フィリピン農業専門職法の制定
フィリピン農業専門職法の制定に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
フィリピン農業専門職法の制定
2025年7月
One Asia Lawyers Philippines Team
日本法弁護士 難波 泰明
フィリピン弁護士 カーステン・ベガ
1.はじめに
2025年5月29日に制定された「フィリピン農業専門職法(Republic Act No. 12215)」は、国家の発展と構築における登録農業専門職の重要性を認識することを目的とした法律です。
本法は、以下の事項を定めています。
- フィリピンにおける農業専門職の試験、登録、規制に関する事項
- フィリピンにおける農業専門職の監督、管理及び規制に関する事項
- 農学士(Bachelor of Science in Agriculture)課程の開発及び高度化
- 継続専門能力開発(Continuing Professional Development:CPD)を通じた登録農業専門職の専門能力の向上
- 農業専門職の統合
また、本法により、フィリピン規制委員会(PRC)の下、監督機関として農業専門職規制委員会(Professional Regulatory Board of Agriculture)が設置されました。
2.免許及び登録
本法の下では、農業専門職として登録を希望する者は、年に1回実施される筆記式の専門職免許試験を受験しなければなりません。業務内容が農業に関する専門知識を要する場合、農業専門職に従事しているものとみなされ、免許の取得が必要となります。ただし、特定の要件を満たす場合は、試験を受けることなく登録を認められる場合もあります。
また、外国人農業専門職については、専門知識が緊急に必要であり、国内に十分な専門人材がいない場合に限り、特別臨時許可(Special Temporary Permit:STP)が付与される場合があります。STPはPRCの承認が必要であり、地元の補助者の指名も求められます。
さらに、外国人は、当該外国人の出身国がフィリピン人農業専門職にも同様の権利を認めている相互主義(reciprocity)を定めている場合に限り、フィリピンで農業専門職として免許を取得または業務を行うことが認められます。
3.農業専門職の業務範囲
本法において、「農業専門職の業務」とは、登録農業専門職が実施するすべての活動、行為、業務、職務などを指します。また、農業の業務範囲には、都市部及び農村部における作物・家畜・家禽の生産、加工及び流通に関わる以下の業務が含まれます。
- 土壌、作物及び動物の健康管理
- 農業及び関連分野に関する知識を要するコンサルティング、評価、調査及び管理業務
- 作物生産、家畜及び家禽の飼育、造園園芸、農産物のマーケティングに関する計画書、仕様書、プロジェクトの実現可能性調査及び見積書等の作成並びに管理業務
- 土壌資源管理、作物改良、作物生産、家畜及び家禽の育種、動植物の病害虫管理に関する研究プロジェクト及び調査研究
- 作物生産、家禽及び家畜の飼育に関するトレーニング及び普及活動
- 農業を産業又は事業として行うための管理及びマーケティング業務
- 政府が設立又は認定した学校、大学における農業科目の教授
- 登録農業専門職としての知識と専門性を要する民間及び政府機関での雇用
また、本法第30条においては、農業専門職として業務を行うことができるのは、個人事業主、コンサルティング会社、団体又は組織であり、いずれも適切に登録されていること、過半数が免許を有する農業専門職によって所有・運営されていること、並びにすべての農業サービスが登録農業専門職によって提供されることが求められます。さらに、証券取引委員会(SEC)またはその他の適切な政府機関への登録も義務付けられています。
加えて、民間の農業関連法人は、登録農業専門職を雇用するか、そのサービスを利用することが義務付けられています。
4.罰則
本法、その施行規則(IRR)、倫理規範、技術基準規範、その他の規制方針に違反した場合は、10万ペソ以上50万ペソ以下の罰金、又は6か月以上6年以下の懲役、またはその両方が、裁判所の裁量により科される可能性があります。
5.外国企業・外国人がとるべき対応
フィリピンで農業、アグリビジネス、食料安全保障プロジェクトに関与する企業は、本法が自社の業務にどのような影響を及ぼすかを評価する必要があります。特に、農業関連法人が登録農業専門職を雇用することが義務付けられている点は重要です。施行規則(IRR)、行動規範その他の細則はまだ制定されておらず、本法の効力発生日から120日以内に発行される予定です。現時点では外国資本による農業関連法人への参入が可能かどうかも不明あり、免許要件、外国人の参入条件、申請手続、違反行為及びその罰則等についての詳細は、今後公布されるIRRを継続的に確認することが重要です。

