• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy

シンガポール:シンガポール法律コラム 第28回 Workforce Fairness Act の成立と対応(前編)

2026年03月17日(火)

「シンガポール法律コラム シンガポール:第28回 Workforce Fairness Act の成立と対応(前編)」についてニューズレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のPDFからもご覧いただけます。
→シンガポール法律コラム シンガポール:第28回 Workforce Fairness Act の成立と対応(前編)

シンガポール法律コラム
第28回 Workforce Fairness Act の成立と対応(前編)

2026年3月
One Asia Lawyers Group
日本法・シンガポール法(FPC)・アメリカNY法弁護士
栗田 哲郎

こんにちは。One Asia Lawyers Group(Focus Law Asia LLC)です。シンガポールではWorkforce Fairness Act-職場公平法(以下WFA)が成立し、職場における公平性と差別防止に関する法制度が大きく変わろうとしています。本稿ではその要点、新案の可決において企業が知っておくべきこと、注意点を解説いたします。

1. WFA制定の背景と目的

法案の目的
WFA(Workforce Fairness Act/職場公平法)は、労働者が安心して働ける環境を整え、職場での公平性と調和を法的に保障することを目的として制定されました。
シンガポール政府が目的としているのは、(労働環境において)1) 年齢、性別、国籍、障害などの「保護されるべき特性 (protected characteristics) 」に基づく差別から個人を守り、2) 公平な雇用慣行を確立すること、3)シンガポール市民や永住者が公正に雇用機会を得られる環境を維持しつつ、外国人労働者には補完的な役割を担ってもらうこと、そして4)職場の調和的な関係を保つことを目指して可決された法案です。
「保護されるべき特性 (protected characteristics)」一覧

1. 年齢
2. 国籍
3. 性別
4. 婚姻
5. 妊娠
6. 介護責任
7. 人種
8. 宗教
9. 言語能力
10.   障害
11.   精神状態

成立の背景
WFAは、これまで任意あった Tripartite Guidelines for Fair Employment Practices(公平雇用慣行に関する三者協議、以下TGFEP )のガイドラインにとどまっていた原則を法制度として定めなおすものとなります。具体的には、単なる差別禁止の理念のみならず、そういった不当扱いの申し立てから解決までの明確な手続きを定め、苦情処理体制、機密保持、報復禁止(Non retaliation)などを雇用主に義務付けする法案です。WFA成立の構造として、2本の法案(Bills)それぞれ分かれており、役割が異なります。

(1) 第一法案)差別禁止の対象、雇用者の義務の定義。 (2025年1月8日可決)
(2) 第二法案)加えて、紛争解決の仕組み、請求上限の設定。(2025年11月4日可決)

①社内対応Grievance  ➁調停(mediation)  ➂裁定(adjudication) という三段階の紛争解決プロセスを明確にすることで、従業員は比較的簡易的な手続きを通じて救済を求めやすくなります。
※現時点では、社員数25未満の小規模企業はWFAの適応除外 ですが、公平ガイドラインは適応されます。

2. WFAの定める禁止行為・罰則

WFAの施行により、企業には新たな法的義務が課されます。罰金や制限を防ぐため、当法案が定める禁止行為について把握する必要があります。
個人に対する差別 (Discrimination against individuals)
女性社員だから昇進を見送る、妊娠中の社員に解雇を示唆する、特定の年齢層を理由に採用を拒否する。などが含まれます。
指示・命令・方針による差別(Discrimination by direction, instruction or policy)
保護されるべき特性を理由に昇進を拒否したり、給与を減軽すること、または配置の変更を要することは禁止されています。例えば、外国籍や女性の従業員は特定の部署にしか配置しない、といった組織全体の運営ルールや方針による差別が対象となります。
求人広告や職務記述での差別 (Discrimination by advertisement or description)
求人広告や職務記述に、保護特性を基準として条件や要件を明示・暗示することは禁止されています。こちらは見落としがちですので、注意が必要です。「日本人歓迎」「若い方希望」など、特定の属性を求める表現はNGとなります。
※業務上、特定の属性が合理的に必要な場合は例外として認められます。男女どちらかでないと安全上問題がある業務、宗教的役割に関連する職務など。
罰則
行政制裁 (Administrative Penalties)
違反行為の是正命令に違反した場合。
法人)$5,000(約60万円)以下の罰金
個人)$2,500(約30万円)以下の罰金・6か月以下の懲役
重大違反 (Serious Civil Contraventions)
複数回の差別的取り扱いを含む重度の違反では(組織的・体系的な差別、報復、是正命令無視、または民事的制裁を目的とした訴えの提起。)
法人)初回は最大$50,000(約600万円)、それ以降は最大で$250,000 (約 3千万円)
個人)初回は最大$10,000(約120万円)、それ以降は最大 $50,000 (約600万円)

3. 紛争解決と救済制度のながれ

社内苦情処理(Internal Grievance Handling)
WFA 第27条にて、雇用者は書面による苦情処理手続きを整備することが義務付けられています。詳しくは

a. 提出された苦情を適切に調査し、内容を精査すること
b. 苦情に対する結果通知や対応内容を従業員に知らせること
c. 苦情に関する書面記録を規定期間保管すること
d. 従業員及び関連情報の機密保持をすること

が求められます。さらに、苦情を申し立てた従業員や調査に協力した従業員に対する報復行為は禁止されております。
定められた処理システムを使用して、差別的・不当な扱いを受けた従業員はまず社内にての問題解決を試みます。
調停(Mediation)
社内手続きで解決が難しい場合、第三者による調停を通じて合意を目指します。
雇用請求審判所(Employment Claims Tribunal, ECT)
調停でも解決しない場合、正式に雇用請求審判所(ECT)に請求を提起し、法的な救済を求めます。25万シンガポールドルを超える申し立ての場合、高等裁判所に委託され、正式な裁判となります。

次号は企業が注意すべきことについて詳しくご説明します。

※本稿は、シンガポールの週刊SingaLife(シンガライフ)において掲載中の「シンガポール法律コラム」のために著者が執筆した記事を、ニューズレターの形式にまとめたものとなります。