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日本における宅地造成及び特定盛土等規制法について

2023年03月10日(金)

日本における宅地造成及び特定盛土等規制法についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:宅地造成及び特定盛土等規制法について

 

日本:宅地造成及び特定盛土等規制法について

2023年3月10日
One Asia Lawyers Group
弁護士法人 One Asia
弁護士 江 副 哲
弁護士 川 島 明 紘

1. はじめに
一昨年(2021年)発生した静岡県熱海市における大規模土石流災害を受け、昨年5月に公布された宅地造成等規制法の一部を改正する法律(以下、「盛土規制法」といいます。)が、本年5月26日に施行されます。盛土規制法では、その規制区域・規制対象を拡大していることから、多くの建設事業に影響が出る改正ですので、関連事業者様におかれてはご注意いただきたく、本ニューズレターにて、同法の概要・留意点について解説いたします。

2.盛土規制法の概要

⑴ 従前の制度上の課題
従前の制度においては、宅地の安全確保、森林機能の確保、農地の保全等を目的とした各法律(森林法、農地法、廃棄物処理法等)により、開発を規制していました。しかしながら、個々の法令においては、その目的の範囲内で規律されるにとどまることから、盛土等が行われる区域や規模等によって、規制対象とならないものが存在していました。そのため、今般、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制するため、盛土規制法が制定されるに至りました。

⑵ 「スキマのない規制」|規制区域・規制対象の拡大
盛土規制法では、従前、宅地を造成するための盛土・切土を規制対象として、宅地造成工事区域、造成宅地防災区域を指定していましたが、土砂流出等により人家等に被害を及ぼし得る土地を広く指定するため、都道府県知事等が、宅地、農地、森林等の土地の用途にかかわらず、盛土等により人家等に被害を及ぼし得る区域を新たに「特定盛土等規制区域」として指定することができるようにしました。
そのため、盛土規制法では、特定盛土等規制区域を含め、以下の3つの区域を指定できるようにすることで、それぞれに適切な規制を行うことができるようにしました。

① 宅地造成等工事規制区域(盛土規制法第10条)
基本方針に基づき、かつ、基礎調査の結果を踏まえ、宅地造成、特定盛土等又は土石の堆積に伴い災害が生ずるおそれが大きい市街地若しくは市街地となろうとする土地の区域又は集落の区域であって、宅地造成等に関する工事について規制を行う必要がある区域
※同区域での規制が同法第11条~第25条で規定

② 特定盛土等規制区域(同法第26条)
宅地造成等工事規制区域以外の土地の区域であって、土地の傾斜度、渓流の位置その他の自然的条件及び周辺地域における土地利用の状況その他の社会的条件からみて、当該区域内の土地において特定盛土等又は土石の堆積が行われた場合には、これに伴う災害により市街地等区域その他の区域の居住者その他の者の生命または身体に危害を生ずる恐れが特に大きいと認められる地域
※同区域での規制が同法第27条~44条で規定

③ 造成宅地防災区域(同法第45条)
基本方針に基づき、かつ、基礎調査の結果を踏まえ、この法律の目的を達成するために必要があると認めるときは、宅地造成又は特定盛土等(宅地において行うものに限る)に伴う災害で相当数の居住者等に危害を生ずるもので発生のおそれが大きい一団の造成宅地の区域であって政令で定める基準に該当する区域

※同区域での規制が同法第46条~第48条で規定
また、規制対象(都道府県知事等の許可の対象)に農地・森林の造成や土石の一時的な堆積も含めることで、宅地造成等の際の盛土のみならず、土捨て行為や一時的な堆積についても規制が及ぶようになりました。
もっとも、いずれの区域についても、どのように指定、施行、解除されるのかという点は明らかになっておらず、注視する必要があります。

⑶ 盛土等の安全性の確保
そして、盛土等を行う区域の地形・地質等に応じて、災害防止のために必要な許可基準を設定したうえ、許可に当たっては土地所有者等の合意、そして周辺住民への事前周知(説明会の開催等)を要件化しました。また、このような許可基準に沿った安全対策が行われているか確認するため、施工状況の定期報告、施工中の中間検査、そして工事完了時の完了検査を実施するものとしました。
国土交通省「盛土規制法の概要」参照
これらによって、許可時点できめ細やかな審査を行うのみならず、実際の施工に際しても、その安全性を確保できるように整備されました。もっとも、個別の事案において当該許可基準を満たしているか否かの判断は、技術的基準としては不十分な点もあり、現時点においても問い合わせをいただいているところで、今後の課題になろうと感じております。

⑷ 責任の所在の明確化・実効性のある罰則・措置
施工後においても土地の適正な管理が行われるよう、以下のように、管理責任の明確化・機動的な是正命令・実効性のある罰則を定めました。

ア 管理責任の明確化
盛土等が行われた土地について、土地所有者等(管理者、占有者を含む)が常時安全な状態に維持する責務を有することを明確化しました。

イ 機動的な是正命令
災害防止のため必要なときは、土地所有者等だけでなく、原因行為者に対しても是正措置等を命令できるようにしました。これにより、当該盛土等をおこなった造成主や工事施工者、過去の土地所有者等も、原因行為者として是正命令の対象になりうることになります。

ウ 実効性のある罰則
罰則が抑止力として十分に機能するよう、無許可行為や命令違反等に対する懲役刑及び罰金刑について、条例による罰則の上限(懲役2年以下、罰金100万円以下)より高い水準に強化しました。
国土交通省「盛土規制法の概要」参照

3.今後の事業活動における留意点
盛土規制法については、上記のとおり、全国一律での包括的な規制が及ぶよう規定する一方で、その具合的な判断基準等は政令・主務省令に委ねる等していることから、今後その内容を注視する必要がありますし、その内容によっては実際の判断に悩むケースが出てくることも想定されますので、適宜ご相談いただければと存じます。