「2023年中国会社法改正が日系企業に与える影響」 その3-会社の支配株主等の責任に関する改正点
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「2023年中国会社法改正が日系企業に与える影響」
その3-会社の支配株主等の責任に関する改正点
2025年12月
One Asia Lawyers Group
中国大湾区プラクティスチーム
森 仁司(日本法)
第1 はじめに
前々回、前回と、2023年中国会社法改正が日系企業に与える影響について取り上げていますが、今回は、中国現地法人の親会社となる日本本社など、支配株主等の責任に関する改正点について取り上げます。
第2 法人格否認の法理
中国会社法では、日本法と異なり、従前からいわゆる「法人格否認の法理」が明文において認められており、新会社法においても引き継がれ、さらにその適用範囲が拡大されました。
すなわち、会社の株主が会社法人の独立的地位及び株主有限責任を濫用して債務を逃れ、会社債権者の利益を著しく損なう場合、当該株主は会社の債務に対して連帯責任を負うものとされています[1]。新会社法においては、これに加え、株主が自己の支配下にある2社以上の会社を利用して上記行為を行った場合、各会社は他のいずれの会社の債務についても連帯責任を負うとされました[2]。つまり、会社が、他の会社の債務についても連帯責任を負うことが定められ、債権者保護が強化されました。
なお、従前より、出資者1名のみの会社については、株主は、会社の財産が株主自身の財産から独立していることを証明できない場合は、会社債務について連帯責任を負うものとされています[3]。しがたって、100%出資の中国現地法人の親会社についてもこの規定が適用されますので、親会社が、中国における現地法人の取引先から連帯責任を追及される余地がある点には留意が必要です。
第3 支配株主、実質的支配者の会社に対する責任
1 会社に対する忠実義務
従前より、董事、監事、高級管理職[4]は、会社に対して忠実義務、勤勉義務を負うものとされていますが[5]、新会社法において、これらの義務を負う主体が拡大されました。すなわち、会社の支配株主[6]または実質的支配者[7]であって、会社の董事に就任していないが会社の業務を実際に執行している者も、会社に対して忠実義務、勤勉義務を負うものとされました。[8]
日本法においては、董事、監事、高級管理職(一部)に相当する取締役、監査役等は、会社との間で委任関係にあるため、その法的効果として忠実義務等を負うものと説明されますが、中国会社法の場合、会社と委任関係にない株主等も、実際に任命された董事その他経営陣に指示する方法で事実上経営権を行使している場合は、会社に対する忠実義務等を負うものとされています。「会社の業務を実際に執行している」「実質的支配者」の範囲は明確とは言えないことから、中国現地法人を管理する親会社のみならず、資本関係ではなく契約関係により現地法人を実質的に管理している者も、このような義務を負っているとみられる可能性があることに留意する必要があります。
2 現地法人幹部等へ指示している場合の責任
新会社法において、会社の支配株主及び実質的支配者が、董事及び高級管理職に指示して会社または株主の利益を損なう行為を行わせた場合、当該董事及び高級管理職と連帯して責任を負うものとされました[9]。中国民法典における共同不法行為者の連帯責任の考え方[10]を取り入れたものとされています。
例えば、中国側パートナー企業との合弁で運営する現地法人のマジョリティを日本側親会社が有しているような場合、日本側親会社が実質的に現地法人の経営方針の決定に関与し、現地法人の幹部等に業務指示を出し、その結果、現地法人や中国側パートナーの利益を損なったときは、日本側親会社も、会社の「支配株主」として連帯責任を問われる可能性があります。
[1] 旧会社法第20条第3項、新会社法第23条第1項。
[2] 新会社法第23条第2項。
[3] 旧会社法第63条、新会社法第23条第3項。
[4] 中国語で「高級管理人員」といい、総経理、副総経理、財務責任者、上場会社の董事会秘書役及び定款で定められたその他の者を指すとされています。新会社法第265条1号。
[5] 旧会社法第147条第1項。
[6] 中国語で「控股股東」といい、その出資額が有限責任公司の資本総額の 50%超を占める株主、又はその保有する株式が股份有限公司の株式資本総額の 50%超を占める株主、及び出資額又は保有株式の比率は 50%未満であるが、その出資額又は保有株式により享受する議決権が株主会の決議に重大な影響を与えるのに十分である株主をいいます。新会社法第265条2号。
[7] 中国語で「実際控制人」といい、投資関係、合意又はその他の手配によって会社の行為を実質的に支配できる者をいいます。会社法第265条3号。
[8] 新会社法第180条第3項。
[9] 新会社法第192条。
[10] 中国民法典第1169条第1項は「他人に対し権利侵害行為を実施するよう教唆し、またはこれを幇助した場合は、連帯責任を負わなければならない」と規定しています。

