オーストラリアにおける最新の雇用法改正の留意点について
オーストラリアにおける最新の雇用法改正の留意点についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。
オーストラリア:最新の雇用法改正の留意点
2023年1月吉日 <style=”text-align: right;”>One Asia Lawyers Group <style=”text-align: right;”>オーストラリア・ニュージーランドチーム
1.はじめに
2022年12月2日、オーストラリアの主要な雇用法であるFair Work Act 2009 (Cth)(以下「フェア・ワーク法」)の新改正法案Fair Work Legislation Amendment (Secure Jobs, Better Pay) Bill 2022(以下「Secure Jobs, Better Pay改正法案」)が議会で可決され、フェア・ワーク法の多角面からの改正が行われました。
本稿では、オーストラリアにて事業を行う日系企業が特に留意すべき改正点を概説します。
2.有期雇用契約(Fixed Term Contract)
2年間を超える有期雇用契約、または雇用期間が合計2年間を超える契約更新を許容する有期雇用契約は、一定の例外に該当しない限り禁止されます。また、実質的に類似する業務に関する契約を複数回連続して同じ従業員と締結することは禁止されます。当該禁止条項は無効となり、対象者は正規従業員としてみなされ、フェア・ワーク法に基づく各種手当・不当解雇の保護の対象となる可能性があります。例外の対象としては、高所得基準を満たす従業員、上記有期雇用契約の締結が許可されてるModern Award(労使裁定)の適用を受ける従業員、経営管理をする立場の従業員、特別な職能を必要とする役職、一時的な代替要員、養成訓練のための有期雇用契約を締結する従業員等を含みます。
更に、雇用主は、有期雇用契約の従業員に対し、有期雇用契約情報ステートメント(Fixed Term Contract Information Statement)を提供することが求められます。
本改正点は、2023年12月6日に発効される予定です。
3.柔軟な勤務形態(Flexible Work Arrangements)
従来のフェア・ワーク法に規定の従業員の柔軟な勤務形態を求める権利が強化され、55歳を超える家族を介護する従業員および家庭内暴力の状況にいる従業員へも当該権利の適用が拡大されます。また、雇用主は、柔軟な勤務形態の要求を拒否する場合、従業員と誠意をもって協議し、その正当な理由を従業員に対して提示するなどの所定の手続きを踏まなければなりません。また、要求の拒否に関して紛争が生じた場合の紛争解決メカニズムに関し、当局フェア・ワーク委員会が裁定を行う権力が強化されました。
更に、育児休暇を取得する従業員について、無休の育児休暇期間の延長を要求する権利が強化され、要求を受けた雇用主は、所定の理由がない場合に当該要求を拒否することが禁止されます。
本改正点は、2023年6月6日に発効される予定です。
4.給与・待遇の機密保持を義務付ける契約条項(Pay Secrecy Clauses)
差別・偏見による給与格差のリスクを低減するため、従業員に対して給与・待遇の機密保持を義務付ける契約条項(Pay Secrecy Clause)を雇用契約に規定することが禁止されます。更に、従業員同士で報酬および雇用条件に関して開示・協議する権利が明記されました。
本改正点は、2022年12月7日に発効されています。
5.職場セクシュアル・ハラスメントの禁止法令の強化
セクシュアル・ハラスメントが明確に禁止され、また、ジェンダー・アイデンティティ等を含む新たな属性が保護規制の対象となります。本改正点は、2023年3月6日に発効されます。
また、これに関連して、2022年11月28日に可決されたAnti-Discrimination and Human Rights Legislation Amendment (Respect at Work) Bill 2022 (Cth)(以下「Respect@Work改正法」)では、正社員、臨時雇用、無休人員、および顧客等の第三者を含む広範囲の対象者に対する職場でのセクシュアル・ハラスメントを防止する積極的な義務が雇用主に課され、合理的な防止策を取らなかった雇用主は、従業員の行為について責任を負います。フェア・ワーク委員会には、紛争において「Stop Sexual Harassment Order」の命令および調停を指示する権限が付与されます。また、オーストラリア人権委員会は、雇用主の当該義務の遵守状況について監査し、情報提供を要求する権限を有します。Respect@Work改正法は、この他にも、Sex Discrimination Act 1984 (Cth)を改正し、他者を、性別を理由とした敵対的な職場環境に置く行為が明示的に禁止されます。
6.集団交渉(Collective Bargaining)
フェア・ワーク法の集団交渉および労使協約(Enterprise Agreement)の締結要件が緩和され、所定の条件を満たす場合に複数の雇用主を一つのMulti-Enterprise Agreementに参加させることが可能となりました。また、労使協約の締結には当局フェア・ワーク委員会の承認が必要ですが、当該承認手続きおよび審査要件であるBetter Off Overall Testが緩和され、一定の柔軟性が確保されました。更に、従業員の集団交渉を開始する権利が強化され、従来のように雇用主の集団交渉の開始決定に伴う通知を受ける必要がなくなり、従業員からの書面による通知により開始するできようになりました。
この点に関してもフェア・ワーク委員会の権限が拡大され、集団交渉に関する紛争が発生した場合に介入・裁定する権限が付与されました。一方で、フェア・ワーク委員会の労使協定を終了する権限に関しては、限定的な状況下においてのみ権限行使が許可されます。
本改正点は、一部を除き、2022年12月7日に発効されています。労使協定の承認に関しては、2023年6月6日に発効される予定です。
7.おわりに
オーストラリアでは、Secure Jobs, Better Pay改正法案以外にも、新政権による雇用法改正が相次いで行われています。上述のRespect@Work改正法の他、2022年10月27日に可決されたFair Work Amendment (Paid Family and Domestic Violence Leave) Act 20022により、2023年2月1日から、家庭内暴力状況にある従業員の特別有給休暇が現行の5日間から10日間に変更され、Pay Slipに記載する情報の規制等、当該状況下にある従業員を保護するための規定が整備されました。
オーストラリアで事業を行う企業は、以上のような一連の法改正に伴い、現行の雇用契約、性差別やセクシュアル・ハラスメントに関する社内ポリシーのレビュー、および従業員からの勤務形態・休暇取得に関する対応手順の見直しを行うことが推奨されます。
以 上