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「2023年中国会社法改正が日系企業に与える影響」 その5(最終)-董事、監事、高級管理職の責任の拡大、具体化

2026年02月19日(木)

 「「2023年中国会社法改正が日系企業に与える影響」その5(最終)-董事、監事、高級管理職の責任の拡大、具体化」についてニューズレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のPDFからもご覧いただけます。
「2023年中国会社法改正が日系企業に与える影響」その5(最終)-董事、監事、高級管理職の責任の拡大、具体化

「2023年中国会社法改正が日系企業に与える影響」
その5(最終)-董事、監事、高級管理職の責任の拡大、具体化

2026年2月
One Asia Lawyers Group
中国大湾区プラクティスチーム
森 仁司(日本法)

第1 はじめに

従前から、中国会社法上、役職者(董事、監事、高級管理職)は、日本の会社法と同様、会社に対して忠実義務、勤勉義務を負うものとされてきましたが[1]、新会社法においてはさらに、自己と会社との利益相反回避義務、職務執行において会社の最大の利益のために管理者が通常尽くすべき合理的な注意義務等が追記されました[2]。そのうえで、さらに具体的な義務規定が規定されました。日本の親会社から中国現地法人へ出向し、これらの役職に就く方も数多くいらっしゃると思われます。
今回は、これら、中国現地法人の幹部、役職者に課される責任に関する主な改正点を取り上げます。

第2 利益相反取引規制の拡大

旧会社法においては、董事及び高級管理職が会社定款の規定に違反し、または株主会の同意を得ずに会社と契約を締結しまたは取引を行うことを禁止しておりました[3]
新会社法においては、このような利益相反取引規制を受ける対象範囲が監事にも拡大されました[4]。また規制される取引の範囲も、董事、監事、高級管理職が直接的または間接的に会社と契約を締結しまたは取引を行う場合に加え、董事、監事、高級管理職またはそれらの近親者が直接または間接的に支配する企業等が会社と契約を締結しまたは取引を行う場合も、含まれるようになりました[5]
中国現地法人においては、従前より、営業を統括する中国人幹部従業員が、親会社の同意を得ず、いつの間にか自らの近親者が経営する会社に取引を付け替えていた、というケースが散見されます。会社定款や就業規則等においてこのような行為を規制する条項がない場合、人事上の処分を行うことも難しく、当該従業員に多額の経済補償金を支払って退職を求めるなど、会社側は苦慮していました。新会社法においては、こうしたケースは、会社定款や就業規則に定めがなくても、規制の対象とすることができます。

第3 競業禁止の対象者の拡大

旧会社法において、董事及び高級管理職が株主会の同意を得ずに、会社の商機を奪い、会社と同種の業務を経営する等の行為は禁止されています。[6]
新会社法において、このような競業禁止の対象者の範囲が監事にも拡大されました。[7]

第4 第三者に対する賠償責任

新会社法において、董事及び高級管理職の職務執行により第三者に損害を与えた場合、会社が賠償責任を負いますが、董事及び高級管理職に故意または重大な過失がある場合は、当該董事及び高級管理職も賠償責任を負うとされました。[8]
日本の会社法では、類似の規定は、主体が「代表取締役その他の代表者」に限られていますが[9]、中国会社法では、代表権のない董事及び高級管理職についても同種の規定がある、ということになります。
なお、第三者に対する賠償責任とは場面が異なりますが、近時の動きとして、2025年9月30日に最高人民法院から出された司法解釈(意見募集稿)において、会社の董事ではない会社の支配株主や実質的支配者が、実際に会社の業務を執行し、会社、株主又は債権者に損害を与えた場合、会社法の董事の責任に関する規定を適用することができるとされ、会社の支配株主や実質的支配者が、董事や高級管理職に対し、会社又は株主の利益を損なう行為を指示し、これが証明されたときは、指示を行った支配株主や実質的支配者は、董事、高級管理職と連帯責任を負うと規定されておりますので[10]、留意が必要です。

第5 行政処罰の追加

従前より、会社が登録資本金の虚偽報告、虚偽資料の提出、不実登記等を行った場合、会社が過料を科され、情状が重大な場合は営業許可証を取り消すとされています[11]。新会社法においては、これに加え、「直接責任を負う主管人員及びその他の直接責任者」も過料の主体に加えられました[12]。すなわち、現地法人の董事、監事、高級管理職も行政処罰を受ける可能性がありますので、留意する必要があります。

第6 董事責任保険制度の新設

新会社法において、董事責任保険制度が新設されました。すなわち、会社は、董事の在任期間中、董事のために、その会社の職務執行により負担する賠償責任について、責任保険に加入することができ、その保険契約の内容等と株主会に報告しなければならないとされました[13]
上記の通り、新会社法においては、董事、監事、高級管理職が会社または第三者に対して民事責任を問われるリスクが拡大しました。加えて、政府機関から行政処罰を受けるリスクも発生しました。そのため、各社におかれましては、董事のみならず、監事、高級管理職も含めて、業務執行を委縮することなく行えるよう、これを機に、賠償責任保険の加入ないし見直し、会社と個別に補償契約を締結する等、検討されてもよいかもしれません。

第7 終わりに

5回にわたって、中国の新会社法の改正ポイントについてご説明をいたしました。
中国では、2020年の外商投資法施行、2024年の新会社法の施行と、外資企業に求められるガバナンスの在り方は大きく変わりました。
外商投資企業は、新会社法及び外商投資法の両方に基づいて、定款、合弁契約、株主間契約等の見直し、更新を行う必要があります。その際、新会社法の要件に照らして、何を変更しなければならないかを十分検討する必要があります。併せて、新会社法によって認められた簡易なガバナンス構造に適合できる場合は、ガバナンス構造の見直しも検討されてはいかがでしょうか。
そのほか、新会社法における改正点は、全体的に会社債権者の保護に傾いており、親会社が株主として負う出資責任が拡大、強化されています。また、親会社から現地法人へ出向し、董事・高級管理職等の要職に就く者が、業務遂行上、会社及び第三者に対して負う責任も拡大、強化されています。十分にご留意ください。

[1] 旧会社法第147条第1項。
[2] 新会社法第180条第1項2項。
[3] 旧会社法第148条第4号。
[4] 新会社法第182条第1項。
[5] 新会社法第182条第2項。
[6] 旧会社法第148条第5号。
[7] 新会社法第183条、184条。
[8] 新会社法第191条。
[9] 日本会社法第350条。
[10] 最高人民法院「会社法適用の若干問題に関する解釈(意見募集稿)」(2025年9月30日公布)第88条。
[11] 旧会社法第198条。
[12] 新会社法第250条。
[13] 新会社法第193条。


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