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オーストラリアの外資規制の改正について

2020年11月16日(月)

 オーストラリアの外資規制の改正についてニュースレターを発行しました。

PDF版は以下からご確認下さい。

オーストラリアの外資規制の改正について(日本語)

Major Reforms to Australia’s Foreign Investment Law(English)

 

 

オーストラリアの外資規制の改正について

                                    2020 年11月16日
                 One Asia Lawyersオーストラリア・ニュージーランド事務所


  • 1. はじめに
    近年、急速な技術変革や国際的な安全保障環境の変化に対応するため、日本、米国、中国、EUをはじめとする経済大国において、外国投資リスクに関する政策が改正されています 。このような背景から、2020年6月5日、オーストラリア政府は外資規制法であるForeign Acquisition Takeovers Act 1975(FATA)の大規模な改革を提案しました。この改正により、審査の対象となる買収案件の基準値が0ドルとなる「国家安全(National Security)」の観点での審査が導入され、外国投資に対する審査機関の権限が大幅に拡大されます。また、これに付随し、より広範な審査請求権限(Call-In Power)、過去の決定を覆す「最後の手段」としての審査権限(Last Resort Power)、及びより厳格なコンプライアンスと執行措置が導入されます。法案は既に2段階のパブリックコメントの手続きを経ており、2021年1月1日に施行が予定されています。本ニュースレターでは、改正法の概要をご紹介します。

    2. 現行の外資規制
    オーストラリアの外資審査制度は、FATAに基づいて定められています。本制度の下では、民間の外国人投資家は、一定の価値を持つオーストラリアの事業の権益を取得する前に、政府の承認を求める必要があります。また、すべての外国政府とその関連事業体は、取得する資産の価値に関わらず、承認を求めなければなりません。財務長官(Treasurer)は、外国投資審査委員会(Foreign Investment Review Board)の助言の基、外国投資に関するすべての決定を下します。現行の法令において、財務長官の決定に対し不服を申し立てることはできません 。
    (1) FATAの適用対象

    FATAは、非居住者である個人、外国人が単独で実質的な持分(20%)を保有する法人、信託、及びリミテッド・パートナーシップ、又は複数の外国人が実質的な持分(40%)を保有する法人、信託、及びリミテッド・パートナーシップに適用されます 。また、外国政府機関、又は単独の外国政府機関が実質的な権益(20%)を保有する法人、信託、及びリミテッド・パートナーシップ、若しくは複数の外国政府機関が実質的な権益(40%)を保有する法人、信託、及びリミテッド・パートナーシップといった外国政府投資家にも適用されます 。特筆すべきは、外国人のAssociate(持株会社、役員、外国人が20%以上を保有する会社、又は外国人の指示の下にある会社 )は、自己が外国人でなくても、外国人とみなされる場合があるということです 。

    (2) 適用対象となる行為

    現行制度においては、重大行為(Significant Action)と通知行為(Notifiable Action)の2つの行為が規制対象とされています。基本的には重大行為の範疇に通知行為が含まれ、通知行為につい


    ては、開始前に財務長官に通知することが義務付けられています 。ただし、財務長官には重大行為に対しても審査し命令を下す権限が付与されていることから、重大行為に該当する投資についても、ビジネスの確実性を高めるために、自発的に財務長官に通知することが推奨されます。

    (a) 重大行為(Significant Actions)

    事業の持分取得だけでなく、外国人投資家がオーストラリアの事業に対して支配的な影響力を与える効果がある場合は、契約を締結したり、定款を変更したりする行為も重大行為となります。関連条文であるFATA第40条にはこの他に、下表の基準値を満たし、かつ、支配権の変更があった場合(外国人が単独で20%以上を保有し始めた場合、他の外国人/Associateと共同で40%以上を保有し始めた場合、又は事業の方針を決定する権力を得た場合 )などの要件が規定されています。特筆すべきは、オーストラリアの企業を支配する外国持株企業の買収も適用対象となることです。

