(第13回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ 法人類学と「法意識」(2)
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(第13回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ
法人類学と「法意識」(2)
2025年 12月
One Asia Lawyers Group
原口 侑子(日本法)
前回、法や社会規範に対する考え方・行動の仕方を、「法意識」と分類される法人類学の学問分野から紹介した。
「人々が法とどのように関わるか(法をどう回避するかやどう抵抗するかも含む)」を研究する「法意識」は、「法文化」の議論の中で登場したが、最近では、LehoucqとTaylor(2020)などによって、「法的動員」といった関連概念とともに理論化されている。両概念には重複もあるが、LehoucqとTaylorは法的意識を「出来事の意味づけにおける、暗黙的かつ非言語的な法の活用」と定義し、法的動員を「形式的な制度的メカニズムを喚起する、明示的かつ自覚的な法の活用」と区別している。
法人類学は常に社会思想の影響下で発展している。1980年代にはポストモダニズムの影響で学者たちは権力構造に焦点を当てるようになった。法意識の研究もこの見解に影響を受け、「ヘゲモニー学派」(Chua and Engels, 2019)の権力中心アプローチ(Liu, 2015)へと発展した。
Silbey(2001:8624)によれば、「法意識」は通常「ミクロレベルの社会的行動」を指すのに対し、「法的文化」は「集団レベルの現象」を指すのだという。したがって法的意識理論の出現によって、個人の主体性と社会構造がより明確に区別されるようになった。
法的文化と法意識の理論化は継続し、Merry(2010)は法的意識を「法的文化という用語が用いられてきた」四つの分類のひとつとして理論家した。他の3つの分類は次の通りである。一つ目は法の実践、すなわち「法制度内の法実践とイデオロギー」、二つ目は「一般市民の法に対する態度」、そして三つめは「法的動員、…様々な社会的集団や状況にある個人が法に助けを求める場合」である。その中でMerryは「法的意識」を「個人が自らを法によって定義され、その保護を受ける権利を有する存在と見なす程度」と定義した。
こうした定義による類型化は本当に正しいのか。Merryの類型論では、法的動員は法的文化のサブカテゴリーの一つと位置付けられ、法的意識とは別個の概念でありながら並行する概念として扱われている。しかし冒頭に述べたように、より近年では、LehoucqとTaylor(2020)が法的動員に関する理論化において、これらの概念は「相互排他的ではない」と同時に「区別不能でもない」と指摘している。
「法意識」というそもそも目に見えないものを、どのように「法」という規範と絡めて定義づけるか。今も学界では議論が行われている。
参考文献
Chua, L. and Engel, D. 2019. Legal consciousness reconsidered. The Annual Review of Law and Social Science. 2019.15:335–53.
Ewick, P and Silbey, S. S. 1998. The common place of law : stories from everyday life. Chicago : University of Chicago Press.
Lehoucq, E. and Taylor, W. K. 2020. Conceptualizing Legal Mobilization: How Should We Understand the Deployment of Legal Strategies? Law & Social Inquiry Volume 45, Issue 1, 166–193, February 2020.
Liu, S. 2015. Law’s Social Forms: A Powerless Approach to the Sociology of Law. Law and Social Inquiry 40 (1): 1-28. Chicago.
Merry, S. E. 2010. What is legal culture an anthropological perspective. Journal of Comparative Law, 5(2), 40-58.

