マレーシア:割賦販売法の改正について
マレーシア:「割賦販売法の改正について」に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
→割賦販売法の改正について
割賦販売法の改正について
2026年6月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士 橋本 有輝
日本法弁護士 佐々木順一郎
マレーシア法弁護士 Huzir Shamsul Bahrin
1. はじめに
マレーシアは、ここ数十年において最も重要な消費者信用法改革の一つを実施しました。割賦販売法(改正)法案は、2025年10月8日にDewan Rakyat(下院)で可決され、2025年12月1日にDewan Negara(上院)で可決され、その後2026年1月30日に正式に官報に掲載されました。改正割賦購法Hire-Purchase (Amendment) Act 2026は、2026年6月1日から全面施行される予定です。
本ニュースレターでは、主要な改正点を平易な言葉で解説し、それが貸主(Owner)および借主(Hirer)にとってどのような意味を持つのかを説明するとともに、既存の割賦販売契約の取扱いについても触れ、さらに企業乃至金融機関が準備のために講ずべき対応策を概説します。
2. 割賦販売法の適用対象
まず、改正内容の検討に入る前に、ある契約が割賦販売法(Hire-Purchase Act 1967)の適用範囲に含まれるかどうかを理解することが重要です。これは、すべての割賦販売契約と名の付くあらゆる契約が同法の適用を受けるわけではないためです。
この点は、次の2つの観点から判断することができます。第1に、割賦購入契約の定義を確認すること、第2に、割賦販売法の対象となる物品の種類を確認することです。
(1) 割賦販売契約の定義
本法は、「割賦販売契約」を、物品の購入オプションを伴う賃貸、または分割払いによる物品購入契約(その名称が賃料、リース料、その他いかなる名称であるかを問わない)として定義しています。もっとも、重要な例外があります。
すなわち、契約締結時、または物品の引渡し時もしくはそれ以前のいずれかの時点で、当該物品の所有権が一方当事者から他方当事者へ移転する場合には、その契約は割賦販売契約には該当しません。 すなわち、対象物件の所有権が契約時または引渡し以前に移転する場合、その取引はマレーシア物品売買法(Sale of Goods Act 1957)に基づく売買とみなされ、割賦販売法に基づく割賦販売契約とは扱われないのです。
(2) 割賦販売法1967の対象となる物品
割賦販売法の第1附則(First Schedule)は、本法の適用対象となる特定の物品の種類を定めています。これらの物品に関する契約のみが割賦販売法の適用を受けます。
・すべての消費財
・自動車(具体的には以下を含む):身体障害者用車両(invalid carriages)、オートバイ、乗用車(タクシーおよびハイヤーを含む)、最大許容積載重量が2,540キログラム以下の貨物車両、ならびに路線バスを含むバス
第1附則に列挙されていない物品は「非本法対象物(non-Act goods)」とみなされ、割賦販売法の規制対象とはなりません。例えば、工場で使用するような機械類や大型の車両が取引となるような場合は、契約書内にいかに割賦弁済の規定が含まれていたとしても割賦販売法の対象とはなりません。
3. 主な改正点の概要
(1) 利息計算方法および担保物引揚げ時の残債額計算の改正について
ア 利息計算方法の見直し(フラットレート・78分法の廃止)
従来、多くの割賦販売取引では、以下のいずれかの方法により利息が計算されていました。
フラットレート方式
78分法(Rule of 78)
フラットレート方式は、契約期間を通じて、当初の借入額全体に対して利息が課されます。それゆえ、フラットレートは一見すると安価に見えるものの、利用者が実際に負担する真の資金調達コストを反映していない仕組みであると言われています。
78分法(Rule of 78)は、利息が契約初期に多く配分される仕組みです。そのため、早期に完済しても実質的な利息軽減効果が小さい、またはほとんどないという問題がありました。
イ 改正後の変更点 今回の改正により、以下の点が変更されました。
(ア) フラットレート方式および78分法は、すべての新規契約において廃止されました。
(イ) 新たに、実効金利(Effective Interest Rate:EIR)方式が導入されました。実効金利とは、実際の借入残高に応じて利息を計算する考え方です。従来のように当初の借入額を基準にするのではなく、返済により減少した残高に対して利息が計算される点が特徴で、利用者にとってより実際の金利が見えやすい取引となることが期待されています。
