ベトナムにおける汚職防止法の改正について
「ベトナムにおける汚職防止法の改正について ( 2025年12月改正)」に関するニューズレターを発行いたしました。こちらの内容は以下のPDFからもご覧いただけます。
→ベトナムにおける汚職防止法の改正について ( 2025年12月改正)
2026年4月8日
One Asia Lawyers ベトナム事務所
I. はじめに
ベトナムに進出している日系企業にとって、「許認可にどれだけ時間がかかるか読めない」「担当者によって対応が異なる」「非公式なコストを求められる」といった行政の不透明さは、長年にわたる共通の課題です。
ベトナム政府は、こうした問題に正面から取り組む姿勢を明確にし、2025年12月10日、汚職防止法の一部を改正するLaw No.132/2025/QH15(以下「改正法」)および国民接遇法・不服申立法・告発法の改正に関するLaw No.136/2025/QH15(以下「Law No.136」)を公布しました(2026年7月1日施行予定)。
本改正は、日系企業がベトナムで事業を展開する上での予見可能性とコンプライアンス環境を大きく改善する可能性を持っています。以下、主要な改正点を概説いたします。
II. 汚職防止法の改正点
汚職防止法は、汚職行為の防止、発見、および処理を規定する法律です。政府機関や国有企業だけではなく、上場企業や金融機関などの一定の民間企業にも適用され、汚職防止のための資産・所得申告、情報の公開、利益相反の防止などを定めています。
主な改正内容は以下のとおりです。
1. 資産・所得申告制度の見直し
まず、公務員に義務付けられる申告が必要な資産および所得の種類も明確化され、土地使用権、住宅、建築物および土地や建物に付随するその他の資産、貴金属や宝石、現金、有価証券、1点あたり1億5,000万ドン(約90万円)以上の価値を有するその他の資産、並びに海外に保有する資産や銀行口座が含まれるとされました。
また、改正法は、監督当局が資産・所得の取得源泉について詳細な説明を求める対象を10億ドン(約600万円)以上の未申告の資産又は所得の変動が発見された場合とし、担当官は、その取得経緯や資金源についてより厳格な説明を求めることができるとしています。
実務上、申告制度の運用がより合理化され、重大な汚職事案に対する抑止効果の向上が期待されます。
2. 汚職行為の通報者・告発者を保護するための措置の強化
改正法は、既存の通報者保護措置を具体化し、実務上の運用可能性と執行力を高めることを目的として、汚職行為を通報・告発・情報提供した個人に対する報復行為の禁止について、その内容をより明確化しています。
具体的には、禁止される報復・妨害行為の類型が従来よりも詳細な形で整理され、威嚇、人事上の差別的取扱い、法的権利・利益への不当な干渉、通報・告発手続の実施や通報者保護制度の運用を妨げる行為などが明示されました。
これによって、通報者・告発者に対する保護の実効性が向上し、汚職行為の発見・是正につながることが期待されます。
III. 国民接遇法・不服申立法・告発法に対する主要改正点
上記のとおり、改正法は、政府内部の不正行為の「防止・発見・処理」に焦点を当てています。加えて、本章で取り上げる国民接遇法、不服申立法及び告発法の改正は、国民や組織の側から政府機関に対して意見・不満・法令違反を指摘するための手続的枠組み、すなわち行政に対する「外部からの監視」の仕組みを強化することを目的としています。
主な改正内容は以下のとおりです。
1, オンラインによる受付・対応の導入
国民接遇法は、国民が意見を述べる権利や不当な扱いに対して異議を申し立てる権利を保障するとともに、政府機関が国民の意見や異議を適切に処理することを法的に義務付けています。
Law No.136では、従来の対面による受付・対応に加え、オンラインによる受付・対応が正式に追加されました。これにより、遠隔地の国民にとって政府機関へのアクセスが容易になるだけでなく、対面では躊躇しがちな申立てや通報の心理的ハードルが下がり、行政に対する監視の裾野が広がることが期待されます。なお、詳細を定める細則は今後制定予定です。
