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モルディブの投資環境

2021年10月15日(金)

モルディブの投資環境についてニュースレターを発行しました。

PDF版は以下からご確認下さい。

モルディブの投資環境

 

モルディブの投資環境

 

2021年10月15日

One Asia Lawyers 南アジアプラクティスチーム

インド洋に浮かぶ島嶼国であるモルディブは、観光業と水産業を経済基盤とし、近年は平均6.3%の経済成長を遂げていることもあり、また、地政学的にも重要な位置にあることから、投資の対象として海外投資家から注目されています。

本ニュースレターでは、モルディブにおける投資環境および外国投資規制を解説いたします。

なお、2021年9月15日発売の南アジアの法律実務(中央経済社)では、モルディブにおける投資環境以外にも、会社制度、労働法、不動産法制等の法務実務を解説していますので、ぜひご参照ください。

 

  • 1.モルディブの概要

モルディブは、1,192の島から成り、インドとスリランカから500キロメートル離れたインド洋に位置する島嶼国です。以前はポルトガル語を公用語とするスルタン国家であり、17世紀にオランダの支配下に、1887年にはイギリスの保護領に、そして1965年に主権国家として独立した経緯があります。

主要産業である観光業と漁業が経済を牽引し、2015年から2019年までの年間実質GDP成長率は平均6.3%[1]と、堅調に成長しています。世界銀行の分類では高中所得国にあたり、一人当たり名目GDPは、2020年は7,456USDに落ち込んだものの、2019年は1万USDを超えていました[2]

コロナ禍におけるGDPの落ち込みは回復傾向にあり、世界銀行やIMF等の予測では、モルディブの実質GDPは、2023年までに2019年の水準まで回復すると見られています[3]

また、日本の対モルディブ援助実績は高く(モルディブにおいて日本は最大規模の援助国)、伝統的な親日国であることもあり、日本とは友好関係を築いています。

【モルディブ共和国の概要】

首都

マレ

面積

298平方㎞(20の環礁に1,192の島が広がる)

人口

53.4万人(2019年モルディブ政府資料)

言語

ディベヒ語

民族

モルディブ人

宗教

イスラム教

政治体制

政体:共和制

元首:大統領(イブラヒム・モハメド・ソーリフ大統領)

首相:なし

通貨

ルフィア(Rf)

名目GDP

2020年:約40億USD|2019年:約56.4億USD(世銀)

一人当たり名目GDP

2020年:7,456USD|2019年:10,626USD(世銀)

 

  • 2.外国企業の投資規制

モルディブの外国投資を規制する法規制として、「モルディブ外国投資法」[4]と、同法に基づく「FDI政策」[5]があります。

分野や業種ごとに、外国投資の参入要件(禁止・制限の有無、出資比率の上限、最低投資額、FDI協定の期間の上限、参入ルート)は、FDI政策の別添1にリストされています。

  • (1)外資規制

外国投資の対象として開放されていない分野は以下のとおりです。

 

【外国投資が禁止される分野】

n  林業

n  砂の採掘

n  原油・天然ガス・金属鉱石以外の採鉱・採石

※原油・天然ガスの抽出、金属鉱石の採掘へのFDIは“Negotiable:要交渉”に分類される

n  タバコ製品の製造

n  家具以外の木材、および木材・コルク製品の製造

n  ゴム・プラスチック製品の製造

手芸品・土産品の製造

小売業(Retail trade)

n  建設資材以外の業種の卸売業

※建設資材の卸売業(Wholesale trade of construction materials)は外資率75%を上限に政府ルートでFDIが可能

n  陸上輸送サービスおよびパイプラインによる輸送(Land transport services and transport via pipelines)

n  郵便・宅配事業

n  物流業

n  ピクニックアイランドの運営

飲食サービス業(カフェ、レストラン、ベカーリー、その他飲食店含む)

n  許可される宿泊施設(観光リゾート、観光ホテル、観光船、ヨットマリーナ、ゲストハウス、複合観光)以外の宿泊施設

n  プログラミング・放送事業

n  法務事業

n  写真・ビデオ撮影事業

n  レンタル・リース業(重機等のリースを含む)

人材紹介・仲介事業(Employment activities; Employment agencies, recruitment services)

