ラオスにおける家庭内労働者について
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ラオスにおける家庭内労働者について
2025年8月27日
One Asia Lawyers Groupラオス事務所
1.経緯
ラオスでは家政婦などの「家庭内(家事)労働者」も労働法の適用対象とされています(労働法第6条)。ただし、家庭内労働者については「別途規定に基づき、家主と労働者との契約で実施する」とされており、その詳細規定は長らく未発行でした。
このたび、2022年11月2日付で労働社会福祉省が「家庭内労働者の管理に関する合意(No. 4369)」(以下「合意」)を制定し、2025年8月11日に官報で公布・施行されました。
以下、この合意の概要を簡単に解説いたします。
2.家庭内労働者の定義
合意第3条では、家庭内労働者を次のように定義しています。
「契約に基づき、他人の家庭で労働の対価として給与を得て働く者」
具体例:家政婦、庭師、運転手、警備員、料理人、家畜の世話人、ベビーシッター、高齢者や病人・障がい者の介助人など。
さらに、家庭内労働者は、住み込み型と通勤型に分類されます(合意第5条から第7条)。
また、合意が対象としている家庭内労働者は、以下を条件とします(合意第8条)。
①ラオス国籍であること
②履歴、経歴が明確であること
③学歴を問わないこと
④15歳以上であること
⑤正式な身分証明証(ファミリーブック、IDカード、住所証明書)を保有していること
3.家庭内労働者の労働条件について
(1)勤務時間(合意第10条)
仕事の内容に応じて、使用者と労働者の合意のもと、柔軟に設定可能です。但し、労働法と同様、1日8時間又は週48時間を超えることはできません。
(2)勤務日及び休日(合意第10条)
双方の合意に基づき、週休日、祝日、有給休暇、慶弔休暇等を決定可能です。
(3)給与の支払い(合意第11条)
使用者は労働者の技能、経験等を考慮して、政府が定める最低賃金を下回らない額の給料又は賃金を支給する必要があります。
支払い方法は、銀行送金、現金など双方が合意した方法としますが、少なくとも月に1回は給与を支払う義務があります。
(4)給与からの天引き又は控除(合意第12条)
以下の項目については、給与から天引き又は控除することができます。
①所得税及び社会保障料
②給与又は賃金の前払いの返済
③労働者の過失による使用者に対する損害賠償費用
④その他、法令に規程される費用
上記②及び③については、労働法と同様、1回に控除できる額は、1か月の給与又は賃金の額の最大20%をまでとし、控除する前に労働者への告知と合意が必要となります。
(5)労働安全(合意第13条)
使用者は、業務に必要な機器や防具を労働者に提供し、安全確保に努める義務があります。また、必要な情報提供を行い、各政府機関が提供する研修等を受けさせる義務があります。さらに、労働者は、少なくとも年に1回、健康診断を使用者負担で受ける権利があります。
(6)国の社会保障基金への加入(合意第14条)
使用者は労働者に国の社会保障基金へ加入させる義務があります。加入しない場合、業務が原因で労働者が負傷したり病気になった場合(労働災害)、使用者が治療費や入院費を含めた費用を全額負担する必要があります(合意第15条)。
4.使用者と家庭内労働者間の契約について
(1)労働契約書(合意第17条、18条)
労働契約は、原則、書面で締結する必要があります。但し、雇用期間が1か月未満の場合は、例外的に、口頭でも認められます。契約形態は、有期、無期いずれも可能です。
労働契約書に含めるべき項目は以下の通りです。
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1 |
使用者と労働者の氏名 |
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2 |
仕事場の住所及び電話番号 |
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3 |
契約期間、開始日、終了日 |
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4 |
労働者の仕事の内容、責務 |
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5 |
使用者の責務 |
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6 |
給料の額、支給方法、支払日 |
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7 |
勤務日/時間、休憩時間、休日 |
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8 |
福利厚生(食事、飲料水、休息所の提供) |
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9 |
業務上の規則 |
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10 |
契約の解除に関する規定、事前通知期間など |
(2)労働契約の解除(合意第19条)
労働契約を解除する場合、少なくとも30日前までに、契約当事者の一方へ文書で通知する必要があります。労働者が読み書きができない場合は、口頭で使用者に伝えることも可能です。労働契約解除時の経済的補償金の支払いについては、双方の合意に基づき、労働契約の中で自由に規定することができます。但し、労働法の規定に従い、不当な解雇の場合は、使用者は労働者に次の計算式で算出される経済的補償金を支払う必要があります(計算式:最終給与総額×15%×勤務月数)。
労働法と同様に、次に掲げる使用者による労働契約の解除は、不当な解雇とみなされます。
①十分な理由がない場合
②限度を超えた権限の行使、直接的または間接的な強制、暴力、性的暴力、または労働者の基本的権利の侵害により、業務の遂行を継続できない場合
③労働者から改善を求められたが、使用者が解決または改善せず、放置したため、労働者が職務を離れなければならなくなったことによる場合
5.禁止事項
使用者の労働者に対する禁止事項は以下のとおりです(合意第25条)。
①労働者の身分証明証、パスポートなどの所有物を使用者が徴収すること
②労働者に担保(現金、資産)を求めること
③使用者の借金返済のために働かせること等
労働者の使用者に対する禁止事項は以下のとおりです(合意第26条)。
①使用者の個人情報や秘密を他人へ漏らすこと
②使用者の許可を得ずに他人を仕事場へ出入りさせること等
6.まとめ
個人で運転手や家政婦などの家庭内労働者を雇用している場合、これまでは労働契約書を作成していなかったり、所得税や社会保障基金の拠出について明確に対応していないケースが多く見受けられます。今回の合意の発行により、使用者には新たな義務が生じることとなるため、十分な留意が必要です。
以 上
yuto.yabumoto@oneasia.legal(藪本 雄登)
satomi.uchino@oneasia.legal (内野 里美)

