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香港におけるコーポレートガバナンス・コード及び上場規則の改正について

2022年03月10日(木)

香港におけるコーポレートガバナンス・コード及び上場規則の改正についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

香港におけるコーポレートガバナンス・コード及び上場規則の改正

 

香港におけるコーポレートガバナンス・コード及び上場規則の改正

2022年3月
One Asia Lawyers Group
コンプライアンス・ニューズレター(日本語版)

 香港証券取引所(以下「HKEx」)は2021年12月10日にコーポレートガバナンス・コード(「Corporate Governance Code」、以下「CGコード」)及び関連上場規則(「Related Listing Rules」)のレビューに関する協議に対する結論を発表しました。本発行後、香港の上場企業のコーポレート・ガバナンス及びダイバーシティの実践を強化するために、CGコード及び上場規則が改正されました[1]。本改正は2022年1月1日に発効し、新しいCGコードの要件は2022年1月1日以降に開始する会計年度のコーポレートガバナンス報告書に適用されます。HKExはまた、取締役会および取締役に対するコーポレートガバナンス・ガイド(「Corporate Governance Guide」、以下「CGガイド」)という新しいガイダンスを公表しており、CGコードと一緒に読まれることを想定しており、発行者が新しい要件に準拠することを支援するものとされています。

腐敗防止・内部告発方針に関する新たな要求事項

 すべての上場発行者は、腐敗防止方針及び内部告発方針を定めなければなりません[2]。 CGコードの新しい規定D.2.6にて、上場有価証券の発行者は、従業員や発行者と取引のある者(顧客やサプライヤーなど)が、発行者に関連するあらゆる事項で不正の可能性について、秘密かつ匿名で懸念を表明するための内部告発方針を確立しなければなりません。CGコードの新しい規定D.2.7にて、発行者は腐敗防止に関する法律や規制を促進し支援する方針とシステムを確立しなければならなりません。

 補足のCGガイドには、腐敗防止及び内部告発方針に関する節が含まれています。本ガイドは、これらの方針の目的と範囲に関するガイダンスを提供し、方針に含まれる可能性のある情報の種類のリストも提供しています。一例として、報告経路や内部告発方針に対する報告書の取り扱いに関する情報を含めること、また腐敗防止方針にトップレベルののコミットメントの表明や、利益相反の取り扱いに関するガイドラインを含めることを提案しています[3]。  

その他の主な改正点

 改正されたCGコード及び上場規則は、上場有価証券の発行者に対して以下のような要件も導入しています。本項目は、CGガイドにも説明されています。

1. 企業文化

 取締役会は、発行者の目的、価値観、戦略を確立し、これらと発行者の文化が一致していることを自ら確認する必要があります[4]。 また、腐敗防止及び内部告発の方針を定めることも、企業文化に関する本カテゴリーの要件であります。

2. 取締役会の独立性

 発行者は、独立した見解や意見を取締役会が利用できるようにするための仕組みを確立し、コーポレート・ガバナンス報告書(「Corporate Governance Report」)において開示するべきです。また、取締役会は、その仕組みの実施及び有効性につき毎年レビューを行う必要があります[5]

 また、9年以上在任する独立非業務執行取締役(「Long Serving INEDs」)に対する要件において、以下の変更もあります。

・Long Serving INEDの指名延長に関する決議に添付される株主への書類には、 Long Serving INEDが引き続き独立した立場にあり、再任されるべきであると判断するに至った検討要素、プロセス、取締役会(または指名委員会)の議論に関する追加の開示を含める必要があります[6]
・取締役会のすべての独立非業務執行取締役が(9年以上在任する)Long Serving INEDである場合、発行者は以下を行う必要があります。

 (a) 年次総会の通知に添付される株主への回覧文書及び/又は説明文書において、各既 存INEDの在任期間を名指しで開示する。
 (b) 次の年次総会で、新しいINEDを取締役に任命する[7]

 また、新たな推奨ベストプラクティスとして、発行者は一般的にINEDに対して業績連動要素を持つ株式連動型報酬(例:ストックオプションや新株予約権の権利付与)を付与するべきではないことを示唆しています[8]

