グローバルビジネスと人権: モデル契約条項2.0 (2) 発注者側の責任に関する発注者調達規範
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グローバルビジネスと人権: モデル契約条項2.0 (2)
発注者側の責任に関する発注者調達規範
2024年7月
One Asia Lawyers Group
コンプライアンス・ニューズレター
アジアESG/SDGsプラクティスグループ
1 はじめに
ビジネスと人権に関する問題を契約の観点から読み解く本シリーズ第2回では、発注企業側の責任に関する発注者の責任ある調達行動規範(以下「発注者調達規範」)を取り上げる。
MCC 2.0は、発注企業に有利に定められた契約条項のみではビジネスと人権の問題に対して十分な対応ができないという反省のもと、発注企業側にも、その契約上の権利等の行使に当たって遵守すべき発注者調達規範を定めている。
このように発注企業に対して、サプライヤーに対する十分な配慮をするよう定めることは、ESG条項を契約に導入にするにあたって、競争法的観点からもその有効性を基礎づける一助となると思われる。
企業は、ESG条項を導入するにあたり、以下の発注者調達規範を踏まえ、各企業の実情に応じて導入を検討することが望ましい。
2 全体の構成
発注者調達規範は、以下の6つのパートによって構成されている。
1. 発注企業のコミットメント
2. サプライヤーの選定
3. 契約の交渉
4. 契約の履行及び更新
5. 人権侵害に対する是正措置
6. サプライヤーとの契約解消及び責任ある撤退
3 各論
(1) 発注企業のコミットメント
発注企業のコミットメント(Institutional commitments)は、発注企業による、企業としての人権尊重義務の理解及び人権デューデリジェンスの実施に対する宣言を含む。これには、発注企業自らが、その管理職や取締役会を通じて、その履行状況を監督し、責任を負うことの宣言も含まれている。
また、かかる発注企業としての宣言を踏まえ、発注者が、そのサプライチェーンでの人権擁護を向上するよう、サプライヤーと協力すること、及びサプライヤーを公正かつ尊重をもって扱うことの宣言が含まれている。
(2) サプライヤーの選定
ここでは、サプライヤーの選定にあたって、発注企業が、サプライヤーの人権擁護に関する履行能力も考慮するとされている。
さらには、サプライヤーが自らの取引関係にも発注企業の人権基準を適用する義務があり、これに応じた関連情報の提供義務が定められている。
(3) 契約の交渉
ここでは、発注企業がサプライヤーとの契約交渉を行うにあたっての行動規範が定められている。この点においてまず重要な点として、発注企業が生産上の要件よりも人権尊重に関する要件を優先することの宣言がされていることを指摘しておきたい。そのうえで、発注企業はサプライヤーからの質問や条件交渉を契約に対する拒否として扱うことなく交渉機会を与えることが定められている。
具体的には、契約価格が人権上の順守義務を履行するためのコストを支弁するに足りるものであるようにすることや、納期によって過剰な労働を引き起こさないようにするとともに、正式な契約書にまとめることとしている。
(4) 契約の履行及び更新
契約の変更について、発注企業側がサプライヤーに過剰な労働やコスト負担をもたらさないよう、指示内容の変更を行わないようにするとともに、行う場合はこれらのコスト増に十分配慮することが規定されている。
契約期間中の納期の変更や原材料コストの高騰に伴う価格変更については、サプライヤーと協議することも規定されている。
また、発注企業がサプライヤーと、発注企業側の調達行動が人権に与えている影響について情報交換を行うとともに、サプライヤーに対して物質的、実践的支援を提供することとされている。
また、発注企業は、契約上の人権擁護義務の遵守状況を評価するための指標を設定し、契約の締結、更新、又は解除する際の判断の一助とするとしている。
(5) 人権侵害に対する是正措置
発注企業は、国連指導原則の定める基準を満たした苦情処理メカニズムを導入することが定められている。
人権侵害が発生した場合、又はそのリスクがある場合、発注企業は、サプライヤーと根本原因を特定するとともに、是正措置に加わる。
(6) サプライヤーとの契約解消及び責任ある撤退
発注企業が人権への悪影響を原因としてサプライヤーとの契約関係を解消しようとする場合、発注企業は責任ある撤退を行うとともに、当該撤退は最終手段としてのみ行うこととされる。ここで、責任ある撤退のために、発注企業は、当該撤退によって生じうる悪影響や自らの取引の量も考慮するとともに、ステークホルダーとの対話を行い、合理的な期間を定め、必要な支払いを完了するなど、不利益を最大限緩和することとされている。
(以上)
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