    基準値
    2020年3月29日以降に行われた承認申請については、コロナ禍における投資規制強化の一環として、基準値が一時的に0ドルに引き下げられています 。以下の基準値は、今年末に予定される当該時限的措置の解除後に復活するとされています。

 

投資家

買収対象

基準額 (豪ドル)

民間外国人投資家

(以下に該当しない)事業

$1,192m (FTA加盟国[1]

$275m(その他の国)

センシティブ事業[2]

$275m

メディア事業

$0

農業関連事業

$60m (買収分+買収対象事業について自己が既に保有する分)[3]

農地

(土地を所有する法人/信託を取得する場合を含む)

$15m (買収分+買収対象事業について自己が既に保有する分)[4]

商業用地

–        空地: $0

–        開発済みの土地: $1,192m(FTA加盟国)、 $275m(その他の国)

–        鉱業その他重要なインフラ[5]: $60m

居住用地

$0

鉱業ライセンス等

$0[6]

外国政府投資家

全て

$0


土地の権益取得には、5年を超える可能性のある賃貸借契約等が含まれます 。

 

(b) 通知行為(Notifiable Action)

一般的に、通知行為は、農業関連事業における直接的な権益(Direct Interest)の取得(主に、10%以上の取得、又は経営へ影響を与えることができるようになること)、事業持分の20%以上の取得、又は土地の権益の取得のうち、上記基準値を満たすもの限定されます 。重大行為とは異なり、通知行為には支配権の変更は必要ありません。外国政府系投資家の場合、上記の表に記載されている行為はすべて通知行動となります 。

(3) 国益(National Interest)に反するか否かの審査

財務長官は、重大行為が国益に反すると判断する場合、かかる行為を禁止し、条件を課し、又は過去の重大行為によって取得した資産や権益を処分させる権限を持ちます 。「国益」は法令には定義されておらず、財務長官の裁量に基づき案件ごとに判断されます。関連する要因としては、国家安全、競争、他のオーストラリア政府機関の政策、経済や地域社会への影響、行為の透明性、コンプライアンスなどが挙げられます 。

(4) 通知行為の届出後の対応

重大行為の通知を受領してから(仮命令が下されない限り)30日以内に決定が下され、行為が国益に反しないと財務長官が判断した場合、異議がないことを示す通知(No Objection Notification)が発行されます 。No Objection Notificationには、財務長官が必要と認める条件が付される場合があります 。

3. 改正

(1) 国家安全(National Security)の観点での審査

改正法により、投資の価値に関係なく、また、重大行為であるか否かに関係なく、財務長官へ通知しなければならない「国家安全に関わる通知行為(Notifiable National Security Action)」というコンセプトが導入されます 。国家安全に関わる通知行為とは、国家安全に関連する土地(国防施設、国家諜報に関連する土地、その他財務長官が定めた土地 )や国家安全に関連する事業(電気、ガス、水道、港湾などの重要インフラ、通信サービス、国防・諜報関連による使用を目的とした物品・サービス提供事業、及びそれらのサプライチェーンなど )の権益を取得することを意味します。かかる通知義務の適用は、国家諜報に関連する土地に関しては合理的に国家諜報との関係が認識できる場合に限定されてはいるものの、一般的に国家安全に関わる情報は機密であることから、通常のデューデリジェンスでは土地や事業に対する国防や諜報機関の関与が明らかにならない場合もあり、投資家にビジネス上の不確実性をもたらす可能性があります。

(2) Call-In Power

財務長官は、その行動が国家安全上のリスクをもたらす可能性があると判断した場合に、行為の実行前後を問わず、関連する外国人投資家を呼び出して当該行為を審査する権限(Call-In Power)を持つことになります。重大行為の基準を満たさない行為もかかる審査の対象となります 。

 

ただし、10%未満の持分の取得であり、取得後に外国人投資家が事業の政策に影響を与えない場合は、対象となりません。さらに、財務長官は、既に通知されている行為、又は命令、No Objection Notification、若しくは免除証明発行の対象となった重大行為についてCall-In Powerを行使することはできません 。