2. 不服申立手続の改善
不服申立法は、行政機関の決定や行為によって権利を侵害された国民や組織が、行政機関にその見直しを求める手続きを定めた法律です。
Law No.136は、不服処理メカニズムの効率性と実効性を向上させるため、以下のような手続上の改善を定め、手続の適正化及び不当な遅延防止を企図しています。
(1) 撤回の自由と再審査の制限
申立人は、手続きのいかなる段階においても不服の全部または一部を撤回することが認められます。強要や脅迫による撤回の場合を除き、撤回された事項は原則として再審査の対象とはなりません。
(2) 中断・終了ルールの明確化
不可抗力や撤回などによる審査手続の中断・終了のルールが明確化されました。例えば、中断期間を処理期限から除外することで、審査手続の停滞を解消し、「いつ結論が出るのか分からない」という申立人側の不安を軽減するとともに、行政機関側にとっても合理的な期間管理が可能となり、円滑で適正な手続運営の実現が期待されます。
(3) 出席拒否時の手続進行
申立人が意見の陳述のための出席を求められた際、申立人が正当な理由なく拒否した場合でも、手続きは中断されずそのまま進行します。これは、申立人側の事情によって手続が不当に長引くのを防ぎ、適正な期間内で不服申し立て手続が完了することを目的としています。
3. 不服申立法及び告発法に基づく権限の再配分
Law No.136は、昨年大幅に再編された地方政府制度における管轄構造と整合させるため、不服申立法及び告発法について権限の再分配を行っています。
具体的には、村レベルと省レベルで権限の再配分及び明確化が図られ、村レベルの公務員に対する告発の管理責任は、その村を直接管轄する省の関連部門に一元化されました。同時に行政階層がスリム化されたことで省レベルが担う役割が増大したため、監察機関(調査担当)と諮問機関(専門的アドバイザー)の役割が明確化され、手続の停滞を防ぎ、地域全体で迅速かつ正確な行政判断ができる体制が整備されました。
4. 法改正が外国直接投資(FDI)に与える影響
上記の法改正により、汚職防止ならびに国民からの不服申立や告発処理に関して、従来より透明性のある行政が実現し、FDIに関しても予測可能性が高まることが期待されます。具体的には、以下のような効果が見込まれます。
(1) 許認可手続の予見可能性の向上
いつ許認可が出されるか分からない、という不安が解消され、事業計画が立てやすくなります。また、担当者や地域による判断の差(法的不確実性)が減り、一貫した対応が得られるようになることが期待されます。
(2) 賄賂の抑制
資産管理の厳格化やオンライン化・デジタル化の推進により、賄賂が抑制されることが期待されます。公務員の資産・所得の変動が国家データベースを通じて可視化されるため、不自然な資産増加が発覚するリスクが格段に高まり、賄賂を受け取る側の心理的抑止力として機能します。また、許認可等の行政手続がオンライン化されることで、対面での裁量的なやり取りが減少し、賄賂を要求・授受する機会そのものが構造的に縮小することが見込まれます。
(3) レピュテーションリスクの軽減
内部告発者保護や監督体制が強化されることにより、企業が予期せぬ汚職問題に巻き込まれることによるレピュテーションリスクや事業中断のリスクが軽減されます。特にインフラ、不動産、エネルギー、金融など、事業の実施にあたり許認可が必要な分野で、その効果が顕著に現れることが期待されます。
IV. おわりに
以上のとおり、日系企業にとっての今回の法改正の実務的な意義は明確であり、許認可の見通しが立ちやすくなることで投資判断のスピードが上がり、行政手続のデジタル化により非公式なコストが構造的に抑制され、通報者保護の強化によりコンプライアンスリスクの低減が期待される点となります。
加えて、行政の透明性と予測可能性が向上することで、日系企業にとって「ルール通りに、安心して、スピーディーに」事業を展開できる投資先として、ベトナム市場の魅力をさらに高めることが期待されます。