旅行代理店(Travel agency, tour operator, reservation service and related activities)

n  建築・造園事業へのサービス

n  行政、防衛、社会保障

n  一般の塾事業(General tuition classes)

n  塾・補習校サービス業(Tuition services)

n  コーランの授業

n  病院

n  理学療法クリニック以外のクリニック

n  会員制団体の活動

n  パソコン、個人・家財道具の修理

また、以下の分野は、投資にあたり、外資比率の上限や最低投資額、協定有効期間を、個別の交渉によって決めることとなります。

【外資比率・最低投資額・協定有効期間の要件が“Negotiable”に分類される分野】

n  原油・天然ガスの抽出

n  金属鉱石の採掘

n  鉱業支援サービス

n  燃料補給サービス

n  コークス(燃料)・石油精製品の製造

n  化学薬品・化学製品の製造

n  電気、ガス、蒸気、空調の供給

n  政府承認の再生可能エネルギープロジェクト

n  集水・脱塩・処理・供給

n  下水道

n  廃棄物の収集・処理・処分、材料回収

n  浄化活動・その他の廃棄物処理

n  政府承認の建築物の建築プロジェクト

n  専門的な建設(道路、橋、その他政府承認のインフラプロジェクトの建設含む)

n  ヘッドオフィスの活動、経営コンサルタント

n  検査・診断サービス

n  許可されるヘルスサービス(病院、在宅ケア、デイケア、理学療法クリニック)以外のヘルスサービス(専門施設含む)

 

外国投資が許可される分野への投資は、以下のいずれかのルートからFDIの申請を行うことと規定されます。

 

【申請ルート】

自動ルート

(Automatic Route)

最初の5年間に規定のFDI参入要件(セクター別の条件、持株比率、最低投資額、投資期間)を満たす場合、申請は2営業日程度で自動的に承認される。

政府ルート

(Government Route)

分野・産業・提案する投資事業にセンシティブな要素がある場合、自動承認は保証されず、政府の承認が必要となる。承認に要する期間は5~14営業日程度。

なお、その他の分野・業種は、それぞれ出資比率49%から100%の範囲において、個別の要件に基づき外国投資が認められます。

例えば、ツーリストリゾート(ホテル経営、ゲスト・ショップ運営、スパ、ダイビング・センター、ウォーター・スポーツ、送迎サービス等)への投資は、自動ルートで外資率100%まで認められ、最低出資額は交渉可能です。

また、水産養殖(Aquaculture / Mari Culture)については、政府ルートで外資率100%まで認められ、最低投資額は5年以内に100万USD以上、協定の有効期間は最大50年間、と規定されています。

  • (2) 会社設立・外資規制の基本ルール

FDIの承認取得後は、会社またはパートナーシップとして事業者登録を行うこととなります。

その後、担当省庁との協定(agreement)を締結する必要があり、当該協定は、投資対象分野が観光業であれば観光省との締結、それ以外の分野への投資であれば貿易・工業省との締結と定められています。

 

【担当省庁との協定(締結必須】

観光分野へのFDI

観光省との協定締結

その他分野へのFDI

貿易・工業省との協定締結

協定を締結すれば、当該協定の有効期間中は、自由に業務および活動を行うことが認められます。

 

FDI事業における生産・製造に際しては、原則としてモルディブ国内での調達が可能なものは国内調達とされ、適した材料等が国内で調達できない場合のみ、モルディブ国外から輸入することが可能となります。

モルディブにおける利益は、観光省または貿易・工業省との協定の条件に基づき、国外に送金することが認められています。

会社の設立および運営にあたっては、モルディブ会社法[6]に準拠することとなります。

 

  • (3) 労働法

モルディブにおける雇用関係法令は、雇用法および関連規則により規定されます2021年3月16日に6次改正雇用法が施行されたこにより、解雇補償金等の規定が修正された他、サービス料の徴収義務が新たに導入されている点に留意が必要です。当該新規定では、観光業における事業者(外部委託している観光施設含む)は、10%以上のサービス料徴収義務を負い、徴収したサービス料は、従業員の勤務日数に基づき公平に分配しなければならないと定められています。使用者は管理費として1%までの控除が認められますが、控除分も含め、サービス料の徴収・分配の詳細は、年に2回、当局に報告することも義務付けられます。

なお、同法は、モルディブ国内で雇用されるすべての者に適用されるため、小規模な外国会社もこれを遵守する必要があります。

その他詳細や、会社制度や関連法務実務に関しては、『南アジアの法律実務』(中央経済社)において解説していますのでご参照ください。

 

[1] 世界銀行:https://www.worldbank.org/en/country/maldives/overview#3

[2] 世界銀行:https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.PCAP.CD?locations=MV

[3] 世界銀行:https://www.worldbank.org/en/country/maldives/overview#3

IMF(国際通貨基金):https://www.imf.org/en/Countries/MDV#countrydata

 

[4] Law on Foreign Investments in the Republic of Maldives (Law No. 25/79)

[5] Foreign Direct Investment Policy

[6] The Companies Act of the Republic of Maldives (Act No: 10/96)

本記事やご相談に関するご照会は以下までお願い致します。

info@oneasia.legal