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タイ:刑法改正による性犯罪およびセクハラ法制の強化

2026年03月18日(水)

「タイ:刑法改正による性犯罪およびセクハラ法制の強化」についてニューズレターを発行しました。こちらの内容は、以下のPDFからもご覧いただけます。
タイ:刑法改正による性犯罪およびセクハラ法制の強化

刑法改正による性犯罪およびセクハラ法制の強化

2026年3月18日
One Asia Lawyersタイ事務所
藤原 正樹(弁護士・日本法)
マーシュ 美穂

タイでは、セクシュアルハラスメントに関する法的保護を強化及び強姦罪の適用範囲の拡大のため、1956年刑法を改正する2025年刑法改正法(第30号)(以下「刑法第30号」)が公布され、2025年12月30日に施行されました。
今回の改正は、性的犯罪に関する刑事規定を現代社会に即した内容に見直すことを目的としています。特に、電子メールやSNSなどのオンライン上で行われる不適切な発言・行為を含め、デジタル空間での性的嫌がらせにも対応できるよう明確化が図られました。

1 刑法第30号施行前の法的課題

刑法第30号が施行される以前、セクシュアルハラスメントについては、刑法第397条に基づく軽微犯罪(petty offence)としてのみ規制されていました。同条は、「他人に対して性的性質を有する嫌がらせ行為を行った者は、1か月以下の懲役または1万バーツ以下の罰金、またはその併科に処する」と定めています。このように、刑罰が比較的軽い上、犯罪の定義も曖昧であったため、セクシュアルハラスメントの抑止力としては十分とは言えず、実質的に深刻な不正行為であっても軽犯罪として扱われる事例が発生していました。
また、刑法第276条および第277条に規定される「強姦罪」については、強姦の定義が狭かったため、行われた行為が重大であっても、強姦の定義に該当しない行為については「性的暴行」として扱われ、強姦罪よりも軽い刑罰の対象となっていました。 

