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オーストラリアへの不動産投資・建設業に関する法的枠組みについて

2021年12月14日(火)

オーストラリアへの不動産投資・建設業に関する法的枠組みについてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリアへの不動産投資・建設業に関する法的枠組み

 

オーストラリアへの不動産投資・建設業に関する法的枠組み

2021年12月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.不動産法の基礎概念

 オーストラリアの土地を所有する権利は、Freeholdと呼称されます。概念上は、君主(Crown)が土地の絶対的な所有権を有するものとされていますが、実質的には、国が一定の権限を行使する場合を除きFreeholdの権者(一般個人・法人等)は、無期限に土地を自由に処分することが可能です。国や州が民間に対し一定期間の土地の使用を許可するLeaseholdという所有形態も存在します。区分所有物件(Strata Title)という概念も存在します。なお、オーストラリアでは、建物は土地の付随物(Fixtures)と考えられているため、一般的には土地と建物は別々に譲渡されません。

 オーストラリアは不動産登記制度Torrens Systemを採用しており、不動産の権利は、登記されることで発効されて第三者への対抗要件となります(Title by Registration)。登記制度は州・準州の各法令に基づいて規制されています。この他にも不動産および建設に関する法令は、州・準州により異なります。

2.不動産投資に関わる外資規制

 外国企業がオーストラリアへ不動産投資をする場合は、外資規制法であるForeign Acquisitions and Takeovers Act 1975およびその下位規則(Foreign Acquisitions and Takeovers Regulation 2015)の適用を受けます。外資規制法については前回のニューズレター(https://oneasia.legal/6062)にて紹介した通り、「外国人」が一定の権益を取得する場合に、外国投資審査機関(FIRB:Foreign Investment Review Board)の承認を取得することが求められます。「外国人」とは、非居住者、外国人が単独で20%以上を保有する法人・信託、または複数の外国人が合計40%以上を保有する法人・信託、およびそれらの関連会社等の関連者(Associate)を含みます。

 特に不動産投資については、主に以下の権益を取得する場合にFIRBの承認が必要となります。

 ・所有権
 ・更新期間を含み合理的に5年を超える賃借権(Lease)
 ・使用権(License)
 ・採取権(Profit a Prendre)
 ・抵当権
 ・全資産の50%超が豪州不動産である会社の株式(オプションを含む)、信託の受益権または信託会社(Trustee)の株式

 基準額は、居住地、更地の商業地もしくは鉱業権の取得、または外国政府投資家による土地の取得の場合は、原則として0豪ドルのため、全ての取得行為についてFIRBの承認が求められます。一方で、開発がされた商業地の場合は、1,216M豪ドル(日本を含む貿易条約締結国の投資家の場合は281M豪ドル)、センシティブな土地の場合は61M豪ドル、農業用地は15Mドルといった異なる基準額が適用されます。なお、基準額は毎年変動されます。

 ただし、上記の規制には一定の例外が存在します。例えば、貸付事業の過程で担保目的のために不動産の抵当権を設定する場合は、FIRBの承認を取得する必要はありません。ただし、担保不動産が居住地の場合は、外国人投資家が、オーストラリアまたは海外にてライセンスを受けている金融機関であるか、または上場会社(上場信託)もしくは100名以上の株主(受益者)がいる会社(信託)でなければなりません。

 また、開発業者が外国人へ転売目的で建設した物件についてFIRBから免除証明(Exemption Certificate)を取得しており、当該免除証明の条件を満たす場合は、物件の買主はFIRBからの承認を得る必要はありません。

 この他に、外国政府投資家は基本的に全ての投資についてFIRBの承認が必要(つまり基準額が0豪ドル)であるところ、政府系の受動的投資ファンド(投資信託等)については、単独の政府系投資家の持分が20%未満の場合に、民間投資家と同様の基準額の適用を受けることができます。

 2021年1月に新たに導入された規制として、国家安全に関わる土地(National Security Land)を取得する場合は、投資額に関係なくFIRBへの通知が求められます。国家安全に関わる土地(National Security Land)とは、国防施設、国家諜報に関連する土地、およびその他財務長官が定めた土地のことを指します。投資家としては、合理的な範囲でのデューデリジェンスを行い、投資に関連する土地がNational Security Landでないことを確認することが重要です。

3.不動産投資方法

 オーストラリアにおける不動産投資方法は、不動産の所有権の取得、賃貸、売却目的の開発、プロジェクトファイナンス、および不動産ファンドへの投資等、多岐に渡ります。日本企業がオーストラリアで現地開発業者のJVプロジェクトに投資し、または自ら不動産の開発に関わる場合は、リスク分散や税務・会計の観点から現地でSPV(Special Purpose Vehicle)を設立することが一般的です。その場合は、上述の通り、出資比率や投資額によってはFIRBの承認が必要となります。オーストラリアへの進出形態については、こちらのニューズレター(https://oneasia.legal/6525)にて紹介しています。

 この他に、オーストラリアの会社法(Corporations Act 2001)において集団投資信託(MIT:Managed Investment Trust)として区分される、豪州の金融機関ライセンス(Financial Service Licence)を受けた者により運営されている不動産ファンドへ投資することで、外国人投資家は税務優遇措置を受けることができます(通常は30%の源泉徴収税が発生するところ、10%または15%にディスカウントされる)。

4.建設に関する法令

 オーストラリアで不動産を開発する場合は、上述の通り必要なFIRBの承認を得て土地を取得した後、管轄当局(州・Local Council)の都市計画に基づく開発許可(Development Approval)および州政府の建築安全基準に則った建設許可(Construction Permit)を取得して開発に着手し、開発後は占有許可(Occupation Certificate)の取得および各種登記を行います。

 建設下請に際しては、オーストラリアでは支払保証法(Security of Payment Act)に関する訴訟が多くみられます。支払保証法とは、建設工事や関連商品・役務を提供する事業者が、所定の手続きを踏むことで、作業進行に応じて部分払い(Progress Payment)を受領することができる権利を定めた法令です。ニューサウスウェールズ州裁判所は、TFM Epping Land Pty Ltd v Decon Australia Pty Ltd[1]において、特定の手続き手順および時間枠を厳密に遵守することの重要性を強調しました。オーストラリアにて開発を行う場合は、委託する側であるか下請業者かにかかわらず、関連する州・準州の支払保証法に基づく支払い請求の手続きおよび時間枠を確認しておくことが推奨されます。なお、ニューサウスウェールズ州の支払保証法であるBuilding and Construction Industry Security of Payment Act 1999(NSW)は、2019年10月21日に大幅な改正が行われ、主な改正点として、これまで紛争の主な原因となっていた支払請求権の基準日(Reference Date)という概念が削除され、基準日に依ることなく毎月支払請求を提出する権利に変更となっています。

 以上の通り、不動産投資および開発には外資規制、現地での不動産取得手続き、建設業法に至るまで、様々な法令を念頭に進める必要があります。日本企業としては、投資計画の初期段階から、現地の不動産・建設業界に精通した専門家のアドバイスを受けることが重要です。

以 上

 

[1] TFM Epping Land Pty Ltd v Decon Australia Pty Ltd [2020] NSWCA 118