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ニュージーランドの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)について

2021年08月13日(金)

ニュージーランドの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ニュージーランドの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)

 

ニュージーランドの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)

2021年8月

One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランド事務所

 

1.適用法令および適用対象

 ニュージーランドにおける公益通報者保護に関する法令は、Protected Disclosures Act 2000(以下、「本法令」)に定められています。本法令は、事業体の重大な不正行為(Serious Wrongdoing)の開示および調査を促し、重大な不正行為の通報をした従業員を保護する目的(従業員以外の者は保護の対象としていない)をもちます。そのため、前回のニュースレター(https://oneasia.legal/7138)でご紹介したオーストラリアの公益通報者保護制度と比較して、非常に適用される範囲は限定的であると言えます。

 本法令において適用対象となる通報とは、事業体の従業員による事業体内部の重大な不正行為についての情報の開示に限定されており、従業員が当該情報の真実性を信じるに合理的な根拠がある場合を指します[1]。真実性を信じる合理的な根拠が存する場合であれば、当該情報が間違っていたとしても本法令の保護の対象となります。

 重大な不正行為とは、以下を含むと定義されています[2]

 ・政府機関の資金や資源の不正使用、汚職
 ・公共の健康、安全、環境に対する深刻なリスクをもたらす行為または不作為
 ・犯罪の捜査・摘発、公正な裁判を受ける権利などの法の維持に対して深刻なリスクをもたらす行為または不作為
 ・犯罪となる行為または不作為
 ・抑圧的、差別的、もしくは重大な過失となるような公務員の行為または不作為

 本法令の適用対象となるには、従業員は、通報に際して、事業体の通報に関する社内手順を遵守しなければならないと規定されていますが[3]、通報の方法が多少のテクニカルな部分で社内規定を遵守していなかったとしても、本法令の保護を受けます[4]。例えば、事業体の社内規定において指定されている窓口とは異なる者へ所定のフォーマットを提出してしまった場合でも、本法令の適用を受ける通報とみなされます。

 社内手順がない場合、または、社内手順にて通報先に指定された役職の者が通報の対象となる不正行為に関与している可能性があり、またはその者が不正行為に関与する者との関係性から通報を受け付けるに適切でない場合には、事業体のトップへの通報が許可されます。事業体のトップが関与している案件の場合、または緊急の対応を要する場合などの特別な事情が存在する場合は、適切な政府機関への通報が可能です。また、事業体へ通報したにも拘らず20営業日以内に対応が執られなかった場合も、政府機関への通報が許可されます。以上のいずれの通報も、本法令の保護の対象となります。

2.通報者の保護

 本法令にて保護される通報を行った従業員が、雇用主(元雇用主を含む)から報復措置を受けた場合には、不当解雇、または雇用条件に不利な影響を及ぼす雇用主の不当行為として、雇用法(Employment Relations Act 2000)に基づき申立てをすることが可能です[5]

 通報者は、法令、契約、その他の取決めまたは慣習などによって開示が禁止されている情報を通報したとしても、通報行為について民事・刑事処分または懲戒処分などの対象とはなりません[6]

 通報者の身元が特定される可能性のある情報の取扱い(守秘義務)については、通報を受けた者の努力義務(must use his or her best endeavours)であり、調査を行う上で合理的に必要な場合には通報者の身元情報の開示が許可されます[7]

3.今後の法改正

 以上の通り、ニュージーランドの公益通報者保護法はその適用範囲は限定されており、他国と比較しても整備されていない状況であると言えます。基本的には従業員のみが保護の対象となり、従業員以外は保護の対象とされておらず、報復措置があったと主張を受けた場合は、雇用法の範囲内で対応されます。罰則がないのも特徴的で、執行能力に欠けると考えられます。

 一方で、昨年から、改正法が国会で議論されており、その内容には、「重大な不正行為」の定義、通報方法、規制対象となる通報の受領者の定義、通報者が受ける不利な扱いの形態など、様々な事項の明確化を含みます。

 オーストラリアの現行法などと比較すると抜本的な改正/厳格化とまでは言えませんが、実務上の適用に不透明な部分が多い本法令に対し、ガイドラインとしての役割が期待される改正法案の今後の行方が注目されます。

以 上

 

[1] Protected Disclosures Act 2000第6条

[2] Protected Disclosures Act 2000第3条

[3] 民間事業体の場合は、当該社内規定の策定は義務付けられていない(Protected Disclosures Act 2000第11条)。

[4] Protected Disclosures Act 2000第6A条

[5] Protected Disclosures Act 2000第17条

[6] Protected Disclosures Act 2000第18条

[7] Protected Disclosures Act 2000第19条