2 刑法第30号により導入された主な改正点

2.1 セクシュアルハラスメント規定の新設

2.1.1 定義
刑法第30号により、刑法に新たに第1条(19)項が追加され、「セクシュアルハラスメント」の定義が以下のとおり明確化されました。
「身体的手段、言葉、音、身ぶり、コミュニケーション、注視、つきまとい、その他いかなる手段によって行われた行為であっても、コンピュータシステム、通信機器、その他の電子的手段を通じて他人に意味を伝達することが可能な行為を含み、性的な意味合いを有し、かつ相手に苦痛、不快感、困惑、屈辱、恐怖、または性的な不安感を生じさせるおそれがあるものをいう。」
この改正により、従来の対面での言動のみならず、つきまといや電子的手段を用いたオンライン上の行為もセクシュアルハラスメントとして明確に規定されました。
2.1.2 セクシュアルハラスメントの構成要件
刑法第1条第(19)項で定義された文言に基づくと、セクシュアルハラスメントには以下の要素が含まれます。
・行為の態様
セクシュアルハラスメントは、身体的接触、言葉、音、身ぶり、コミュニケーション、注視、つきまとい、またはコンピュータシステム、通信機器、その他の電子的手段など、被害者に対して性的な意図を明確に示す手段によって行われる行為を指します。
例としては、望まれない接触(身体への触れ合い、抱擁、擦れ合いなど)、性的な発言・冗談・コメント、メッセージアプリやSNSを通じた性的な内容の画像・動画・メッセージ送信、または性的意図を示す身ぶり・音を発する行為などが挙げられます。
・被害の性質
当該行為は、被害者に苦痛、不快感、困惑、屈辱、恐怖、または性的な不安感を生じさせるおそれがあるものでなければなりません。「おそれがあるもの」と規定されていますので、実際に上記の様な被害が発生したことは必要でなく、客観的に見てそのおそれがあれば「セクシュアルハラスメント」に該当します。
・加害者の意図
セクシャルハラスメントに該当する行為を行った者が性的満足を目的としていたかどうかは問われません。その行為者が故意に行った、あるいはその行為がセクシュアルハラスメントとなる可能性を予見していた場合には、責任が認められます。したがって、「単なる冗談」や「からかい」であったという主張であっても、相手に性的な不快感や苦痛を与える可能性を認識していた、または認識すべきであった場合には、免責されません。
・性別に関する適用範囲
セクシュアルハラスメントは、男性から女性への行為に限定されません。性別を問わず、いかなる者も他者に対して性的嫌がらせを行った場合には責任を問われます。
2.1.3 刑罰および企業への影響
刑法第30号により、新たに刑法第284/1条が追加され、他人に対してセクシュアルハラスメントを行った者は、1年以下の懲役または2万バーツ以下の罰金、またはその併科に処せられる旨が規定されました。
また、以下のような加重的な状況のもとでセクシュアルハラスメントが行われた場合には、より重い刑罰が科されます。
・再犯などにより被害者が通常の生活を送れなくなった場合
→ 2年以下の懲役または4万バーツ以下の罰金、またはその併科
・公共の場所または不特定多数が閲覧可能なオンラインプラットフォーム上で行われた場合
→ 3年以下の懲役または6万バーツ以下の罰金、またはその併科
・15歳以下の児童に対して行われた場合(本人の同意の有無を問わない)
→ 5年以下の懲役または10万バーツ以下の罰金、またはその併科
・上司、雇用主その他優越的な地位を利用して行われた場合
→ 3年以下の懲役または6万バーツ以下の罰金、またはその併科
裁判所が、性的嫌がらせ行為の禁止、わいせつなオンラインコンテンツの拡散停止・削除命令を発したにもかかわらず、これに従わなかった場合
→ 6か月以下の懲役または1万バーツ以下の罰金、またはその併科
・性的嫌がらせに関連してコンピュータシステムにわいせつな情報が入力され、裁判所がプラットフォーム運営者またはサービス提供者に対し拡散の停止または削除を命じたにもかかわらず、これに従わなかった場合
→ 6か月以下の懲役または1万バーツ以下の罰金、またはその併科
これらの刑事責任は個人に適用されますが、セクシュアルハラスメントの発生は企業にとっても重大なリスクをもたらします。不祥事として報道されることによる企業の評判低下、従業員・顧客・取引先からの信頼喪失、さらには行政的または民事上の責任が問われる可能性もあります。
そのため、企業は次のようなコンプライアンス体制の整備が求められます。
・セクシュアルハラスメントに関する明確な社内方針・行動基準の策定
・定期的な従業員研修の実施
・安全かつ機密性を確保した内部通報制度の導入
これらの対策を講じることで、企業は法的および評判上のリスクを軽減し、安全で尊重に基づく職場環境を維持する姿勢を対外的に示すことができます。

2.2 強姦罪の適用範囲の拡大

刑法第30号では、刑法第1条第(18)項における「強姦」の定義が拡大され、改正前は「性的暴行」として軽い刑罰にとどまっていた重大な性犯罪も、より重い処罰の対象として適切に扱われるようになっています。

3 まとめ

刑法第30号は、タイにおける性犯罪関連法制を大幅に強化する重要な改正です。
強姦罪の適用範囲を拡大し、セクシュアルハラスメントを明確に犯罪として定義・処罰することにより、これまで十分に対応できていなかった領域を補完し、被害者保護を一層強化する内容となっています。
これらの規定は個人に対する刑事責任を課すものですが、職場やオンライン上での行為が問題化した場合、企業自体も重大な評判・業務上のリスクにさらされる可能性があります。
そのため、企業は今一度、セクシュアルハラスメント防止に関する内部方針、従業員教育、内部通報制度などのコンプライアンス体制を点検・強化することが重要です。これにより、安全で尊重のある職場環境を確保し、潜在的な法的・レピュテーションリスクを未然に防ぐことができます。
本件に関してご質問や貴社のコンプライアンス対応についてのご相談がございましたら、One Asia Lawyers タイ事務所までお気軽にお問い合わせください。

以上

〈注記〉
本資料に関し、以下の点につきご了解ください。
・ 本資料は2026年3月18日時点の情報に基づき作成しています。
・ 今後の政府発表や解釈の明確化にともない、本資料は変更となる可能性がございます。
・ 本資料の使用によって生じたいかなる損害についても当社は責任を負いません。


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