(ウ) 利息は「残高逓減方式」により、毎月の残高に応じて利息を計算する具体的な計算方法で計算されることになりました。 この結果、元本を返済するにつれて利息負担も減少します。また、早期返済を行った場合には、従来と異なり、実質的な利息の節約が可能となります。
(エ) 78文法の下では契約初期に利息が集中するため、途中で引揚げが行われると残債額が高くなりやすい傾向がありましたが、これが残高逓減方により、利息が契約期間全体にわたって均等に配分されることとなりました。
ウ その他の重要な変更点
今回の改正により、従来の「年率(Annual Percentage Rate)」という概念は廃止され、実効金利に置き換えられました。
(1) 透明性の向上 ― 金利変更通知
貸主が実効金利を変更する場合には、その変更の発効日の少なくとも14日前までに、借主に対して書面による通知を行わなければなりません。当該通知には、改定後の実効金利および改定後の分割払額または分割回数を明確に記載する必要があります。
(2) 電子契約および電子通知の導入
本改正法は、割賦販売制度をデジタル時代に適合させるため、借主の書面による同意がある場合には、割賦販売契約を電子的に提供することが可能となりました。また、本法に基づく通知は、電報、ファクス、または書面として記録が残るその他の電子的手段によって送達することが認められています。さらに、新設された第45A条により、電子商取引法(Electronic Commerce Act 2006)に適合する限り、電子的形式による通知の法的有効性が明確に承認されました。
(3) デューデリジェンス義務の強化
割賦販売法に新設された第4B条第1A項により、貸主は、割賦販売契約の締結を希望する借主の本人確認を行うために必要なデューデリジェンスを実施する必要があります。貸主によるデューデリジェンスの具体的な手順は規定されていませんが、割賦販売サービスを提供する前に、顧客(賃借人)の身元調査・信用調査を行うことと考えられます。また、そのデューデリジェンスの過程に関する適切な記録を、当該契約の日から少なくとも7年間保存する義務を負うこととなりました。
(4) 書面様式の標準化
割賦販売法第45条第1項の改正により、すべての割賦販売契約は、紙媒体であるか電子媒体であるかを問わず、少なくとも10ポイントのTimesフォント(またはこれに相当するフォント)を用い、黒色の文字で作成しなければならないとされました。これにより、契約書の可読性および統一性が確保されることになります。
(5) 通知発出および回収手続の整備
割賦販売法第18条の改正により、貸主が物品を回収する場合には、割賦販売契約に基づく残債額を超える金額を回収することは認められないとされました。また、借主が物品の回収に応じた場合には、回収時点における物品の価値と残債との差額が存在する場合に限り、その差額を貸主から回収することができます。
4. 既存の割賦販売契約はどのように扱われるのか
よくある懸念として、割賦販売(改正)法が、その施行前にすでに締結されている契約に影響を与えるのかという点があります。結論から言えば、既存の契約は原則として自動的に変更されるものではありませんが、既存の借主に対してはグッドウィル措置が用意されています。
(1) 法的取扱い
割賦販売(改正)法の第22条第1項は、本法施行前に行われた違反行為に関するすべての行為、調査および手続については引き続き従前の法令に基づいて取り扱われることを定めています。
また、第22条第3項は経過措置として、改正法施行前に締結された割賦販売契約について、借主および貸主が合意する場合には、改正後の上記新しい残債計算方法を採用することができる旨を規定しています。このような合意がなされない場合には、従来の契約に基づく計算方法が引き続き適用されます。
したがって、2026年6月1日以前に締結された割賦販売契約については、当事者双方が新しい方法への切替えに合意しない限り、引き続き割賦販売法が適用されます。すなわち、自動的に新制度へ移行することはありません。
(2) 早期返済に関するグッドウィル・ディスカウント
既存契約は自動的には新制度に移行しないものの、マレーシアの銀行は積極的な対応を講じています。すなわち、Association of Banks in Malaysia、Association of Islamic Banking and Financial Institutions Malaysia、およびAssociation of Development Finance Institutions of Malaysiaは、共同でグッドウィル・ディスカウント施策を発表しました。