3. ダイバーシティ

 今後HKExは、単一の性別の取締役会はダイバーシティを達成すると考えられません。従って、以下の要件が適用されます。

・経過措置として、単一の性別の取締役会を持つ発行者は、少なくとも2024年12月31日までに異なる性別の取締役を取締役会に任命しなければなりません[9]
・男女別取締役会の発行者で、性別の多様性を実現するための目標を記載した上場書類にコミットメントを行った発行者は、当該コミットメントに従って異なる性別の取締役を選任する必要があります[10]
・新規株式公開(IPO)申請者は、2022年7月1日以降に提出する様式A1申請[11]時に、その任命が上場と同時に有効となるよう、少なくとも1名の異なる性別の取締役を特定する必要があります[12]

 また、すべての上場発行者は、取締役会レベルにおけるジェンダー・ダイバーシティ達成のための数値目標とタイムラインを設定し、開示しなければなりません。従業員レベルでは、従業員(上級管理職を含む)の男女比、発行者が男女のダイバーシティを達成するために設定した計画や測定可能な目標、そして従業員(上級管理職を含む)全体の男女のダイバーシティの達成がより困難または関連性が低い緩和要因や状況について開示・説明しなければなりません[13]

 また、すべての取締役会は、取締役会のダイバーシティに関する発行者の方針の実施と有効性を毎年レビューしなければなりません[14]

4. 株主とのコミュニケーション

 発行者に対して、双方向のコミュニケーション手段を含む株主コミュニケーション方針の開示が新たに義務付けられています[15]。有効性を確保するために方針を毎年レビューする必要があります[16]

5. 環境・社会・ガバナンス(ESG)

 CGコード及び上場規則の改正により、コーポレートガバナンスとESGの関連性がより明確にされており、リスクマネジメントの観点からESGリスクが強調されるようになりました[17]

 また、今後は、発行者は年報の発行と同時にESGレポートを発行しなければなりません[18]

以上

 

[1]コーポレートガバナンス・コードはメインボードへの上場規則 (Main Board Listing Rules) の別表14 及びGEMへの上場規定細則(GEM Listing Rules)の別表15 に記載されています。

[2] 以前、内部告発の方針は推奨ベストプラクティスとしてのみ提案されていました(旧規定C.3.8)。

[3] コーポレートガバナンス・ガイド、ページ13-16。

[4]コーポレートガバナンス・コードの規定A.1.1。

[5]コーポレートガバナンス・コードの規定B.1.4。

[6]コーポレートガバナンス・コードの規定B.2.3。

[7]コーポレートガバナンス・コードの規定B.2.4。

[8]コーポレートガバナンス・コードの推奨ベストプラクティス E.1.9。

[9]メインボードへの上場規則 (Main Board Listing Rules)の規則13.92 / GEMへの上場規定細則(GEM Listing Rules)の規則。

男女別取締役会の発行者は、既存の取締役が輪番制により退任する時期になると同時に、異なる性別の取締役を選任することを検討することが期待されており、移行期間の満了を待つべきではありません(コーポレートガバナンス・コード及び関連上場規則のレビューに関する協議に対する結論、86項、ページ18)。

[10]コーポレートガバナンス・コード及び関連上場規則のレビューに関する協議に対する結論、87項、ページ18。

[11] 様式A1(Form A1)は香港証券取引所における上場申請書です。

[12]コーポレートガバナンス・コード及び関連上場規則のレビューに関する協議に対する結論、88項、ページ18。

[13]コーポレートガバナンス・コードの必須開示事項のJ項。

[14]コーポレートガバナンス・コードの規定B.1.3。

[15]コーポレートガバナンス・コードの必須開示事項のL(b)項。

[16]コーポレートガバナンス・コードの必須開示事項のL(c)項。

[17] コーポレートガバナンス・コードには新たな導入項が追加されており、原則 D.2、規定 D.2.2 および D.2.3は修正されています。

[18] メインボードへの上場規則 (Main Board Listing Rules)の規則13.91(5)(d) / GEMへの上場規定細則(GEM Listing Rules)の規則17.103(5)(d)、ESGガイドの4(2)(d) 項。