財務長官は、審査に際し、現行法に基づき関係者に対し情報提供を要請することができますが、法改正後は、かかる要請への対応期間が数日間など非常に短く設定される可能性があり 、対応の遅延は制裁の対象となることから、投資家の実務に大きく影響が出ると予測されます。

Call-In Powerを行使する場合、前記2(4)のように、関係投資家への通知から30日間の決定期間が適用されます。特筆すべきは、財務長官に新たに、決定期間を最大90日間延長する権限が付与される ため、審査期間が最長で210日(30日+延長90日+現行法に規定の仮命令期間90日)となる可能性があります。外国投資家は、かかる決定期間の終了後10日が経過する(又はNo Objection Notificationを受領した日の早い方)までは、対象行為を実行することができません 。なお、前述の期間内に命令が下されなかった場合は、後述のLast Resort Powerを除き、財務長官の権限は消滅します 。また、実行後の対象行為については、実行後10年が経過した場合、Call-In Powerの行使ができなくなります 。

(3) Last Resort Power

現行制度においては、外国人投資家の同意なしに、財務長官が一方的にNo Objection Notificationを修正することはできませんが、改正後は、国家安全上の懸念が確認された場合、新たな条件を課し、既存の条件を変更し、又は実行後の投資の売却を強制する権限(Last Resort Power)が財務長官に付与されます。Last Resort Powerは、発行済みのNo Objection Notificationや免除証明(財務大臣が所定の期間内に決定を下さなかった場合を含む)を再審査する権限となります 。財務長官は、過去のLast Resort Power行使時の決定についても再審査することが可能とされています。

ただし、Last Resort Powerの行使は、投資家から届出のあった事項に誤解を招くような記述や申告漏れがあり、又は状況に重大な変化があった場合に限定されます 。さらに、他の法制度を全て検討したうえで、国家安全上のリスクを十分に排除できないと判断した場合にのみ行使できる ため、まさに「最後の手段」としての権限と言えます。なお注目すべきは、対象行為が国家安全上のリスクとなるという財務長官の決定に対して、外国投資家が行政不服審判所(Administrative Appeals Tribunal)に不服を申し立てることができるようになる点です 。

(4) 違反行為に対する罰則の厳格化

現行の制度では、刑事罰と民事罰の両方の罰則が設けられており、原則として法人の場合は個人の5倍の罰金が課せられます。また、FATAに違反することを許可した法人の役員も罰せられる可能性があります。改正により罰則が厳格化され、また、法人の罰金は原則として個人の10倍になります。以下の表は、一部の違反行為に対する罰則の上限を改正前後で比較したものです。

(1 Penalty Unit = 222豪ドル(2020年7月1日現在) )

 

刑事違反

現行

改正後

通知行為又は国家安全に関わる通知行為の未届け

懲役3年

750 penalty units

又はその両方

懲役10年

15,000 penalty units

又はその両方

所定の期間経過前に買収を実行

財務長官の命令の不遵守

民事違反

現行

改正後

通知行為又は国家安全に関わる通知行為の未届け

個人:

250 penalty units

法人;

1,250 penalty units

以下のうち少額の方:

(a) 2,500,000 penalty units

(b)5,000 (50,000) penalty units 又は対価or市場価値の75%

所定の期間経過前に買収を実行

財務長官の命令の不遵守

また、No Objection Notification又は免除証明に関連して実行した行為及び状況の変化について、その変化又は行為から30日以内に財務大臣に通知することが新たに義務付けられ、これに関する罰則が創設されました 。これは、本改正により新設される外国人投資家保有資産の登記制度(登記内容は非公開)の投資家による適時更新義務に則ったものです 。

(5) 申請費用体系の改訂

本改正により、買収行為の対価に基づいた新しい申請費用体系が導入されます。かかる費用は、投資家が自発的に承認申請した場合だけでなく、財務長官から審査実施の通知を受けた場合にも支払いが求められます 。

例:通知行為及び国家安全に関わる通知行為に関する申請費用 (AUD)

買収対象

定数

×(かける)

