シンガポール法律コラム:第2回 シンガポールと日本の憲法の違いについて
「シンガポール法律コラム:第2回 シンガポールと日本の憲法の違いについて」と題したニュースレターを発行いたしました。シンガポール法律コラムは、今後も連載の予定となります。
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シンガポール法律コラム
第2回 シンガポールと日本の憲法の違いについて
2023年9月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎
みなさん、こんにちは、One Asia Lawyers Group(Focus Law Asia LLC)です。今回は、国を形作る根本の法律である「憲法」について、シンガポールと日本の憲法を比較しながら説明いたします。みなさんは「憲法」についてどのような印象を持っていますでしょうか。日本人であれば幼い頃から、「最も重要な法律で、絶対に守らなければならない存在である」と学校で教わってきたかと思います。シンガポールにおいても「憲法」は国を支える基本法として存在しており、シンガポールがマレーシアから独立した1965年に制定されました。
日本とシンガポールの憲法には共通点もあります。例えば、日本と同じくシンガポール憲法には、国民の基本的人権を守るための条文が書かれており、シンガポール憲法14条には、”Every Citzen of Singapore has the right to freedom of speech and expression「全てのシンガポール市民は言論と表現の自由を有する」”と記載されています。(もっとも、シンガポールにおける報道に対する規制について、国境なき記者団[Reporters Without Borders]による2023年度の世界報道自由度ランキングでは180か国中の世界129位[日本は68位]でした。)
日本国憲法とシンガポール憲法の大きな違いの一つは、その改正方法にあります。日本における「憲法」は、国民の権利・自由を国家権力から守る法律であり、日本の最高法規に位置付けられています。戦後日本は、第二次世界大戦の反省をふまえ、私達国民の権利や自由を奪う「国家」を縛り付ける役割を持つ「憲法」を作りました。このような経緯もあって、日本では憲法を改正するためには、「各議院の総議員の3分の2以上の賛成と、国民投票による過半数の賛成」という厳しい要件を満たすことが求められています(日本国憲法96条)。このように、日本において憲法を改正するための手続きは非常に厳格であり、制定されてから今に至るまでの77年間、一度も改正されたことがありません(改正が難しいことから「硬性憲法」といいます)。
他方、シンガポール憲法においては、憲法改正を行うためには「国会議員のうち3分の2以上の賛成」のみが要件となっており、(日本とは異なり)国民による投票は必要ではありません。そして、現在の議席では与党が83議席であるのに対し、野党が10議席になっており、政権与党のみで憲法改正ができる状態が続いています。そのため、シンガポール憲法は、政府が憲法を比較的容易に改正することができるいわゆる「軟性憲法」となっており、制定以来、今現在に至るまでなんと52回もの憲法改正が行われています。
例えば2022年には、憲法において「結婚に関する定義は、国会によって決定される」という内容に改正されました。これはシンガポールにおいて男性間性交渉が合法化されたことを受けた改正であり、この憲法改正によりシンガポールでは、たとえ裁判所が同性婚を認める旨の判決が出したとしても、国会が結婚の定義を変更しない限り、同性婚は認められないとされています。
今回は、国の根本となる法律である「憲法」の仕組みについて見てきましたが、これだけをみても日本とシンガポールの法律の根本となる考え方がいかに異なるかがわかると思います。
※本稿は、シンガポールの週刊SingaLife(シンガライフ)において掲載中の「シンガポール法律コラム」のために著者が執筆した記事を、ニューズレターの形式にまとめたものとなります。