この施策の下では、既存の固定金利型割賦販売契約のうち、フラットレート方式またはRule of 78を採用している契約について、早期返済時に銀行が上記改正法が適用された場合に類似する経済的効果が受けられるよう善意に基づくディスカウントを提供します。この割引は、新法の下で借主が受けることとなる取扱いに近似するよう設計されています。
(3) 移行期間
貸主(Owner)に対しては、2027年3月31日までの移行期間が設けられており、この期間中にシステム、業務プロセスおよびインフラの整備を行うことが求められています。移行期間中においては、システムの更新が完了するまでの間、貸主は従来のルールに基づいて新たな割賦販売契約を提供することが認められています。他方で、準備が整った貸主については、2026年6月1日以降、新制度を適用することも可能です。移行期間中に新たに契約を締結する借主については、どの計算方法が適用されるのかについて、貸主に確認することが推奨されます。
5. 貸主(Owner)が現時点で講ずべき対応
割賦販売(改正)法の全面施行を見据え、割賦販売による金融提供を行う金融機関は、以下の対応を講ずる必要があります。
(a) すなわち、遅くとも2027年1月1日までに、実効金利(EIR)および残高逓減方式に対応した利息計算システムの見直しおよび更新を行う必要があります。
(b) また、割賦販売契約書の雛形についても、新たな書式要件(10ポイントのTimesフォントおよび黒色文字)に適合するよう改訂しなければなりません。
(c) さらに、金利の変更が行われる場合には、少なくとも14日前までに借主へ通知を行うための手続を整備し、この通知義務が実務プロセスの中に確実に組み込まれるようにする必要があります。
(d) 加えて、割賦販売契約を電子的に交付または締結するにあたっては、事前に借主から書面による同意を取得する体制を整えることが求められます。
(e) また、借主の本人確認を行うためのデューデリジェンス体制を導入または強化し、その記録を少なくとも7年間保存することが必要です。
(f) 加えて、特にマーケティング段階および契約締結前の段階における実効金利(EIR)の開示義務に関して、従業員に対する教育・研修を実施することが求められます。
(g) さらに、既存顧客のうち適用対象となる可能性のある者に対しては、グッドウィル・ディスカウント・プログラムについて明確に説明・周知することも必要とされます。
6. 参考資料
a)https://www.businesstoday.com.my/2026/03/15/hire-purchase-amendment-act-2026-to-take-effect-june-
b) SMFL Hire Purchase (M) Sdn Bhd v Linsun Trans Energy (M) Sdn Bhd & Ors [2018] MLJU 1943 c) Ong Siew Hwa v UMW Toyota Motor Sdn Bhd [2018] 5 MLJ 281
d) Section 5 of the Hire-Purchase (Amendment) Act 2026
e) Section 19 of the Hire-Purchase (Amendment) Act 2026
f) Section 20 of the Hire-Purchase (Amendment) Act 2026
g) Section 21 of the Hire-Purchase (Amendment) Act 2026
h) Section 9 of the Hire-Purchase (Amendment) Act 2026
i) Section 16 of the Hire-Purchase (Amendment) Act 2026
j) Section 4 of the Hire-Purchase (Amendment) Act 2026
k) Section 15 of the Hire-Purchase (Amendment) Act 2026
l) Section 13 (a) of the Hire-Purchase (Amendment) Act 2026
m) Section 13 (d)(aa) of the Hire-Purchase (Amendment) Act 2026
n)https://www.ambank.com.my/announcements/2026/banks-in-malaysia-introduce-changes-to-hire-purchase-financing-with-early-settlement-discounts

