日本:規制のサンドボックス制度について
日本における規制のサンドボックス制度についてのニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
規制のサンドボックス制度について
2025年8月20日
One Asia Lawyers 東京オフィス
弁護士 山本博人
弁護士 楠 悠冴
近年、テクノロジーの進展に伴い、既存の法律や規制が新たなサービスやビジネスモデルの実装にとって大きな制約となる場面が増えています。こうした課題に対応するために導入されたのが「規制のサンドボックス制度」です。「規制のサンドボックス制度」の恒久化については、2021年8月のニューズレターで概要をご紹介しましたが、本レターでは、その制度の概要を改めて説明するとともに、具体的な導入事案と新たな取組みについてご紹介いたします。
第1 制度について
1 制度趣旨について
規制のサンドボックス制度とは、平成30年6月より創設された制度であり、IoT、ブロックチェーン、ロボット等の新たな技術の実用化や、プラットフォーマー型ビジネス、シェアリングエコノミーなどの新たなビジネスモデルの実施が、現行規制との関係で困難である場合に、新しい技術やビジネスモデルの社会実装に向け、事業者の申請に基づき、規制官庁の認定を受けた実証を行い、実証により得られた情報やデータを用いて規制の見直しに繋げていく制度のことをいいます。
つまり、規制当局の立場としては、必要なデータ等が証明されなければ、規制改革に踏み切ることができないとの懸念があるのに対し、事業者としては、規制の存在のために試行錯誤もできず、規制改革に必要なデータを取得できないということに懸念があるところ、このような状況を打開するための制度こそが規制のサンドボックス制度であるといえます。
期間や参加者を限定することなどにより、既存の規制の適用を受けることなく、新しい技術等の実証を行うことができる環境を整えることで実証を可能とするとともに、実証で得られた情報・資料を活用できるようにして、円滑な事業化、規制改革を推進することが可能となります。
2 サンドボックス制度利用手順について
規制のサンドボックス制度を活用する流れとしては、
①事業者が主務大臣(事業所管・規制所管)に対して新技術等実証計画を申請
②新技術等効果評価委員会の開催
③主務大臣が新技術等実証計画を認定
④事業者による実証の実施
⑤主務大臣による規制の見直し等の検討・実施
といった手順を踏む必要があります。
事業者は、上記手続き①の新技術等実証計画を申請する前に、内閣官房に設置された一元窓口に相談することができます。事前に相談しておくことで、内閣官房と主務大臣が事前の調整を行うため、新技術等効果評価委員会での検討や後の協議等でもサポートを受けることができ、スムーズに手続きを進めることが期待できます。

(内閣官房「規制のサンドボックス制度(新技術等実証制度)について」7頁より引用)
第2 導入事案
1 自動販売機によるラベルレスペットボトルの販売に関する実証
(1) 日本コカ・コーラ株式会社が、2023年6月2日に申請し、同年7月19日に認定された事例として、自動販売機によるラベルレスペットボトルの販売に関する実証があります。
(2) 実証の目的としては、自動販売機でラベルレス製品を販売するに当たり、製品情報を自動販売機自体に掲示することにより、消費者が現状のラベル付き製品と同等の製品情報を認識でき、食品を摂取する際の安全性の確保及び自主的かつ合理的な食品の選択の機会の確保を妨げないことを確認すること、将来的には、自動販売機で複数のラベルレス製品を販売することにより、家庭外におけるPETボトルのリサイクル容易性を向上させるとともに、製品情報を表示するラベルが不要になることで、プラスチックごみの排出量を約4,600トン/年、ラベル由来のCO2を約41,300トン/年削減することを目指すことにありました。
規制のサンドボックス制度を利用する理由として、清涼飲料水は、食品表示法に基づき定められる食品表示基準、資源有効利用促進法に基づき定められるポリエチレンテレフタレート製の容器であって、飲料又は特定調味料が充てんされたものの表示の標準となるべき事項を定める省令及び計量法において、必要な製品情報の表示事項が定められており、多くのPETボトル飲料製品は、製品情報を表示したラベルをPETボトル本体に貼付していることが背景にありました。
