘されている。海外機関投資家は株主総会1ヶ月前に開示することを要望しており、企業と投資家の間の情報に基づいた対話の妨げとなっているとの指摘もある。 - 企業への正当な評価が得られにくい
総会前に開示が行われていないことで、企業が積極的に情報開示を行っても、投資家等が適切なタイミングで評価できず、企業への表が適正に行われていないと考えられる。
このような状況を踏まえ、すべての上場会社に対して今年から有価証券報告書の提出時期の前倒しを要請するに至りました。
2 要請の概要
本要請は投資家保護と企業ガバナンスの透明性向上を目的としています。現状では大半の企業が株主総会同日又は数日以内に有価証券報告書を提出しているという状況が確認されており、この状況を改善するための第一歩として、すべての上場会社に対して、今年から株主総会の「前日ないし数日前」に提出するよう要請しています。
また、金融庁は、当該問題に対処するため、「有価証券報告書の定時株主総会前の開示に向けた環境整備に関する連絡協議会[2]」を設置し、総会前開示に係る必要な環境整備について検討を行っています。
現時点では、企業に対して有価証券報告書の早期開示を義務付けるものではなく、要請に留まっています。しかしながら、本要請は各企業の株主総会運営・実務に大きく影響する重要な事項であるため、各企業におかれましては、本要請の趣旨を十分に理解し、今後の動向を注視するとともに、自社の対応策について検討・準備していくことが求められます。
以上
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[1] 金融庁「株主総会前の適切な情報提供について」(令和7年3月28日)
[2] 金融庁「有価証券報告書の定時株主総会前の開示に向けた環境整備に関する連絡協議会」
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弁護士 松宮浩典
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