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カンボジアにおける縫製産業と観光産業の労働契約の停止について

2020年05月06日(水)
4月17日、カンボジア労働省から、Covid-19により事業への重大な影響を受けている縫製産業・観光産業を対象とし、
労働契約およびNSSFの保険料支払いの停止について、指導45号が発行されました。
その概要について、ご紹介いたします。
 

カンボジアにおける縫製産業と観光産業の労働契約の停止について

 

縫製産業と観光産業の労働契約の停止についての労働省指導45号

2020年4月20日
One Asia Lawyers カンボジア事務所
(JBL Mekong Co., Ltd / Mar & Associates)
日本法弁護士 村上 暢昭、同 吉田 重規

2020年4月17日付け労働省指導45号「Covid-19による重大な影響を受けた縫製産業と観光産業に対する労働契約とNSSFの保険金支払いの停止について」(以下、本指導)が発行されました。同日、発効しています。
これにより、縫製産業と、プノンペン市・シェムリアップ州・シハヌークビル州・ケップ 州、コンポット州所在の観光産業を対象に、労働契約の停止の条件が定められました。縫製産業に対しては、2月28日付け指導14号の条件を事業者に有利に変更するものであり(使用者の手当の支給義務が72USドル/月から30USドル/ 月に減額)、観光産業に対しては、労働契約の停止の新条件を設定するものとなります。
本指導は、対象産業について、労働法71条1項11号に定められている労働契約停止について、具体的な条件などを定めるものとなります。対象産業以外の事業者で、Covid-19の影響により事業の継続に困難があるものについては、同条項に基づき、個別に労働省に認められる条件により、労働契約を停止することとなると思われます。
以下、本指導の概要について、ご紹介いたします。

1. 対象産業
(1) 本指導は、下記の業種のみを対象としたものです。
① 縫製産業(繊維・縫製・履物、旅行用品および鞄の製造工場)
② プノンペン市、シェムリアップ州、シハヌークビル州 、ケップ州、コンポット州所在の観光産業(ホテル、ゲストハウス、レストラン、旅行代理店)

2.労働契約の停止の条件
(1) 停止の事由
原材料不足や、注文量や輸出先の減少など、生産活動や事業の停止につながる特別に困難な状況に直面していることを理由として、労働契約を停止することが条件となります。
労働契約停止一般について、過去の事例では、事業の全部を停止することは条件となっておらず、本件も同様と思われます。
(2) 労働省の承認
労働契約の停止のためには、下記4の手続きに従い、労働省の承認を受けることが必要となります。
労働監督官は、下記手続きに従った申請の受領後、2営業日以内の 午後2時に、事業所で審査および確認を行うとされています。
(3)停止期間
労働契約停止の期間は、最長2カ月とされています。もっとも、実態に応じて、必要があれば、さらに延長されうるとされています。

2.労働契約の停止の効果
(1)使用者による賃金の支払い義務免除、手当の支給
カンボジア労働法では、雇用が継続する限り、使用者は労働者に対して、原則として賃金の全額を支払う必要があります。労働契約の停止が認められた場合、使用者は、その間の賃金の支給義務を免れることができます。
本指導では、使用者は、労働契約の停止期間中、賃金に代わって、下記金額の手当を支払うものとされます。
①縫製産業 30USドル/ 月(7~10日の労働契約停止は10ドル、11~20日の労働契約停止は20ドル、21日~1ヶ月の労働契約停止は30ドル)。
②観光産業 支払い能力に応じた金額
また、NSSFに対する下記の手続をすることで、NSSFに対する保険料の支払い義務も停止されます。
(2)政府による補助金の支給
政府は、労働契約の停止期間中、労働者に対して、ウイング専門銀行を通じて40USドル/ 月の補助金を支給します(7~10日は15ドル、11~20日は30ドル、21日~1ヶ月は40 ドル)。
労働者は、労働契約停止後10日以内に、ウイング専門銀行から補助金の金額についてのメッセージを受けるとされています。そして、最寄りのウイング専門銀行の代理店に、クメール ID カードと電話番号をメッセージとともに提出することで、補助金を受領することができます。
メッセージ受領後 10 日以内に労働者が補助金を受領しなかった場合、放棄したものとみなされています。
なお、補助金の条件として指導 14 号に定められていた研修への登録義務は、撤廃されています。


3. 労働契約の停止の手続き
労働省は、本年3月23日付け通知9号により、全事業者に対して、同月26日までに、労働者の電話番号を含む全労働者の名簿を提出することを要請しておりました。これに対応した事業者と、対応していない事業者で、下記のとおり手続きが分かれています。
(1) 名簿未提出の事業者
以下の手続きが定められています。
① 別紙1および2の様式に従い、労働省の所管部署に対して申請
  プノンペンの事業者:Labour Inspection Department(労働監督部)
  地方の事業者:Provincial Labour Department (地方の労働部))
② 労働契約が停止される労働者に対して、クメールIDカード番号、個人の電話番号(または電話を所持していない場合、親族の連絡先 )を提供するよう周知
③ 労働契約を停止する労働者のリストを、別紙3の様式に従い作成。
④ クメールIDと電話番号が正しいことを確認するため、労働者から名簿に拇印を取得
③ 添付書類(3部ずつ)
 • 全ページに会社の押印がある直近の給与明細
 • 法人登録証明書
 • 観光業については、必要となるライセンス • 税務パテント証明書
 • NSSFでの事業者登録証明書(もしあれば)
 • 企業の銀行口座番号
なお、労働者の拇印の取得など、求められる手続きをしなかった(ことにより労働者が補助金を受領できなかった)場合、会社が40USDの政府補助金について支払う責任がある とされています。
(2) 名簿提出済みの事業者
名簿未提出の事業者と同様の手続きに従うとされています。ただし、別紙4に従い、オンライン(https://suspension.mlvt.gov.kh) で行うものとされています。

4.NSSFの保険料の支払い停止
NSSFに登録している事業主は、別紙9に従い、労働省のウェブサイト(www.mlvt.gov.k h.)のフォーマットを使用し、NSSFにレターを送付する必要があります。
なお、雇用契約が停止されている間も、労働者は、NSSF から健康保険の給付を受けることができます。

以 上

本記事に関するご照会は以下までお願い致します。

nobuaki.murakami@oneasia.legal
shigeki.yoshida@oneasia.legal