(3) 実証計画としては、オフィスに設置した、特定の少人数しかアクセス出来ない自動販売機で、ラベルレスのナチュラルミネラルウォーターとラベル付きのナチュラルミネラルウォーター(通常製品)を無償提供し、製品情報は、自動販売機前面のポスターなどのスペースを使用して通常製品のラベルと同一の製品情報を掲示することとしていました。加えて、製品情報の問い合わせ先がキャップに明記されており、製品情報を知ることができる旨を同スペースに掲示しました。当初の3カ月間(予定)は、通常製品のみを無償提供し、専用リサイクルボックスに廃棄された空容器を回収することにより、ラベルのついていないPETボトルの数を確認し、続く3カ月間(予定)は、ラベルレス製品と通常製品を並行して無償提供し、専用リサイクルボックスに廃棄された空容器を回収することにより、通常製品のうち、ラベルのついていないPETボトルの数を確認する方法をとりました。 製品情報を自動販売機自体に掲示することで、実証参加者が現状のラベル付き製品と同等の製品情報を認識できたか、アンケートにより確認するとともに、専用リサイクルボックスから回収したPETボトルのラベルの有無を確認することにより、消費者は通常製品よりもラベルレス製品を求めていること、通常製品のみを提供した場合よりも、ラベルレス製品を並行して提供した通常製品の方がラベルが剥がされている割合が高くなるという仮説を検証するというものでした。
(4) 2024年1月末まで実証実験が実施され、実証後は、関連する規制の在り方について検討がなされました。
2 電動キックボードのシェアリング事業の実施に向けた走行実証
(1) 株式会社Luupが2019年10月2日に申請し、同月17日に認定された事例として、電動キックボードのシェアリング事業の実施に向けた走行実証があります。
(2) 実証の目的としては、事業者は、電動キックボードのシェアリング事業を通じて、① 新しい手軽な交通手段を提供するとともに、② 3輪又は4輪型の電動キックボードを用いて、高齢者の移動手段の選択肢を増やしていくことを目指し、実証により、車両の安全性、交通の安全性、車両管理の適切性、利用者ニーズ、事業性等を確認し、適切な制限に関する提案を行うための知見を得るというものでした。
というのも、電動キックボードは、「原動機付自転車」(道路運送車両法、道路交通法)に該当するため、①最高速度は時速30km以下 ②車道を走行、歩道や自転車レーンは走行できない③ ヘルメットの着用義務 ④運転免許(以上、道交法) ⑤保安基準適合義務(車両法)⑥納税、ナンバープレートの掲示(地方税法等)などの規制があり、これらに適合しない車両、利用は、法令に違反するという背景がありました。
(3) 実証としては、大学のキャンパス内の一部区域にて、無料のシェアリング実証を実施し、①区域内に複数設置されたポートにて注意事項等を確認の上、乗車。②決められた区域内では自由に利用可能。③目的地のポートに駐車し、利用終了。④利用者は18歳以上の教員・学生など大学関係者に限定。⑤3輪又は4輪型のキックボードについても設置し、機体の安全性、歩行者・自転車との調和性、運転者の走行に対する安全性等の情報を収集・分析といったものでした。
(4) 実証の結果として、改正道交法が(R4.4.19、施行R5.7.1)が成立し、電動キックボードは、新設の「特定小型原付」という車両区分に分類され、①最高速度20km/h ②車道に加え、普通自転車専用通行帯、自転車道の走行が可能③ ヘルメットの着用は任意 ④運転免許は不要(16歳以上)ということになりました。
第3 地域限定型サンドボックス制度について
規制のサンドボックス制度に関連する制度として、国家戦略特別区域法に基づき、地域限定型サンドボックス制度が導入されています。
この制度は、プロジェクト単位で行われる規制のサンドボックス制度と異なり、自治体主導で行われる点に特徴があります。自動車の自動走行、無人航空機(ドローン)、これらに関連する電波利用などの高度で革新的な近未来技術に関連する実証実験を、特区内でより迅速かつ円滑に行うことを趣旨としており、国家戦略特区内において、監視や評価体制を設けて事後チェックを強化する代わりに、事前規制を最小化することができる制度です。
東京都等の自治体には近未来技術実証に関するワンストップセンターが設置され、関係省庁や所管警察等と調整を図り、一元的に実証実験をサポートする体制が整備されています。規制のサンドボックス制度における内閣官房の一元窓口と同様、事業者は、ワンストップセンターに相談することで、個別に関係省庁等に問い合わせることなく、一括して相談することが可能となります。
第4 結語
以上のように、規制のサンドボックス制度は、「まずやってみる」ことを許容するために、新しい技術・ビジネスモデルの迅速な実証を可能とするものです。
規制のサンドボックス制度が平成30年6月以降に創設されてから、令和7年3月19日時点までの間で、多様な分野で、33件152者が認定されています。
今後、規制のサンドボックス制度は、新たなビジネスを開始するにあたり、規制改革を要望するために、グレーゾーン解消制度を含め、有効なアプローチの一つとして、利用が拡大していくことが予想されます。