居住用地

$1m

対価/1m、小数点以下切り捨て

 

 

 

 

$13200

農業用地

$2m

対価/2m、小数点以下切り捨て

商業用地

$50m

対価/50m、小数点以下切り捨て

鉱業ライセンス等

$50m

対価/50m、小数点以下切り捨て

事業・法人

$50m

対価/50m、小数点以下切り捨て


(6) その他の改正

現行の制度では、通知義務について一定の例外が設けられていますが、本改正により一部改定され、また、新たな例外が追加されます。

受動的投資ファンドの投資合理化
前記2(2)の通り、複数の外国政府投資家が合計で40%以上の持分を保有する法人は、外国政府系投資家とみなされ、0ドルの基準値が適用され、全ての投資において承認の取得が必要となります。そのため、受動的投資ファンド(投資信託など)は政府系投資家の持分が40%以上の場合、
外国政府系投資家として扱われてきました。今回の改正では、このようなファンドによる投資案件の承認を合理化するため、FATAの適用除外となる要件であった外国政府機関による保有率の

 

上限(40%)を撤廃し、民間外国人投資家と同様の基準値が適用されるようになります 。この例外の適用を受けるためには、ファンドが受動的投資機関である(つまり、ファンドの各投資家が投資決定に影響を与える権限をもたないこと、投資に関する機密情報にアクセスすることができないこと、などの要件を満たす)必要があります。

国家安全に関わる行為のFATA適用免除証明

国家安全に関わる通知行為、及び前記のCall-In Powerの行使により審査対象となる国家安全に関わる行為(Reviewable National Security Action)について、新たに免除証明申請制度が導入されます 。複数の行為(すなわち、一連の投資)について一つの免除証明でカバーすることができるため、従来のように個別に行為を通知する必要がなくなります。ただし、かかる免除証明は国家安全上のリスクがないことを証明するものであり、国益に反する行為でないことを証明するものではないため、国益に反するか否かの審査を要する重大行為や通知行為に該当する可能性のある投資については、個別の承認申請をする必要があります。

貸金業のFATA適用除外の改定

現行の制度では、貸金業における行為のFATA適用除外が設けられており、貸金契約に基づき保有される権益(担保権など)についてFATAが適用されませんが、今回の改正により、かかる例外は、国家安全に関わる事業の資産や国家安全に関わる土地の権益が保有される場合には適用されないこととなります。従って、外国人投資家が国家安全に関わる事業資産や土地を担保とするような貸金契約を締結する際は、承認を得る必要があります 。

その他の改正内容として、以下を含む様々な点で、FATAに基づく外国投資管理が強化されます。

自社株買戻し・減資による外国人投資家の持分増加について

外国人投資家が、自社株買戻しや減資によって、(株式数に変化がなくとも)持分割合が増加した場合にもFATAが適用されることを明確にする改訂がされており 、このような行為や不作為(自社株買戻しに参加しない場合など)についても、承認の取得が必要となる可能性があります。

関連会社のトレーシング

現行の規定では非法人であるリミテッド・パートナーシップをトレーシングできないことから、効果的な法執行が阻害される可能性がありました。改正法では、非法人リミテッド・パートナーシップのトレーシングを可能にする ことで、企業団体の上位の法人まで受益者をトレーシングし、対象行為に関する措置が取られることとなります。

4. おわりに
オーストラリアは、安定した政治、透明性の高いガバナンス、豊富な天然資源、堅調な経済を背景に、現在の世界的な経済情勢にもかかわらず、投資機会は今後も増加し続けると考えられます。豪州政府は、その経済効果の高さから今後も外国投資を歓迎する姿勢を維持していますが、今回の改正法は、その厳格さから、自主的な通知を促して外国投資の管理を強化する意図を反映するものとなっています。今後オーストラリアへの投資を検討する企業のみならず、オーストラリアに既に進出している企業においても、過去及び将来の投資決定に対する改正法の影響について検討する必要あると言えます。

 ※脚注はPDFをご覧ください。

以 上

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